エピソード 1ー9
――やっちまった。
いままでは俺が憑依する前のレンがやったことだと言えたが、今回は言い訳の余地がない。
だが、あんなのやっちゃうだろ。何年も推していたキャラ、健気で純粋なリーシアからエッチに迫られたんだぞ? あの状況で理性を保てるやつなんている訳がない。
という訳で、お風呂場で二回、その後はベッドの上で三回、さらにもう一回シャワーを浴びながらリーシアを抱いた。
やりすぎ? うるさい、あの状況で我慢なんか出来るか!
積極的なリーシアがエロ可愛くて最高でした。
でも、賢者モードのいまは、後悔と罪悪感で死にそうです。
そもそも、だ。
俺にとってリーシアは推しキャラで、だからこそ彼女の人柄をよく知っている。そんな彼女と実際に触れ合って、好意をこれでもかとぶつけられた。
我慢するなんて不可能だ。俺はとっくに彼女を特別な存在だと思っている。
つまり、どれだけ身体を重ねても問題はない。リーシアの他に、少なくとも二人と肉体関係になっていなければな!
何度も言うが、俺はハーレムモノが好きだ。でも、自分がハーレムを目指したいとは思わない。現実でハーレムはあり得ないし、浮気だって最低だと思う。
だからこそ、責任を取らなくちゃいけない。本来なら抱いた責任を取って添い遂げるべきなんだけど……複数人を相手にそれは出来ない。
ならば、せめて関係を精算するべきだと覚悟する。そうして、リーシアを部屋に送り届けた俺は、その足でセフィナの元へ向かった。
彼女は医務室のソファに座り、一人でお酒を飲んでいた。
「あぁ……マスター、来てくれたのね」
俺に気付くと、セフィナは少しろれつの回らない口調でそう言った。
……こいつ、辛いことがあるとお酒を飲む設定なんだよな。
「なにがあったんだ? アマリリスのことで相談があるとか言ってたが……」
「アマリリスがね、戦いたいって言うの」
「戦う? なら、まずは訓練をさせてみたらどうだ?」
アマリリスはピックアップキャラなので、戦闘の才能があるのは間違いない。とはいえ、12歳の子供を戦場に送り出すことには抵抗がある。
なので、訓練をさせて様子を見るのはどうかという提案。だけど、セフィナは辛そうな顔をしながらグラスの中身を飲み干した。
「動機が問題なのよ。あの子、がんばっていい子にしていたら、お母さんは喜んでくれる。そしていつかきっと、お母さんが帰ってきてくれるって、そう言っているのよ」
「…………は?」
最初、違和感の正体を理解できなかった。
だけどすぐに理解する。アマリリスの母親はもう死んでいる。
「……どういうことだ? 彼女は、母親が死んだことを理解していただろう?」
「あのときは、ね。つまり……受け入れきれなかったのよ」
「だから、母親が死んだことを忘れた、と?」
そんなことがあり得るのかと問う俺に対し、セフィナは幼い子供が大きなストレスを抱え、現実から目を背けることは珍しくないと答えた。
たしかに、今作のユニットにも、そういうキャラは少なくない。
「……このまま放置したらどうなる?」
「たぶん、少しずつ心が壊れていくわ。だから、そのまえに現実に引き戻す必要があるわ」
「だが、そんなことをしたら……」
「ええ。また暴走するでしょうね。そして、今度は戻ってこれないかもしれない」
どちらにしても絶望的だと唇を噛む。
「彼女を救う方法はないのか?」
「そうね……精神を鍛えれば、現実を受け止められるようになるかもしれない。もしくは、リストレインの安定性をいまより向上させることが出来れば……」
その言葉にピンときた。
アマリリスの母親が亡くなったのは、新章PV中の出来事だった。であるならば、アマリリスが現実逃避をするのは、彼女のエピソードとして予定していたことかもしれない。
であるならば、ここから救う方法も用意されているはずだ。
たとえば、都合よく、リストレインを強化する方法が見つかる、とか。
「セフィナ、リストレインの安定性を向上させる方法はあるのか?」
聞き返すと、セフィナは小さく頷いた。
「知っての通り、リストレインはアーキライン文明の技術で、貴方の調律術式を再現した機械よ。未知の部分も多いから、改良の余地はあるわ」
「なら、その改良の方法にあてはあるか?」
「残念だけど、それが可能ならとっくにやってるわ」
「……そうか」
あてが外れたか?
……いや、時期が来ていないだけかもしれない。
この件については、ひとまず様子を見るとしよう。
「出来るだけでいい。リストレインの改良を試みてくれ」
「……ええ、もちろん、出来る限りのことはするわ」
セフィナが力強く頷いた。それから思い出したように、「それで、あの子の願いだけど……どうするのがいいと思う?」と問い掛けてくる。
「さっきも言ったが、ひとまず訓練だけさせてみたらどうだ?」
「訓練で適性を見つつ、精神的な成長を促す訳ね。……そうね、私もそれがいいと思うわ」
セフィナはそう言って少しだけ愁いを帯びた笑みを浮かべた。
「心配するな。いつか戦場に出ることになっても、俺があの子を死なせない」
それはChord MAHSのプレイヤーキャラ、レンの役割で――だから、いまの俺の役割でもある。
俺がどうしてレンに転生したのかは分からない。
けれど、この世界で生きていくのならみんなを護りたい。推しキャラはもちろん、仲間は誰も死なせたくない。そのためにも、不和の原因は取り除いておくべきだ。
「セフィナ、少し話がある」
「……そう。なら飲みながら話しましょう」
セフィナはそう言って新たなロックグラスを取り出した。テーブルの上にはアイスペールとウィスキー。ウィスキーのラベルには見覚えがあった。
俺がガチャで手に入れた家具の一つ、お酒を並べたラックに並んでいた。
家具の説明には、最高級のお酒を取りそろえたラック――とか書かれていた。恐らく、転生前の俺では一生飲む機会のないようなお酒だろう。
……あれって、飲んでも減らなかったり……するんだろうか?
「どうかしたの?」
「いや、ずいぶん高級品だと思ってな」
「あぁこれ? 最近はヴェルターラインも有名になったからね。取り引きもしやすくなったの」
なるほど、現実では仕入れていることになってるのか。
「もしかして嫌だった?」
「そんなことはないが、飲む前に少し真面目な話をしたい」
姿勢を正すと、セフィナはグラスをテーブルに置いて座り直した。
これから彼女に告げる内容を考えると胸が苦しくなる。でも、現実的に不義理な状態を続ける訳にはいかない。俺はケジメを付ける覚悟を胸に、セフィナに向かって口を開いた。




