エピソード 2ー10
円環都市アーク=ノードの第四環。防衛ブロックと呼ばれる都市を取り巻く巨大な壁は、本来であれば外敵から都市を守る役割を果たしていた。
だが、いまは都市の内部で野生化した魔法生物が外に出さないための防壁となっている。
つまり――目的地である第二環には多くの魔法生物が存在しており、そこへと続く第三環、民生ブロックにも、第二環を追われた魔法生物が徘徊している。
幸いにも、第三環でははぐれの小物としか遭遇しなかった。だが第二環へと入ってすぐ、エリート個体が一体、物陰から飛び出してきた。
「私がやるのよ」
言うが早いか、レーネは魔装の冥響を展開。死神の鎌のような形状をしたそれをクルクルと振り回してから構え、エリート個体に相対する。
魔法生物は様々な形状をしているが、今回の相手は全長が二メートル強、白い鉱石で作った四足歩行の獣の彫像のような姿をしている。
その魔法生物が雄叫びを上げ、レーネに対して警戒態勢を取る。
「レーネ、個体のレベルが高いかもしれない、十分に気を付けろ」
作中の魔法生物にはノーマル種の他に、エリート個体、アルファ個体、災厄種などが存在する。
それらはノーマル種が進化するのではなく、生まれたときからその名が付けられる。代わりに、長生きした個体ほど強い。ゲーム的にいうとレベルが高い敵になる。
そういう高レベルの魔法生物は総じて、人の手が滅多に入らない――たとえばそう、第二環なんかに出現する。これが、ゲーム上の仕様だった。
「言われなくとも分かっているのよ!」
レーネは冥響を下段に構えて、エリート個体に接近する。
エリート個体は甲高い声を発してレーネを迎え撃ち、カウンターで前足を振るう。
その巨体から放たれた前足がレーネに吸い込まれる――寸前、彼女は優に自分の身長以上の高さを飛んでその一撃を回避、着地した彼女は一気に距離を詰め――冥響を横薙ぎに振るった。
ザンとこぎみよい音が鳴り、鉱石のような見た目の――下手な金属よりも硬いはずのその身体を両断、エリート個体を一撃の下に葬り去った。
圧倒的な戦力。
キャラとモチーフ武器、その両方を完凸しているだけのことはある。
周囲から軽い歓声が上がる――が、あらたに複数のノーマル種やエリート個体、それに指揮を取ることが確認されているアルファ個体が現れた。
さすがに、その数をレーネ一人でさばくことは出来ない。
味方はすぐに交戦状態に突入した。
レーネが冥響を振り回し、リーシアもまた斬撃モードの緋響で接近戦を仕掛ける。
ほかの魔装部隊の面々も、大半がMAHS患者である。レーネやリーシアほどではないけれど、全員が優れた身体能力の持ち主で、彼らは魔法生物を相手に善戦を繰り広げる。
対して治安維持部隊は苦戦気味だが、隊長であるリアナがそれを補っている。そうして見方が敵を蹂躙する様子を見守っていた俺は、セフィナの安全を守るべく彼女の側に寄った。
「セフィナ、大丈夫か?」
「……ええ。実戦を間近で見る機会は少ないけれど、私だってヴェルターラインの一員よ。この程度の戦闘で怯えたりはしないわ」
セフィナの顔はわずかに強張っているが、それでも怯えた様子はない。この分なら大丈夫そうだなと思いつつ、俺は少し話題を提供することにした。
「セフィナは、MAHS患者の治療ポットが本当に存在すると思うか?」
「……残念ながら、それはないでしょうね」
セフィナはそう言ってわずかに顔を曇らせた。
「意外だな。あると思っているから同行したんだと思っていたが」
「いいえ、私があると思っているのは別の機械よ」
「それは……どういう意味だ?」
「いい? アーキライン文明には、MAHS感染者なんて言葉はなかったの。なのに、その治療ポッドがあるなんて話、貴方は信じられるの?」
「……MAHS感染者って言葉が、ない?」
あぁそうだ。
どうして忘れていたんだろう。
ソシャゲのプレイヤーだった俺は、それが事実であることを知っている。
「アーキライン文明では、ハーモニア適正者と呼ばれているんだったか?」
「あら、よく知っているわね。ええ、その通りよ。適正者という言葉から分かるとおり、当時は病気扱いされていなかった。なのに、治療するポッドがあると思う?」
「それは、たしかにな。だが、適正者と言うくらいなら、調整する機械があるかもしれないだろ」
「ええ、そうね。調律術式と同じような効果を持つ装置なら見つかるかもしれないわね」
「……それが、セフィナが同行を申し出た理由か?」
「いいえ、私が想定しているのはもう一つの可能性よ」
もう一つの可能性という言葉に、俺は意味もなく不安を覚えた。同時に、カティアから忠告された、ノクサリオン侯爵の思惑についての話が脳裏をよぎる。
カティアが、ノクサリオン侯爵が治療ポッドの回収を考えるのは不自然だと言っていた。だとしたら、セフィナのいう可能性こそが、ノクサリオン侯爵の目的なのかもしれない。
ならばと、セフィナからその可能性について問いただそうとした瞬間――
「マスター、アスペリアの部隊に包囲されています」
リーシアから最悪の報告が届いた。




