エピソード 2ー4
ヴェルターラインの基地に帰還。
出撃準備が整うまでの一日、俺は束の間の休日を楽しむことにした。
……え? 修羅場がどうなったか? もちろん棚上げである。もはや、どう足掻いても修羅場は逃れられない。ならば、束の間の休日を謳歌するくらいは許されるはずだ。
という訳で、やってきたのはアマリリスのいる病室。彼女はまだ精神状態が不安定だからという理由で入院を続けている。
「アマリリス、元気にしているか?」
「あ、お兄ちゃん! お見舞いに来てくれたの?」
アマリリスはベッドから降りたって、俺のまえまで駆け寄ってきた。そのまま俺に抱きつこうとして、寸前で不安そうに足を止める。
なぜそうしたのかはすぐにピンときた。
MAHS患者は魔力がとても多く、無意識下に身体能力を上げてしまう。つまり、うっかり物を壊したり、人を傷付けたりしてしまうことがある、ということ。
アマリリスはそれを心配している。もしかしたら、既にそういう経験があるのかもしれない。
「大丈夫だ。リストレインを付けている限り、不用意に力を暴走させることはない」
「……ホント?」
「ああ、もちろん。ほら……大丈夫だろう?」
その小さな身体を引き寄せて、自分の身体を掴ませる。アマリリスはおっかなびっくり俺の腰に腕を回し……それから上目遣いで俺をみた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、なんの問題もない。別に俺が頑丈だからとかじゃないぞ。そのリストレインを着けている限り、アマリリスが誰かを傷付けることはないから安心しろ」
「……そっか、そうなんだね」
安堵したようす。だけど彼女はきゅっと唇を結ぶと、覚悟を秘めた顔で俺を見上げた。
「お兄ちゃん、私も戦いたい!」
「セフィナに聞いたが、本気なのか?」
「うん、本気だよ。今度は私がお兄ちゃん達を護るの。それに、いい子にしていたら、早くお母さんが帰ってきてくれるかもしれないでしょ?」
「……そうか」
ここで真実を突きつけたら、アマリリスはまた暴走するかもしれない。だから俺は、「なら、まずは魔装を作るところからだな」と答えを濁した。
アマリリスは魔装という言葉に興味を引かれたようで、「魔装ってなに?」と首を傾げる。
「じゃあ、少し説明をしよう。そこに座ってくれ」
ベッドの縁に座らせ、自分もまたその隣に腰掛ける。それから、携帯していた端末を使って、汎用型の魔装のデータを映し出した。
「アームド・リストレイン。通称――魔装。アーキライン文明の技術を使い、リストレインを兵器として転用した装備だ」
「リストレインって……MAHS患者の暴走を抑える道具、なんだよね?」
「そうだ。対して、魔装はMAHSを活性化させて魔力を引き出す」
「え! そんなことをしたら暴走しちゃうんじゃないの!?」
「暴走しないように調整して魔力を解放するんだ。だが、出力を上げすぎると暴走する可能性はある。戦いに身を投じるのなら、避けては通れないリスクだ」
魔装には何重もの安全装置が付けられている。ゆえに、ユニットとして使用する限り、彼女達が暴走することはない。けれど、ストーリーの中では、何度も暴走して死にかけている。
だから、止めるのならいまのうちだと警告する。
だけど、アマリリスは逃げなかった。
「……それを使えば、私もお兄ちゃん達みたいに戦えるようになるの?」
「そうだな、ちゃんと訓練をすれば」
辛い訓練にも逃げ出さずにがんばれるかと問い掛ける。それに対して、彼女は強い意志を秘めた瞳でまっすぐに俺を見て、それからコクリと頷いた。
「私、がんばるよ」
「……そうか。なら、訓練に参加できるように、リーシアに言っておこう。それから、魔装のタイプを選ぶんだが……」
どれがいいと聞くまでもなかった。アマリリスは俺が広げた資料、その中にあるウォーハンマーに釘付けになっている。それは、ガチャ画面で彼女が装備していた武器だ。
「そのウォーハンマーが気に入ったのか?」
「うん、これを使ってみたい」
「かまわないが……理由を聞いてもいいか」
問い掛けると、アマリリスは少し儚げに微笑んだ。
「お母さんにハンマーの使い方を教えてもらったから」
「……ハンマーの使い方を?」
十歳くらいの娘にハンマーの使い方を教えるって、どういう状況だと首を傾げる。
「お母さんはね、石を砕いて染料を作るお仕事をしていたの。それで私もお手伝いをしてて、そのときにハンマーの使い方を教えてもらってたの」
「……それが、ウォーハンマーを選んだ理由?」
たぶん、アマリリスが言っているのは金槌のようなもの。大きな数十キロもあるウォーハンマーとはモノが違う。そう思ったのだけど、俺はなにも言わなかった。
アマリリスの、強い意志を秘めた瞳を見てしまったから。
「よし、じゃあセフィナに、とっておきの魔装を作るように頼んでおこう」




