表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

SF作家のアキバ事件簿239 ミユリのブログ 廃人寸前

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第239話「ミユリのブログ 廃人寸前」。さて、今回も秋葉原がアキバになる寸前のミレニアムの頃が舞台のスピンアウトです。


秋葉原の地下で"覚醒"したスーパーヒロインを狩る謎組織の魔の手がのびる中、時空断層"リアルの裂け目"を呼び込むビーコンを見つけた主人公達ですが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 標的(ターゲット)


「2番テーブル、出来たわ!」


キッチンでベルを鳴らすマリレ。ホールで忙しなくお給仕中のミユリさんとスピアが同時に振り向く。


「お待たせ!さぁ冷めない内に出してね…でも、もうバーガーを焼くの飽きたンだけど」

「何、言ってンの?"時間ナヂス"の御屋敷(メイドカフェ)が廃業して失業メイドになったのは誰?」

「あ。テリィ様だわ…」


御屋敷(トラベラーズビクス)のヲーナーでもある僕が御帰宅。メイド長のミユリさんの顔がパッと輝く。満面の笑み。


「スピア、お願い。2番テーブルだから」


月面を模した炒飯の上に日の丸の旗が立っている"月面バーガー"をスピアに推しつけ僕に駆け寄る。


「おかえりなさいませ、テリィ様!」

「おはよう、メイド長。気分はどーかな?」

「絶好調ですぅ」


キッチンでウンザリ顔のマリレ。僕と一緒に御帰宅したエアリに至ってはアカラサマにソッポを向く。


「…うらやましいわ」


ボソッとコボすスピア。己に正直なだけだが信じられないと逝う顔で詰め寄るマリレ。2人は百合だ。


「あんなのが羨ましいの?」

「あのね。マリレも少しは見習って。私もウットリ見つめ合ってトロけるようなキスしたーい」

「冗談でしょ?」


一蹴するマリレ。一方、ミユリさんは…


「テリィ様。今から出れば7時35分のプラネタリウムに間に合いますけど」


僕の胸にすがるようにして両手を這わす。上目遣いで見上げ必殺おねだりモードだ。怒り狂うエアリ。


「テリィたん!私達、食事しに来たのょね?」

「うーんミユリさんとプラネタリウムを見に逝こうかとも思ふのだょ朕は」

「ダメだコリャ」


溜め息をつきカウンターにお一人様でメニューをパラパラめくるエアリ。ソレを横目にミユリさんは…


「スピア。私、もう上がるから」


そう逝って猫耳カチューシャをカウンターに置く。


「はいはい、どうぞ」

「ありがと。テリィ様、を・ま・た!」

「あぁアレこそ完璧な恋人同士だわ」


僕が未だメイド服のミユリさんの肩を抱くとスピアはまたまた溜め息。見かねたマリレが耳元で囁く。


「大丈夫。私達の方が上だから」

「なんで?」

「あの2人と違って、私達には、いつでも2人きりになれる部屋がアルでしょ?」


スピアの顔がパッと輝く。その時…


「ねぇ。そろそろオーダーとってよ」


カウンター席から声をかけるエアリ。


「ごめんなさい。もう上がりなの!」


マリレとスピアは異口同音で答えるや否や先を争うようにバックヤードに消える。エアリは天を仰ぐ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


首都高1号上野線に出来たアキバPA。ケッテンクラートのシートを倒してミユリさんとお楽しみ中だ。


「…テリィ様。プラネタリウム、見に逝かなくても良いの…かしら?」

「今、ミユリさんと逝う宇宙を見ている」←

「ああっテリィ様…」


喘ぎながらも余裕のミユリさん…その時!


「貴女達に危険が迫ってるわ!」


僕達をライトで照らし金髪?女子が叫ぶw


「だ、誰?」

「トポラ?SATOエージェントのトポラか?」

「危険が迫ってるって、何の話?」


南秋葉原条約機構(SATO)は、最近よく名を聞く謎の組織で時空断層"リアルの裂け目"と関係があるらしい。


「貴女達に危険が迫ってる!命を守るために秋葉原のヲタクのように振る舞うのょ!OK?」

「OKも何も最初からヲタクだけど…何の話?」

「私は尾行されてる。もう行くわ。誰も信じちゃダメ。必ずまた連絡スルから!」


何かに怯えたように振り向くトポラ。ヨレヨレのパーカーに髪はボサボサ。ホームレスみたいな風貌。


闇の中へ走り去る。


第2章 トポラ・トホラの残像


「マリレ、大好きょ!」

「…あぁスピア!」

「うーんテリィたん!」


百合中にスピアが僕の名を叫び相方のマリレはピタリと動きを止める。スピアの視線の先を振り返る。


「何なの?テリィたん、何で私のアパートに?」

「急用ナンだ」

「悪いわね、お楽しみ中なのに…マリレ、万貫森に行ったらトポラが現れたの」


僕の後からミユリさん(メイド服だけど猫耳カチューシャなしw)が続く。さすがに抗議するスピア。


「姉様。プラネタリウムに行ったんじゃないの?」

「評判が良くないからヤメたわ」

「トポラは金髪のカツラをかぶっててホームレスのコスプレをしてた…ってか、マジでホームレスなのカモしれない。臭かったから」


簡潔に報告スル僕。ミユリさんが続ける。


「私達に危険が迫ってると忠告しに来たみたい。普通にアキバのヲタクでいろって」

「何なのソレ…また謎組織のSATOが私達を狙ってるってコトかしら」

「どうせ、またワナに決まってるわ」


乱れた服を整えながらマリレは否定的な意見。


「トポラは何かにヒドく怯えてた。とても演技とは思えなかったわ」

「姉様は、相変わらズお人好し。私達、トポラには何度もダマされたでしょ?」

「あのね、マリレ。そのトポラの正体を暴いたのも私達だってコトを忘れないで」


マリレは口を尖らす。


「じゃ姉様はトポラを信じるの?」

「とにかく!以前の彼女とは別人だったの。何かに怯えててマジ心配してた」

「うーんダメょヤッパリ信じられない。見え透いたウソだと思う。ビビれば私達がシッポを出すと思ってルンだわ。SATOのエージェントが言うコトに耳を貸しちゃダメ」


どーやら僕が仕切らないとダメみたいだ。


「ソレにしても、忠告だけは聞くべきだ。とりあえず、アキバのヲタクらしくフルまをう。ソレと一般人(パンピー)の前では絶対にこの話をしないコト。ソレから…」


僕は、マリレのアパートに隠しておいた"時空ビーコン"を手にスル。平たくて黒い石に渦巻き文字(ヒエログリフ)


「コレはココに隠しておいてくれ。どこに誰がいるかワカラナイからね。ココが1番安全だ」

「あのトポラが秋葉原に舞い戻ってくるなんて」

「大丈夫だょ」


心配を装いドサクサ紛れに僕の肩にゴロニャンするミユリさん。静かに抱きしめながら黒髪を撫でる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


マチガイダ・サンドウィッチズはアキバ最凶のホットドッグステーションだ。カウンター席にエアリ。


「最近みんな盛り上がっちゃってるなー」

「ミユリ姉様にテリィたん。マリレにスピア。2組ともキスしてない時間の方が短いわ」

「理解し合える相手と1対1で付き合える、ソレは案外大事なコトなんだ。別に恋人じゃなくたって良い。最初は友達から始めよう…」


実は、エアリを口説いてるYUI店長。ソコヘ…


「お隣、座っても?」

「悪いけど今、とても大事な話の最中なの」

「おっと、いらっしゃいませ。秋葉原は初めて?」


金髪メイドの登場だ。ご新規サンに喜ぶYUI店長。口説かれて満更でもなかったエアリは迷惑顔だw


「お邪魔かしら?」

「モチロン大歓迎さ。ほら、エアリ。詰めてくれょメイド同士だろ?」

「ありがとう。私の名はティス」


見ない顔だ。何処の御屋敷かな。マチガイダは、休憩をとるメイド達の溜まるコトでも有名な店だ。


「店長のYUIだ。彼女はエアリ。秋葉原に来る前は池袋かな?」

「大阪ょ。日本橋の男装カフェにいたわ」

「あら。執事の経験者?時空断層"リアルの裂け目"が開いた街、秋葉原にようこそ。ココは納豆ドックのネバーがお薦めょ」


男装と断層がウケてケラケラ笑うメイド2人。


「初日っていつも疲れるわ。私、全国各地の御屋敷を回ルンだけど、どこに行っても初日ってみんなが異様に親切なのょね」

「親切にされるのが嫌なの?」

「だって、御主人様方が親切なのは私を口説きたいからだし、メイド達が愛想が良いのは太客を盗られルンじゃないかって警戒してるから。もう面倒臭くてウンザリょ」


素朴に共感するエアリ。妖精である彼女は、地球が冷え固まって以来ズッとアキバを見守ってる存在。


「そうそう。ワザと出禁寸前の御主人様を紹介したりしてね。しかも、TO(トップヲタク)に薦めちゃったりして」

「君を推してあげるナンて言う御主人様に限って、店外交遊で迫って来たりスルの」

「AV系御屋敷のトイレとかでね」


誰のコトだ!?


「あら。ヨーグルトに砂糖入れるの?それ、私もやるわ(タバスコだけどw)」

「やっぱりモノホンの砂糖じゃなきゃダメなのょ。でも、大抵みんなコレでドン引きされちゃう」

「貴女、シフトは何時まで?明けたらお茶スル?」


メイド2人は、すっかり意気投合だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


トレーダーズビクスのバックヤード。


「スピアは、今のイカにも百合な関係じゃ不満だって言うのょテリィたん」

「ええっ?ソレってつまり…」

「あのね。セックスじゃナイから。も少しロマンチックになりたいみたい」


スピアは、実は元カノなので知ってるけど、ロマンチックだけでは済まない女子だ。嫌な予感がスルw


「でも、マリレはどうなんだょ?」

「私?私は単にスピアを喜ばせたいだけょ。だから、そこら辺のコツを教えてょ」

「え。コツ?そんなのナイょ」


すると、僕を推し除け冷蔵庫を覗き込むマリレ。


「じゃ考えてょ。事態は深刻ナンだけど」

「脅かすなょ。とりあえず、2人でいる時は手をつなぐとかさ。彼女が常に自分が唯一の存在だと思えるような環境づくりが必要だ」

「私達、会う時はいつもキスしてるけど」


確かにw


「じゃ何処かロマンチックなプレイスに連れ出すorサプライズでプレゼント作戦だ。花屋に頼んで御屋敷に花を届けさせたり、手描きの手紙とかもgood。メールじゃダメだぞ」

「素敵!どこでそんなコトを教わったの?」

「えっ?」


バックヤードに入って来たのは金髪メイド…だけど知らない顔だ。僕はココのヲーナーなんだけどな。


「ヤダ。ねぇ続けてよ。面白そうじゃない?」

「貴女、誰?」

「私のヲタ友ょ」


遅れて入って来るエアリ。因みに、彼女もメイド服だ。だって、ココはアキバだからね。


「待って。この子、私、見たコトないけど」

「マリレ。ソレ、むっちゃ失礼だから」

「良いのょエアリ。逆に新鮮で面白わ。私の名はティスょ」


とりあえず、ギコチナイ会釈。


「コチラは、トラベラーズビクスのヲーナーのテリィたん。彼女はマリレょ」

「はじめまして。ティスょ」

「先にマチガイダに行ってて。直ぐ行くわ」


途中で振り向くティス。


「お砂糖をよろしくね。コーラに入れるから」

「OK、alright!任せて」

「…コークに砂糖を入れるの?」


思い切り(いぶか)しげな顔になるマリレ…と僕。


「2人とも何なの?関西のメイドと仲良くしちゃいけない?」

「うーん少し図々しいカモ。まさか、SATOがトポラの次に送り込んで来たエージェントかもしれない」

「だ・か・ら!タダのサスライのメイドだってば」


サスライのメイド?西部劇のガンマンかょw


「とにかく!私が彼女に恋して秘密を漏らすような心配だけはナイでしょ?そもそも、私達は普通に振る舞うって言う約束ょね?なのに、さっきの態度は何なの?」


僕達は、慌てて明後日の方を見る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


トラベラーズビクスに花束到着。


「お花を届けに参りました」

「ええっ!私、スピア宛にかしら?」

「いいえ。メイド長のミユリ様宛にです」


伝票を見ながら確認する花屋。


「あ、そう…じゃ私が受け取っとくわ」


手を伸ばすと、花屋は花束を引っ込める。


「貴女がミユリさん?」

「何?私は花を送られるようなメイドには見えないっていうの?」

「いいえ。ただ、貴女の名札にはスピアと…」


胸の名札を指差す花屋。


「良いから貸しなさいよ。私が渡しとくわ…ミユリ姉様。星の王子様から贈り物よ」

「え。私に花束?まぁテリィ様からだわ!」

「カードがついてる。読んでょ姉様」


ミユリさんの肩越しにカードを覗くスピア。


「スピア。人のカードを見ないで」

「姉様、良いでしょ?私も恋人気分を味わわせて」

「"新秋楼に11pm"ですって。テリィ様ったら何てロマンチックなの!初デートの街中華でタンニララーメンを食べようってお誘いだわ」


うっとりとカードを胸に当てるミユリさん。目を瞑り今宵のデート?を妄想してる。呆れ顔のスピア。


「タンニララーメン?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


新秋楼は、アキバのダウンタウン、東秋葉原にある街中華だ。全員、大陸の人達で何を食べても安い。


「すみません」

「おぉメイドさん。楽団の人達は?今宵は何名様になるかしら」

「今宵は…2名です」


北京に娘がいるというオバさんは、直ぐにワケを察して店の奥に1つだけある2人席を用意してくれる。


「はい。こちらへどうぞ。お連れは、あのSFのセンセだね?」

「ええ。まぁ…わっ!」

「聞いて!このママじゃみんな命が危ないわ!」


突然目の前に現れたのはトポラ・トハラ。例のヨレヨレな黒パーカーに何故か銀のカツラを被ってるw


「トポラ。どうして私達をつけますの?」

「そんなコトはどーでも良いわ。話を聞いて。全員の命がかかってる。貴女なら信じてくれると思ったから呼んだの」

「呼んだ?テリィ様は来ないの?」


黒いサングラスをかけた男が脇を通る。その瞬間、息を呑み明らかに狼狽するトポラ。何か恐れてる?


「私がココにいるコトを知られたら…」

「誰に?」

「謎の組織ょ」


吐き捨てるように答えるトポラ。


南秋葉原条約機構(SATO)?」

「あのね。SATOは、ただの組織じゃないわ。私も秋葉原を離れてから事実を知らされた。私だって、未だに信じられなくなる時があるわ」

「アキバを出てから、今までどこに?」


急に泣きそうな顔になるトポラ。


「地獄よ…私は、貴女達に危険を知らせるために、地獄から這い上がって来たの」

「地獄って…」

「SATOの内部に"タイムトラベラーハンター"と呼ばれる特殊部隊がアルわ。特殊部隊の存在は、SATOの中でも最高機密で、アキバ特別区(D.A.)の大統領もノータッチなの。コレが、つまりどーゆーコトだかわかる?」


さっぱりワカラナイw


「つまり、ハンター達は誰の命令も受けない。そして、狙ったトラベラーを必ず仕留める。ほとんど、プロの殺し屋集団なの」

「殺し屋って…標的は誰なの?」

「ミユリ姉様、貴女よっ。あと関係者も含めて全員で5名。エアリ、マリレ、スピア…そして、テリィたん。貴女達5人の名前がリストに載ってるのよ」


トポラは、涙目になり大きく目を見張る。


「お願いょ信じて!」

「…信じるわ」

「ありがとう!良かった…」


トポラは、背中越しに振り返るとカウンターに座ってた黒いサングラス3人組が一斉にコチラを見る。


「私と話してるのを見られたら貴女の命も危ないわ。明日の夜8時に映画館の裏に来て。詳しい話はその時にね。悪いけど、ココは払っておいて」


伝票を推しつけ立ち上がると、バックドアから店の外へとゴキブリを踏み潰しながら飛び出して逝く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜遅く。メイド長オフィスのベランダでミユリさんとキス。ところが、ミユリさんは上の空だw


「どうしたの?」

「さっき、トポラに呼び出されました」

「えっ。会ったのか?」


つい責めるような口調w


「ごめんなさい!てっきり、テリィ様からだと思って会いに逝ってしまって…」

「ソレって、つまりダマされたワケ?」

「テリィ様。お願いだから落ち着いて。私の話を聞いてください」


スミマセン。


「…でも、彼女は謎組織SATOのエージェントだ。どんな手を使ってくるかワカラナイぞ」

「でも、彼女を信じるべきだと思うのです」

「ミユリさん…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌日。裏アキバの芳林パーク。ミユリさんとエアリにスピアのスーパーヒロイン3人組❌僕とスピア(普通のヲタク)


「私達スーパーヒロインを助けるなんてウソに決まってるわ!」

「待てょマリレ。もう君達スーパーヒロイン3人だけの問題じゃなくなった。ココにいる僕達5人がリストに載ってるらしいンだ」

「リスト?リストって?トポラは、何で銀色のカツラなんか被ってたの?」


ミユリさんは首を振る。


「カツラを被って金髪を隠してただけじゃない。死ぬほど怯えてたわ」

「姉様、もぉE加減にして。ソレが手なの。私達をジワジワSATOのワナに追い込むつもりなのょ」

「どちらにせょハンター達のターゲットは、ココにいる僕達を含む5人全員だ。もう"覚醒"したスーパーヒロインだけの問題ではナイ。どうするかは、一緒に考えよう」


プイと横を向くマリレ。


「考えるまでもナイわ。私達3人は、トポラなんて信じない。テリィたんは、超能力に目覚めたスーパーヒロインの立場がわかってないから、そんなコトを言うのよ」

「おいおい。不安なのはみんな同じだ。僕だって命を狙われてルンだぞ」

「時空トラベラーを狩るハンターの話なんて、ウソに決まってるわ。トポラが、私達3人を陥れるために作った作り話なのょ!」


斬って捨てるマリレ。


「じゃ1人ずつ意見を逝ってくれ。ミユリさんは?」

「私は、トポラと会って話を聞くべきだと思います。彼女は貴重な味方。しかも、謎組織SATO内部の人間です。ソレだけでも話を聞く価値はアルと思います…エアリ、貴女はヤハリ反対かしら?」

「すみません、姉様。反対です。マリレは?」


聞くまでもない。激しく首を振る。


「コレで2対2だ。多数決で決めるつもりはナイが、スピアの意見で大勢が決するな」

「テリィたん…私も反対。だって"覚醒"したスーパーヒロイン達の意見は2対1ょ。既に大勢は決してる」

「ありがとう、スピア」


エアリとマリレは、スピアに駆け寄って肩を叩いたり、腕をさすったりスル。スピアはボソッと(つぶや)く。


「私は…ただ、早くこの泥沼から抜け出したかっただけょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


東秋葉原の裏通り。錆びたフェンスの向こうに黒いフードを被ったトポラ。チラ見した腕時計は9pm。


がっしゃん!


激しい物音。怯えたトポラが振り向くと、地域冷暖房システムから漏れた蒸気の向こうにホームレス。


「尾けられてる?」


フードを被り直し、ネオンサインで赤く染まるスチームの中を現れたホームレスとは反対方向へ去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)のラギィ警部室。部屋の主が外回りから戻ると先客がいる。カーテンの影に何者かの気配。


「警部」


微かに震える声。トポラだ。


「秋葉原から急に消えた時は心配したわ。トポラ…泣いてるの?大丈夫?」


フードを取るトポラ。乱れた金髪が溢れ出る。


「大丈夫じゃないわ」

「何があったの?」

「誰も…誰も私の話を信じてくれないの!」


最後は推し殺したような叫び声。


「誰もって誰ょ?」

「ミユリさんやメイド達、取り巻きのテリィたんとかも誰も…あぁ」

「やはりSATOは彼女達をマークしてるのね?」

「調査どころか…」


小刻みに首を振るトポラ。涙をボロボロこぼす。


「ねぇトポラ。何だかヒドく疲れてるみたいだけど、どこかで1杯引っ掛けない?」

「いいえ。私は人前には出られない。もし、SATOに知られたら、もう逃げられないわ」

「逃げるって?」


優しく尋ねたつもりのラギィだったが、トポラはキッと顔を上げ、詰問スルかのように食ってかかるw


「ラギィ。貴女がハブルを射殺したからSATOがマジで動き出したンじゃないの!」

「ハブルのコトを…知ってるの?」

「SATOは、全てを知ってて彼女を泳がせてた。ハブルは、ミユリ姉様の正体を見抜いたでしょ?警部、だから貴女は彼女を殺したのょね?つまり、警部は今ではメイド達の味方なのょね?」


一気にまくしたてるトポラ。圧倒されるラギィ。


「待って。貴女、一体何の話をしてるの?もっとワカルように話してょ」

「…任務に失敗した私は官邸に召喚され、ソコで特殊部隊の存在を知らされたわ。"トラベラーハンター"よ」

南秋葉原条約機構(SATO)の?」


うなずくトポラ。


「私は、時空トラベラーと接触した初の一般人(パンピー)として特殊部隊に派遣された。ソレから4週間、部隊の最高司令官から事情聴取を受けたわ」

「最高司令官?きっと沈着冷静なのね」

「YES。彼女の名はレイカ。狙ったトラベラーは手段を選ばず必ず仕留める。冷酷な女ょ。そして、最後にこう言ったの。お前は死ぬまで、この特殊部隊の隊員だと」


両手で顔を覆うトポラ。


「大統領直属のエリート部隊でしょ?素晴らしいじゃない」

「何を言ってるの?奴等は目的のためなら、罪のないヲタクでも平気で殺す連中ょ?私は、人殺しにはなりたくないわ」

「メイド達を時空トラベラーだと睨んでいるのだったら、なぜ拉致して調べないの?」


もっともな御質問w


万世橋(アキバポリス)と同じ。状況証拠ばかりで確証はナイし、何より彼女達の超能力(パワー)を恐れている」

「とても信じられない話だわ」

「信じなくても良い!でも、SATOは貴女達を要注意人物として扱ってる。ラギィ。貴女もSATOのリストに載っているの。だから!せっかく危険を知らせに来たのに、もう勝手にして!」


大股でドシドシ歩き、部屋から出て逝くトポラ。


「待って!」


ラギィは、靴を挟んでドアを閉めさせない。


「我々(アキバポリス)に保護を求めてはどーなの?」

「ソンなコトが出来るなら、貴女に打ち明けたりはしないわ。未だ私が信じられないなら、貴女のお友達だったステブ捜査官の消息を確かめてみたら?彼女はSATOを抜けようしてレイカに消されたわ。他の者への見せしめとして処断されたのょ!」


その瞳に狂気が光るトポラ。


「メイド達とテリィたんを説得して。みんなが助かる方法はソレしかナイの」


部屋を出て行くトポラ。1回振り返り、歩き去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


暫く残業していたラギィは、ヤニワに引出しからNY土産のハーパーのミニチュアボトルを出し1口。


スマホの古い電話番号を探す。


「秋葉原特別区(D.A.)大統領府パニックセンターです。どちらにお繋ぎしますか?」

「スペシャルエージェントのジョナ・ステブと話がしたいンですが」

「大変申し訳ありませんが、ジョナ・ステブはコチラにはもう在籍しておりません。誰か他の者をお呼びしますか? 」


無言で通話を切る。さらに、もう1本。


「もしもし?!」

「こんばんは。夜分遅くに誠に申し訳ありませんが、ジョナ捜査官はご在宅でしょうか?」

「…アンタ、誰だ?妻なら死んだょ」


男の声。夫?結婚してたのか?


「亡くなった?ソレは…ご愁傷様でした。失礼ですが、亡くなったのはいつです?」


いきなり通話は切れる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


今宵もインバウンドで満員のトラベラーズビクス。


「ねぇ月食ドリア、未だかしら」

「生でよければ出すけど」

「10分も前に注文したのよ」


慌てて電子レンジに冷食ドリアを放り込むマリレ。メイド服でホールを担当するスピアは口を尖らす。


「月食って時間がかかるモノなの!」

「マリレ、私のタイム鮨は?」

「ミユリ姉様まで!そんないっぺんにムリ!」


さらに、ミユリさんが駆け込んで来てパニックになる。ワンヲペで回してるキッチンはもう戦場だw


「ほら、ちょうど時空フライが揚がったわ。コレでも出してアジアンのインバウンドを黙らせて」


眉をひそめながら皿を持って出て逝くミユリさん。


「…ホント、マリレらしいわ」

「何が?」

「その態度よ。御主人様が何を食べたかろうか、全くお構いナシ。そこらにあるものを適当に与えておけばソレで文句が出ないと思ってる」


フト手を止めるマリレ。


「何が言いたいの?」

「私はもう時空フライなんかじゃゴマかされないってコト。コレからも私と百合でいたいのなら、それなりの誠意と努力を見せて」

「うわー私の嫌いな言葉ばかり並べてどーゆーつもり?勘弁してょ」


なぜか中華ヘラでスピアを差す。ソッポを向くスピア。再びキッチンに飛び込んで来るミユリさん。


「ねぇ!おしゃべりしてるヒマがあったら、注文通りの料理を作って?御主人様達(インバウンズ)が待ってるわ」

「ミユリ姉様。今宵もテリィたんと?」

「え。…いいえ、部屋でおとなしくしてるつもりだけど。何で?」


調子が狂うミユリさん。


「別に隠れてる必要もナイでしょ?」

「どーゆーコト?」

「ダブルデートしない?」


再びキッチンでテンテコ舞いを始めたマリレが、ナゼか中華鍋を片手オペしながら器用な提案をスル。


「え。良いの?今は…」

「普通にしてルンでしょ?でも、引きこもったりしたら、余計に怪しまれるだけょ。普通に出歩こ?はい、時空鮨セット、上がったわ」

「ふーん」


返事保留のママ鮨セットをホールに出しに逝くミユリさん。満更でもなさそう。スピアは首をヒネる。


「ねぇ…トポラの言うコトを信じるの?」

「ロマンチックなデートをしたいンでしょ?」

「それはしたいけど、どうせなら2人っきりで出かけたかったな」


コレまた満更でもなさげに口を尖らすスピア。


「先ずコレが最初の一歩ょ。じゃ…わぁ!皆既月食バーガーが萌えちゃう!」


鉄板上のパティから焔が上がるw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


パーツ通りのタイムマシンセンター。早い話が温泉地の秘宝館みたいな存在だが、何と賑わっているw


「はい!コチラの3Dメガネ付きヘルメットをかぶってください。たった¥3000で全ての展示が立体的に見えますょ!」

「¥3000?そりゃお買い得だな。円が安いうちに買っておこう。2つくれ!」

「はい、どーぞ。期間限定の赤もあります。お値段は¥7000と少しお高いが、コレをかぶれば貴方もアキバの紅い彗星だっ!」


絶好調で怪しいヘルメットを売りまくってるのは…僕だ。実は御屋敷(トラベラーズビクス)がヒマな時はバイトをしている。


「テリィたん、インチキ仮面を売ってるのね?現行犯だけど」

「え…ぎゃラギィ警部!いや、コレは決して…」

「元カノに免じてお目溢ししてあげる。今日もたくさんインバウンドが来そうね。でも、用心して」


万世橋(アキバポリス)のラギィ警部だ。またインチキ商売の手入れかと思ったが…彼女とは彼女が前任地で"新橋鮫"と呼ばれていた頃からの付き合い…実は元カノ。


「ラギィ、どーゆーコトだ?」

「クレージーな連中には注意して。突然近づいてきて、胡散臭いコトを色々吹き込む。ほら、ハブルのように」

「おいおい。ハブルの話が全てウソだと看破してくれたのはラギィだぜ?」


ハブルは時空トラベラーを狩るハンターの1人だ。


「だから!用心して欲しいの。秋葉原には敵も味方も大勢集まって来る。例えば、この私も法の番人としてヲタクからは胡散臭く思われてる。確かに、ある意味ヲタクを見張っているワケだから仕方ないけど」

「おいおい。僕は決して…」

「黙って聞いて。でもね、テリィたん達の安全を守っているのもこの私なの。実際ハブルからテリィたんを守ったでしょ?」


手術台に寝かされた時空トラベラーを手術スル外科医の展示の前だ。もちろん、安いマネキン人形製。


「つまり言い換えれば、秋葉原で最も信頼出来るのは私1人ってコトなのょ」

「ふーん」

「だ・か・ら。テリィたんやミユリ姉様達を困らせる奴が現れたら、真っ先に私に教えて。OK?」


警察に通報しろってコトか。確かに気は進まないw


「心配はいらないわ。とにかく!テリィたんは秋葉原のヲタクらしく振る舞っていれば充分なの」

「ラギィ。君は前にも僕にそう言ったな…ソレから同じコトを最近つぶやいた人もいた」

「ソレはね、ソレがもっともな忠告だからょ」


マネキンの前で馴れ馴れしく僕の腕をさする。


「ご忠告、覚えておくょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(トレーダーズビクス)のバックヤードにエアリがメイド服で入って来る。奥ではミユリさんとスピアが着替え中だ。


「まぁ!ミユリ姉様、どーしたの?思い切り(胸を)盛っちゃって!」

「ごめんね、エアリ。私とミユリ姉様はコレからテリィたん達とダブルデートなの」

「はぁ?誰と誰がダブルデート?私達、しばらくシヲらしくしてルンじゃなかったっけ?」


ソコヘ僕とマリレが颯爽と登場。僕は一張羅のジャケット。メイド2人は万全メイク。大人の七五三w


「あら。私だけハブられてる?」

「…テリィ様」

「ミユリさん。今宵は一段と…うぐっ」


いきなり唇(と寄せて上げた胸)を推しつけてくるw


「あ、あの、その…コレ、ミユリさんに」

「え。サプライズ?ウレしい。何かしら…わ!薔薇のポプリ?素敵過ぎます!」

「花言葉は"永遠に(always)"だ(適当w)」


ミユリさんは秒でポシェットにしまうやギュッと腕を組む…というよりも、極めて厳重に絡めて来る。


「みんな、どーなっちゃってるの?とても私だけ何か食べる気にならないわ」


エアリは、長い溜め息をつき1人寂しくお出掛け。夜の裏通りを街灯を頼りにトボトボ歩く。ソコへ…


「メイドさん」

「何?自衛隊なら入らないわょ」

「貴女、エアリさんょね?」


振り向くと…黒いセダン。声の主の顔は見えない。


「私は、トポラ・トホラの友達。彼女に頼まれ貴女を迎えに来たの。きっと貴女は1人ぽっちで彼女の話を聞きたいンじゃナイかなと思って」

「(余計なお世話w)どうして本人が来ないの?」

「ソレは彼女に会って直接聞いて。心配しないで。私達は味方ょ。さぁ乗って!」


そこへ突然サイレンの音がして万世橋(アキバポリス)覆面パトカー(FPC)が飛び出して来る。裏通りに赤い回転灯が明滅w


「どーしたの、エアリ?」


FPC(覆面パトカー)からラギィ警部が降り立つと、黒いセダンはウインドウを下げて急発進。煙のように姿を消す。


「エアリ。夜道で一般人(パンピー)の車に乗るのは危険ょ。何も聞かないから乗って。送るわ」


エアリはうなずいて、黒いセダンの走り去った方をチラ見。大人しくラギィの覆面パトカーに乗車。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"新秋楼"は、東秋葉原にある街中華で僕はバンド仲間と良く利用スル。大皿系料理が安くて美味い。


「楽しいわ!」

「ミユリ姉様、中華って思ってたより悪くナイわね。味の素の味が素敵。ね、スピア?」

「…マジ最高ね」


フト残念な顔になるスピア。北京に娘がいるというヲバさんがニコニコ笑いながら伝票を持ってくる。


「ヲ支払いは別々でしたよね。はい、2人ずつのお勘定。レジでお願いね」

「スピア。今、金欠だから立て替えといて」

「…何なの?いったい…」


溜め息をついて立ち上がるスピア。テーブルの下でミユリさんがマリレのスネを思い切り蹴っ飛ばす。


「何してるの?早く追いかけて!」

「痛っ!だから、デートなんてマジ嫌いなの」

「ミユリさん、ナイスキック」


マリレは、レジの手前でスピアに追いつく。


「スピア。今度は何?」

「何って何?アンタってテーブルマナーは最低だし、自分の話ばかりして私への気配りはゼロ。大体パートナーにプレゼントするのにスノコって何なの?」

「スノコベッドが流行ってルンだ。とても通気性が良いから…」


スピアは100均製だから怒っているw


「アンタってマジわかってない。信じらっきょ」

「…じゃ聞くけど、ナゼ貴女は、こんなアタシと一緒にいたがるの?」

「ソ、ソレは…」


答えに詰まるエアリ。唇を噛む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


マリレもまたムシャクシャした気分のママ、神田リバー沿いの安アパートに帰る。薄い扉を開けると…


「な、何なの?コレは!」


部屋の中が荒らされてる。引き出しは全て引き出され、中のモノは床に投げ散らかされている。強盗?


「どう?コレで私の言うコトを信じる?」


ペンライト片手に物陰から現れたのはトポラ。手にしたスマホに渦巻き象形文字の描かれた石の画像。


「出てって!」

「貴女、コレが何か知ってる?」

「どーせ徳川家康の置物とか言うのでしょ?」


ボサボサに乱れた髪、ヨレヨレのパーカー…まるでホームレスだが、目だけが異様にギラギラしてるw


「コレは"時空ビーコン"。同じビーコンがもう1つあって、2つ揃うと異なる時空をつなぐ時空トンネル、貴女達が"リアルの裂け目"と呼ぶ時空断層が開通スル。誰もが異なる時空を自由に往来出来るようになるの。私は、同じビーコンを南秋葉原条約機構(SATO)から盗み出した。今は隠してあるけど、明日持って来るから…お願い。明日ビーコンが2つ揃って時空トンネルが開き、貴女達の仲間が迎えに来たら、私を連れて行って!スーパーヒロインの国に!」

「徳川家康は関係ナイの?」

「…このママじゃ貴女達みんな彼等に殺されてしまうわ。もうコレしか助かる道はナイ。明日の夜、もう1つのビーコンを持って万貫森に来て。私も必ず行く。コレが貴女達が助かる最後のチャンスなの。死にたくなかったら絶対に来て!」


そのママ部屋のドアを後ろ手に閉め走り去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


マチガイダ・サンドウィッチズ。


「トポラが?おい、マリレ。顔はハッキリ見たのか?声はどうだった?」

「他に何か気がついたコトはなかったの?」

「ミユリ姉様。あったらとっくに話してるわ」


エアリが割って入る。


「ねぇ尋問みたいなマネはヤメて。マリレが可哀想ナンですけど」

「で、エアリ。ラギィは何て逝ったンだ?」

「うーん絶妙なタイミングで現れたし、警部は味方じゃナイかな(テリィたんの元カノだしw)?」


が、僕は凛として断言。


「僕が信頼出来るのは、ココにいる君達4人のメイドだけだ。ラギィもトポラも信じない。モチロンはぐれメイドのティスにも絶対に気は許さない」

「私に声をかけてきたのはトポラが言ってた連中だわ。時空トラベラーを狩ってる謎組織って部分的にはリアルな話カモね」

「とにかく!誰も信用するな。いいね、ミユリさんも兵には手を出させるな」


ミユリさんは大きく首肯し、僕達は腕を絡ませながらマチガイダを後にスル。後に残されたのは…


「マリレ。ごめんなさい」

「何が?スピア」

「私、貴女のコトを理想の人にしようとしてた。でも、今の話を聞いてたら、もうそんなコトはどうでも良くなっちゃった…マリレも随分ムリしてくれてたみたいだけど、もう忘れて。私は、マリレが無事でいてくれたらソレだけで充分よ」


マリレとスピアは向き合う。そしてハグ。


「スピア、ありがとう。でも、この先もし何かあったら知っておいて欲しいの。私のコトは…」

「ヤメて!何も聞きたくナイ!」

「でも…」


泣き出すマリレ。そのオデコにキスするスピア。


「大丈夫。何も起きナイから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ドアを開けたら…エアリだ。


「もし良かったら今宵、姉様を忘れて私と一緒にいて。ひとりでいたくないの。ソレとも相手が妖精じゃイヤ?」


構わないが…その羽根は折りたたんでくれ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


トラベラーズビクスのバックヤード。


「誰なの?ソコ、私のロッカーだけど…マリレ?」

「スピア。貴女のシュビムワーゲンを貸して」

「良いけど…何処に行くの?」


イライラと首を振るマリレ。


「出かけるの。黙って行かせてょ」

「ダメ。何処に行くのか教えてくれないならシュビムワーゲンは貸せないわ…ちょっと待って!マリレ、何ソレ?」

「良いから鍵、貸して!早く!」


メイド服のマリレがポシェットにしまったのは…


「ソレ、テリィたん達が言ってた渦巻きの描いてある石ょね?勝手に持ち出して何処に行くつもりなの?ココに隠しておくって約束でしょ?」

「だから何?面倒臭いコト言わないで」

「ちょい待ち!トポラに会うつもりね?アレだけみんなの前ではトポラを信じるなとか言っておきながら」


怒るスピア。


「だから!みんなには黙ってて。あのね、コレはみんなを危険な目に遭わせたくないから言ってるの」

「…私も行く」

「ダメょ。ココで待ってて」


既にロッカーにカチューシャをしまってるスピア。


「そ?じゃ今から車を盗まれたってラギィ警部に通報スルけど、OK?」


スピアの強い眼差し。折れるマリレ。


「車の中に隠れてろょ」

「どこで会うの?」

「万貫森」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


数分後。トラベラーズビクスのホールからキッチンへ猛スピードで入って来るミユリさん。お給仕中。


「スピア!マリレ?2人ともサボってないでよ。何してるの?もう!…あら?」


スピアの個人ロッカーが半開きだ。扉にメモ。


"トポラとミーティング@万貫森。急いで!"


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


首都高上野線。万貫森へトバすシュビムワーゲン。


「ねぇやっぱりマズいと思わない?」

「くどい!」

「どうしてトポラの話を信じるワケ?」


運転しながらスピアが尋ねる。


「この石が"時空ビーコン"だと知ってた」

「単なるヲヴァンゲリヲンの見過ぎでしょ?」

「うーん彼女の話は恐らくマジだと思う」


迷いなく断言するマリレ。心配になるスピア。


「私達が惨殺されるって言う話も?怖いわ。やっぱり帰りましょ」

「だから、スピアは車に隠れてて。貴女はスーパーヒロインじゃナイんだから」

「…ココで降ろして」


助手席女子の伝家の宝刀を抜くスピア。


「何言ってるの?もう首都高を降りて妻恋坂ょ?裏アキバのこんなトコロに貴女を置いていけナイわ」

「だったら御屋敷(トラベラーズビクス)に連れて帰ってよ」

「マリレ。自分の彼女がこんなに怖がっているのにムリヤリ拉致って危険な目に合わせたいワケ?」


息を呑むマリレ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


追うSASジープ。


「昼間あれだけみんなで約束したばかりなのに。マリレったらナゼこんな勝手なマネを?」

「ミユリ姉様。どーせいつものコトだし。何だかマリレらしい」

「わかってるわ、エアリ。でも私、今度ばかりは許せない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


妻恋坂の交差点。急停車したシュビムワーゲンのドアが開きスピアが飛び出す。反対側の運転席からはマリレが飛び降り、走る去るスピアを追いかける。


「待って、スピア」

「アンタを絶対に行かせない。バカだと言われても構わないわ。なんて言われようと私はアンタの命を守る!」

「…スピア」


両手を広げ行くてを阻むスピア。


「腐女子の貴女にスーパーヒロインの行動を止める権利はナイわ。私は…」

「もしアンタに何かあったら、私が悲しむってわからないの?アンタの命は私の命でもあるの。アンタが私のコトをどう思ってるかは知らないけど、アンタは私の大切な人だモン。危険な目に遭うのを黙って見てられないわ!」

「…私は、この日が来るのをズッと待っていたの。どーしてわかってくれないの?」


マリレも必死だが答えは頑迷だ。


「絶対に行かせない!」

 

その瞬間。2人はライトに照らし出される。


「逃げて!例の謎組織の連中だわ」

「イヤょ!私はアンタと一緒にいるわ」

「マリレ!スピア!」


SASジープで駆けつけた僕達が飛び降りる。叫ぶ。


「マリレ!その象形文字の石をよこせ!」

「イヤょ。テリィたん、コレはトポラの言ってた"時空ビーコン"なの。2つ揃えば作動スル仕掛けょ!」

「良いから寄越せ。約束したハズだぞ。勝手なマネをスルな」


力ずくで奪おうとしたが、マリレはスゴい怪力で石を離さない。超能力なのか?僕が非力なだけかなw


「…マリレ。テリィ様が女を相手に闘うワケには逝かないわ。私が相手ょ」


ミユリさんが前に出る。


後にアキバ最強のヒロイン、ムーンライトセレナーダーの"雷キネシス"と呼ばれる必殺技のポーズw


「ぎゃん!」


メイドvsメイド。紫の電光一閃!瞬時に真っ黒焦げになって地面に転がるマリレ。ピクピク痙攣スルw


「"時空ビーコン"が!」


電撃を食らい吹っ飛んだマリレの手から石が落ち転がる…その視線の先でFPCと黒いセダンが急停車w


「気の毒だが、トポラさんは来ないわ。もう2度と貴方達の前には現れない」


セダンから降り立つ黒スーツ女子。悪の女幹部(ラスボス)


「殺したのね?私達も殺す気なの?」

「マリレ。大丈夫ょ安心して。その方は虎ノ門精神病院のマリゴ先生。今朝、私のオフィスに立ち寄りトポラについて色々教えてくださったわ…ってかマリレ。何で黒焦げになって寝てるの?メイド服がプスプスいってるけど」

「…ちょっとガス管の工事を見学してたら爆発に巻き込まれた。やはり都市ガスって危険だ。アキバの完全電化は急務だ」


発言順に黒焦げになって大の字のマリレ、FPCから降り立ったラギィ、咄嗟に秀逸なウソをつく僕w


「マリゴ先生は精神医学の専門医なの」

「トポラさんは、妄想性パーソナリティ障害を患う超誇大妄想症ナンだ。つまり、自ら生み出した妄想に死ぬほど怯えている。その恐怖を脳内で正当化するために、もっともらしい理由を作り上げているの」

「トポラは、この6週間は虎ノ門の精神病院に入院していたそうょでも数日前に脱走したンだって」


センセと2人がかりで僕達を説得するラギィ。


「やっとのコトでとトポラの居場所を突き止め、私は彼女と会った。だが、ヒドいヒステリー状態に陥っており、意味不明なコトを口走っていた。今宵、君達に会うとか、ビーコンがどうしたとか。幸い、ラギィ警部から過去の経緯を教えてくれたので、こうして貴方達に彼女に関わってはイケナイと伝えに来たワケなの」

「テリィたん。もう心配は御無用ょ。マリゴ先生の身元もトポラの入院も確か。全部電話で確認済みょ…どうやらトポラが私達に話したコトは全部信じない方が良さそうね」

「秋葉原のヲタクのみなさんにも迷惑をかけて済まなかったわ。でも、安心して。今頃は彼女も精神病院の中ょ。もう心配ナイわ。だから、貴女達もこんなトコロにいないで、早く家に帰って。秋葉原のヲタク達にモシモのコトがあったら、全てトポラのせいだけど、虎ノ門精神病院が責任を問われるから」 


腹落ちスル要素が全くゼロで、僕達としては顔を見合わせるだけだが、ラギィが勝手に場の幕を引く。


「センセのお陰で我々もやっとグッスリ眠るコトが出来ます。さぁテリィたん。冒険ゴッコは終わりょ。解散」


それぞれの車に戻るラギィ&センセ。


「テリィたん。"時空ビーコン"は何処?」

「知らん顔してろ。後で探すしかない」

「テリィ様。新橋鮫が何か嗅ぎつけました」


ミユリさんが目配せスル。その先にFPCに乗り込む寸前のラギィ。フト足を止め、地面に目を凝らす。


「あら?何かしら」


ライトで照らす地面に"時空ビーコン"が落ちている。ヒョイと拾ってFPCに乗り込んで、走り去る。


「マリレ。貴女のせいょ」


珍しく、ミユリさんはマリレを責める。マリレは地面に転がったママ真っ黒に焦げた顔を両手で覆う。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黒いセダンは蔵前橋通りを直進、人気のない側道で停車スル。運転席のマリゴ医師が右手を上げると黒いセダンが揺れだし、やがて車内が光で溢れ出す。


数秒後。  


汚れたリュックを背負ったホームレス女子が車から降り、キョロキョロ周囲を見回し、何か薬を飲む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。震える手で"時空ビーコン"を握りしめるトポラ。裏アキバ万貫森の入口にある芳林パーク。


「マリレ。何処なの?」


暗闇に目を凝らす。そこへ黒い4WDが近づく。


「ココょマリレ!私はココ!」

「…おかげで"ヲタッキーズ"に無事接触出来た。礼を言うわ」

「…あ、貴女は!テリィたんは関係ナイわ。彼だけは殺さないで」


4WDの車内から冷酷な声。


「トポラ捜査官。貴官の任務は終了ょ」

「イヤょ!助けて!誰か…」

「逃がさない」


走り出すトポラの前を4WDが塞ぐ。車内から飛び出した女戦闘員に取り囲まれる。絶叫するトポラ。


「ヤメて!お願い、助けて!」


トポラを後部席に推し込んで、急発進スル4WD。トポラは必死にバックドアを叩き大声で泣き叫ぶ。


全ては闇に消える。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"異次元への扉"をテーマです。渦巻きヒエログリフの描かれた石は時空断層"リアルの裂け目"を呼び込むビーコンだった…2つ揃えば扉は開く、1つは主人公の手に、もう1つは秋葉原の地下でスーパーヒロインを狩る謎組織の手に…今後、この石をスピンアウトシリーズは進みます。


さらに、ジュブナイルならではのボーイミーツガール的要素も絡ませ、楽しみながら描いてます。また、習作なので死亡フラグを林立させてみましたが、誰も死にません。ジュブナイルなので笑。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、新宿ほどではナイが、遠慮のない非ヲタク系インバウンドに占領された秋葉原に当てハメて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ