エピソード 2ー6
「マスター、服を選ぶのを手伝ってくださいますか?」
店に入るなり、リーシアがそんなことを言う。
「俺はかまわないが……」
レーネはと視線で問い掛けると、「私も後でお願いするのよ」と言った。という訳で、俺はリーシアに腕を引かれながら、春服が並んでいるコーナーへと足を運ぶ。
俺との買い物が楽しいのか、リーシアはあれこれと見てははしゃいでいる。そうして、しばらくすると、候補を二つにまで絞った。
「このワンピース可愛いですよね。でも、こっちの肩だしのブラウスに、膝上丈のスカートという組み合わせも捨てがたいです」
「そうだな。可愛い感じのリーシアもいいが、少し大人びた服を着たリーシアもいいと思うぞ」
可愛いのはリーシアのイメージ通り。そして大人びた服は、純粋な女の子が彼氏のために背伸びしている感があっていいと思う。
俺がそんなふうに考えていると、リーシアは少しだけイタズラっぽい顔をした。それから、ワンピースと、ブラウスとスカートのセット、それぞれを身体に当てながら囁くように言う。
「マスター、どっちの服を着た私としたいですか?」
破壊力がありすぎて死ぬかと思った。
正直、どっちのリーシアともしたい。いや、違う。なんで着衣前提なんだよ。あれか? 初めてが屋上だったから性癖がゆがんじゃった感じ?
いまも脳裏に映る、馬乗りになるリーシアの姿。レンに転生する前の記憶の大半は霞がかかっているのに、その光景だけはバッチリ覚えてるんだよな。
でも、出来ればイベント再生機能が欲しかった……いや、なんでもない。
だが、俺はリーシアとそういう関係だ。
自分の意志でそうなり、責任も取るつもりだ。なんら憚ることはない。
「俺は、そっちのブラウスとスカートの方が好きかな」
「……するのが、ですか?」
イタズラっぽい顔で聞いてくる。だが、それは少女のそれではなく、紛れもなく大人の顔だった。俺は生唾を呑み込みつつ、「ノーコメントだ」と答えた。
リーシアは笑って、「じゃあこっちを買ってきます」と笑う。
そして彼女がレジに向かった――直後。
「マスター、今度は私のを選んで欲しいのよ」
レーネに呼ばれ、今度はそちらに足を運んだ。だが、彼女が待つ場所をまえに、引き返したくなった。レーネの案内する先が下着売り場だったからだ。
だが、俺が足を止めた瞬間、それを見透かしたかのように「早く来るのよ」と腕を引かれた。彼女の胸に抱き寄せられ、戦闘服越しに胸の柔らかさが伝わってくる。
俺は渋々、いや、ホントに渋々である。レーネに引かれるがままに足を運んだ。
そうして下着売り場に到着すると、彼女は真っ黒な紐で結ぶタイプの下着と、白いシルクの下着を手に取った。そして、そのうち白いシルクの下着を、自分の胸と下半身に添えてみせる。
「マスター、どっちの下着を脱がしたいか選べ、なのよ」
なんで脱がすの前提なんだよ! と、喉元まで出掛かった突っ込みは全力で呑み込んだ。そんなのを大声で叫んだら、確実に周囲から好奇の視線を向けられる。
リーシアとのやり取りが店員に聞こえていたかは不明だが、ここにいるのは全員がヴェルターラインの関係者だ。もし二人との会話が聞かれていたら俺は確実に破滅する。
俺は思いっきり声を潜め、「彼氏面するなって言ってなかったか?」と半眼になる。
「……たしかに言ったのよ。でも、だからって、なかったことのように振る舞われるのは、それはそれでむかつくのよ」
「……ごもっともで」
正論過ぎてぐうの音も出ない。
そうだよな。現在三人の女の子に手を出していて、そのうちの一人が『彼氏面しないで』っていったから、その言葉に甘えていたけど……冷静に考えたらあり得ないな。
でも、リーシアとは積極的にそういう関係だし、セフィナとは酔った勢いで関係を重ねてしまった。この上レーネとか……どうすればいいんだ?
正直、セーブしてから全員のルートを楽しみたい! なのに、なんで複数のルートを同時に攻略しないとダメなんだよ、現実は理不尽だな!
……いや、三股してる俺が悪いんだけどさ。
半分くらいは不可抗力じゃん?
俺、あんまり悪くないよね?
「とにかく、どっちの下着を脱がしたいと思うのか教えろ、なのよ」
「……そうだな」
修羅場のことは先延ばしに、ひとまず目の前のピンチを切り抜けようとレーネに視線を向けた。
ドレス風の戦闘服の、豊かな胸の部分にブラが、そして下腹部にはショーツが添えられている。
なんか……こういうの、エロマンガとかであるよな。脱がした下着を服の上に添えて……みたいな。
「マスターがいまなにを考えているか、私が当ててあげるのよ」
「なんの、ことだ?」
表情は変えなかった。だが、レーネは見透かしたように嗤う。
「マスターは私の下着を脱がして、服の上に添えているところを想像しているのよ」
「そ、そんな、ことはないぞ」
「そうね、想像ではないのよ。だって――」
レーネが背伸びをして、俺の耳に唇が触れるか触れないかの距離に顔を寄せた。そして、ハチミツを流し込んだように甘い声で、こんな言葉を口にした。
「それは想像ではなく、事実だもの」――と。
最初、なんのことか分からなかった。
でも、はたと気付く。
出くわしたときにレーネが口にした言葉。彼女は俺の腕を掴んで自分の胸に押しつけながら、『私にもなにか言うことがあるはずなのよ?』と言った。
あのとき感じた、柔らかな胸の感触。
「まさか、おまえ……」
ブラを胸に添える行為。従来、それは商品を試着しているだけだ。なぜなら、その服の下には、別の下着が着けられているからだ。
だが、もしも、服の下に下着を着けていなかったのだとしたら……
ゴクリと喉を鳴らし、あらためてレーネに視線を向ける。彼女はドレス風の戦闘服の上に下着を添えて、蕩けるような顔で俺を見つめている。
「マスター、もう一度聞くのよ。どっちの下着を脱がしたいか、教えろ、なのよ」
俺は思わず、レーネがベッドに寝そべっているところを幻視した。
ドレス風の戦闘服姿の彼女は下着を着けておらず、脱いだ下着を胸元と下腹部の辺りに広げて置いている。その下着は、黒いドレス風の戦闘服とは対照的な、白いシルクの下着だった。
それは俺の妄想の産物だ。だが、レーネは俺の視線から察したのか、白いシルクの下着を自分の身体に添えて、小悪魔のように笑う。
そのとき、俺は理解してしまった。俺はきっと、この先に待つ修羅場から逃れられない、と。




