エピソード 2ー9
戦闘終了後、治安維持部隊と合流したが、周囲には硝煙と血の匂いがかすかに漂っている。大きな被害はなさそうだが、負傷者は何人も見受けられた。
「セフィナ、負傷した者達の治療を頼む」
「ええ、もちろん」
俺はセフィナに支援の指示を出し、それから部隊の中心で指揮をしている隊長に視線を向けた。
……あぁ、やっぱり彼女だったか。
指揮を執っているのはブリーフィングルームで作戦を話していたリアナ・グランツ。プラチナブロンドの髪をポニーテールにした高身長の彼女は、青く澄んだ瞳で常に周囲を目に掛けている。
子爵家の娘でありながら、実力で実働部隊の隊長になった。MAHS患者ではなく、俺と同じエーテルギアを使用しながら、他のユニットと同レベルの戦闘力を誇るエリートである。
つまりはガチャキャラ。
当然のように、好感度は最大で――課金指輪もプレゼント済みだ。
とはいえ、異なる組織に所属する俺と彼女の接点は少ない。毎回のように期間限定イベントでミッションをともにしているが、基本はそれだけである。
好感度イベントでも、戦場で任務を共にするシーンがメイン。指輪を渡すときも、戦場で本隊とはぐれ、二人で戦場から帰還するときに指輪を渡す、という内容だ。
なので、ユニットとして使用は出来るが、設定的には別組織の知り合い、くらいの感覚――なんだけど、これまでのパターンから、俺と肉体関係にある可能性が捨てきれない。
……ふむ。
敵の包囲網の中で、高身長のスレンダーなクールビューティーと……か。
映画でありそうなパターンだが……もしそうなら、おまえ、もうちょっと自重しろ?
いや、いまは俺がレンなんだけどさ。
――と、そんなことを考えながら、俺はリアナの元へと歩み寄った。俺達に気付いた彼女は仲間に短くなにか指示を出すと、出迎えるように近付いてきた。
「さきほどの援護はレン、おまえの部隊か。助かった、感謝する」
「これから同じ任務をする者同士だ、気にしなくていい」
「ふっ、そうだったな」
リアナは素っ気なく言い放ち――だけど、声には出さずにありがとうと唇を動かした。クールビューティーのお姉さんが、俺にだけ親しげとか、すっごい嬉しい状況だけど修羅場が怖い。
そんなことを考えながら、治安維持部隊の治療が終わるのを待った。
それからほどなく、治安維持部隊の治療は完了。そのあいだにリーシアがリアナと話し合いをおこなって部隊を再編、両部隊のエリートを集めたチームで先陣を切ることとなった。
目的地は、アーク=ノードの第二環。
まずは、塀の中にある第四環を目指し、第五環のスラム街を歩く。
ヴェルターラインはもちろん、セレスタリアの都市も日本と変わらぬ技術を誇っている。だが、このスラムは、それよりもずっと前、戦前のような有様だ。
その街に住む人々の様子を見ていたリアナがわずかに眉を寄せた。
「この辺りはいつ見ても酷い環境だな」
「あら、そう思うのなら、評議会が支援をして上げればいいじゃない。ここで暮らす人々の大半は、セレスタリアで行き場を失った人々のはずなのよ」
レーネがとげとげしい言葉をぶつけた。
「……そうだな。だが、評議会にも事情はあるんだ。ここはセレスタリアの都市ではないからな」
セレスタリアにいられなくしておいて、出て行ったのだから支援の対象外だと言い放つ。その言葉にレーネは食ってかかろうとした。
それに気付いた俺は「レーネ」と声を掛ける。
「……なによ?」
「いまのは評議会の総意だ。彼女に食ってかかっても意味はない。それに、スラム街の連中に支援をしていないのは、俺達ヴェルターラインも同じだ」
「それは……そうね。……食ってかかって悪かったのよ」
レーネは不満げながらも謝罪を口にして、プイッとそっぽを向いた。
俺は肩をすくめ、リアナに――というよりは、いまのやり取りで不満を抱いた、彼女の部下の不満を取り除くために「すまなかったな」と謝罪する。
それが分かっているのか、リアナもまた「いや、こちらこそ不用意だった」と言った。
「私が疑問に思ったのは、ここが旧文明の再開発ブロックだからだ。他のブロックと同様に朽ちているのは分かるが、それを加味しても荒れていると思ってな」
「あぁ、そういう意味か……」
現代日本と同等の技術を持つ、いまよりもずっと文明が進んだ時代。その都市の外周なのに、元から廃墟だったように見える理由――つまりゲームの設定を俺は知っている。
「壁の外は、アーク=ノードの頃からスラムだったんだ」
「そうなのか? だが、再開発ブロックという名前なのだろう?」
「……よくあることだろう? いつまでも再開発されない、再開発ブロック、なんてのは」
むしろ、スラムだからこそ、そこに住んでいた人々を追い出すための再開発だった可能性もある。なにしろ、旧文明のスラムで暮らしていたのは、劣等種扱いされていた人類だから。
余談だが、この辺りの詳細は明らかになっている訳ではなく、断片的にしか語られていない。恐らく、今後明らかになっていく裏設定の一つだったんだろう。
……ゲームを楽しむことはもう出来ないけれど、世界の真相は、いまからでも知ることが出来るはずだ。だとしたら、少しだけ楽しみかもしれない。
そんなことを考えながら、俺達は第四環へと続く壁を越えた。




