エピソード 2ー2
胃薬を飲んだ俺がリーシア達と向かったのは、都市セレスタリアの中枢ある建物。評議会のブリーフィングルームに足を踏み入れると、街の支配者達が揃っていた。
「久しぶりね、レン」
入り口付近で声を掛けてきたのは妖艶な女性。ナチュラルウェーブの赤い長髪が印象的な彼女は、セレスタリアを支配する評議会の一人、カティア・ヴァレンティ伯爵だ。
彼女はガチャに登場したユニットで、好感度を最大にした推しキャラでもある。
表向きの彼女はMAHS患者を排斥する政策を進めているセレスタリア評議会のメンバーでありながら、ヴェルターラインの設立を影ながら手伝ってくれた支援者でもあった。
そんな彼女はMAHS患っている。
彼女はそれを隠しているが、好感度最大イベントではそれを知ることが出来る。
とても魅力的なお姉さんなのだが――そんな彼女を前に、俺は視線を泳がせた。課金指輪を贈っていると言うことは、彼女にも婚約を申し込んだも同然だからだ。
さすがに接点がなさ過ぎて、肉体関係はないと思いたい。だが、支配階層のお姉様キャラと肉体関係にあるとしたら、どうやっても責任問題不可避な気がする。
そんなことを考えながら挨拶を返すと、彼女がなにか言おうとするが――
「レンよ、久しぶりじゃの」
今度は奥の席に座る初老の男から声を掛けられた。セレスタリアを支配する者の一人、ラドクリフ・ノクサリオン侯爵である。
彼は琥珀色の瞳で油断なく俺を見つめている。
「ノクサリオン候、お久しぶりです」
「うむ、そなたも息災のようじゃな。リーシアの嬢ちゃんも元気そうでなによりじゃ。どうじゃ、そろそろわしの愛人になるつもりはないか?」
さらっととんでもないことを口にする。
「申し訳ありませんが、リーシアは渡しません。ヴェルターラインに取って必要な人材ですから」
「おまえには聞いとりゃせんわ。……どうじゃ、嬢ちゃん」
「申し訳ありません。私はマスターの親衛隊ですので」
そう言えばそんな設定もあったなぁ――と、そんなふうに考えていると、ヴァレンティス候は「残念じゃな」と潔く引き下がった。
この爺さん、ものすごい好色だが、同時に有能でもある。
ただし、支配者として有能というのは、決して皆に優しい、という意味ではない。
自分が支配者側であることを理解して、最大幸福のために少数を容赦なく切り捨てるし、自分の権利を脅かす者は容赦なく排除する。そういう非情なタイプの人間だ。
思うところはあるが、この殺伐とした世界では必要な人材と言えるのだろう。
「――ヴァレンティス候、挨拶はその辺にしてください」
「おう、そうじゃったな」
新たな女性の声。その声は、ゲームのボイスで何度も聞いている。視線を向ければ、プラチナブロンドをポニーテールで纏めた凜とした女性、リアナ・グランツが立っていた。彼女は治安維持部隊、特務隊の隊長で、期間限定イベントでは必ずといっていいほど関わってくる。
当初から人気が高く、ほどなくしてガチャキャラとして登場した。プレイヤーが使えるユニットでありながら、MAHS患者ではないという珍しいキャラでもある。
そんな彼女にも、当然のように課金指輪をプレゼントしてるんだよなぁ。
スレンダー系の美女、そんな彼女と――寝たのか? その記憶がなくて幸いなような、残念なような……いやいや、そういう関係になってないのが一番だろ俺!
そんなことを考えているうちに、彼女がブリーフィングを開始する。
「さて、単刀直入に言おう。先日、アーク=ノードの第二環――学術ブロックで探索を行ったところ、とある施設でMAHS感染者の治療用ポッドが見つかった」
その説明に俺は思わず息を呑んだ。
MAHS感染者の治療ポッド。いままでどれだけ望んでも見つからなかった代物――だが、あり得ないとは言い切れない。アーク=ノードとは、アーキライン文明の都市遺跡。現代よりずっと発展した文明で、セフィナが発明したリストレインにもその技術が使われている。
その時代なら、治療ポッドがあっても不思議ではないかもと、リアナの説明に耳を傾ける。
「だが、知っての通り第二環は非常に危険な場所だ。隠密行動だけならともかく、ポッドを持ち帰るとなると相応の戦力がいる」
「そこで、俺達を雇おうというのか?」
問い掛ければ、リアナは「そうだ」と頷いた。
「ヴェルターラインの部隊が敵を排除し、我らが肝心の装置を持ち帰る。これが今回の作戦の概要だ。どうだ、受けてくれるか?」
リアナの問い掛けに対し、リーシアが「どうしますか?」と意見を求めてくる。だが、考えるまでもない。それはMAHS患者に取って必要なものだ。評議会を通してその技術を入手できれば、アマリリスを救うことだって出来るかも知れない。
だから――
「受けてもいい。ただし、条件がある」
「分かっている。治療用ポッドを入手した場合の取り扱いだな。おまえ達に実物を渡すことは出来ないが、必要なデータは提供すると約束しよう」
「そうか、それなら問題はない。その作戦に参加させてもらおう」
こうして、俺達の共同作戦が決まった。
俺は作戦の準備をするために、ヴェルターラインへ帰還――するつもりだったのだが、少しリーシアを別行動を取った瞬間、俺は武装した集団に拉致されてしまった。
そして、連れてこられたのは街外れにある古びた礼拝堂。カティアと密会を交わしたときに使ったことのある場所。この時点で、自分を攫ったのがカティアの部下だと確信する。
なにか、評議会のまえでは話せない情報があるのだろう。
そう判断した俺は彼らの指示に従い、戒告室の中にある秘密の部屋へと足を踏み入れた。その部屋の奥、カティアはソファに座って妖しく微笑んでいた。
「待っていたわよ、レン」
彼女は悠然と足を組み替えた。イブニングドレスのスリットからまばゆいばかりの太ももが見え隠れする。彼女はそれを見せつけているかのようだった。
っていうか……これ、密談でいいんだよな?
女伯爵との秘密の逢瀬とかだったら……どうしよう?




