プロローグ「ハイスペ四人組」
駅からしばらく歩き、草木が生い茂る坂を登ったところに寂れた学園がある。
そこは「希望基高等学校」と呼ばれる学園で、ボロボロの校舎に狭い敷地……という、廃校寸前の学園だ。
そこに――。
「しかし、噂通り、きったねえ校舎だなぁ……」
「ホントそれ! うちの学校の便所の方が、まだキレイなんじゃねえの?」
まだ平日の真っ昼間だというのに、学園の前で屯する他校の不良たち。
彼らは、他校の敷地内だというのに、タバコを燻らせていた……。
「だったら、ゴミ捨て場代わりにするのが、ちょうどいいな」
「ぎゃははは! それな! タバコのポイ捨てには、うってつけの場所だよなぁ! どうせ、こんなとこ廃校になるだろうし」
不良たちは大声で笑いながら、吸っていたタバコを敷地内にポイ捨てする。
まだタバコに火が残っているのに、こんな自然に囲まれた敷地内でタバコをポイ捨てしたら、最悪、山火事になってしまうだろう……。
そして、不良たちは――。
「さっ、帰ってバイクでも磨くか!」
自分たちの捨てた吸い殻など見向きもせずに、バイクに乗って帰ろうとする。
すると――。
「おいおい、そんなとこでタバコなんか吸ってたら、火事になるぞ?」
突如として響き渡る男の子の声……。
その声を聞いて、不良たちは怪訝な顔をするのだった。
「だ、誰だ!?」
次第に場の空気が重くなっていく。
そんな中……。やがて、不良たちの声に答えるように、校舎から一人の男子生徒が現れる。
「タバコを吸うのは勝手にしてくれていいけど、そんなとこに捨てんな。持って帰ってコレクションにでもしてろ」
俺――杉原幸太がそう口にすると、不良たちは舌打ちをした。
「てめぇ、舐めてんのかぁ!?」
「やるってのか、俺たちと!? ああん!?」
不良たちは、完全に頭に血が上っている。
「おいおい、昼間から物騒だな。俺は、その捨てたタバコを回収してくれたら、何もしないって言ってるんだよ」
俺は、少し挑発するような言い方をする。
すると、不良たちは――。
「てめぇ……、誰に向かって口を利いてんだよ!?」
「ぶちのめされてぇのか!?」
「バイクで引きずり回してやってもいいんだぞ、ああん!?」
これは、交渉の余地無しだな……。
ならば――"実力行使"しかない。
「分かったよ……。なら、相手になってやるよ」
僕はそう口にすると、不良たちの前に赴く。
すると――。
「後悔しても、知らねぇからなぁ!?」
まず最初に、髪をモヒカンにした不良が殴りかかってくる。
どこぞの世紀末だよ……というツッコミは置いておいて、俺はそのパンチを躱すために、身を躍らせる。
「くっ!? 避けやがった!」
パンチを避けたおかげで、世紀末不良の背中に隙ができた。
そこをすかさず――。
「それ!」
「ぐっ!?」
世紀末不良の背中に、軽めの蹴りを入れる。
そして、蹴られた衝撃で、その世紀末不良は顔面から地面にダイブしてしまう。
すると、その様子を見ていた他の不良たちは――。
「ゆ、許さねぇ……」
「おい、アイツを取り囲め!!」
「相手は一人だけだ! なら、俺らでぶちのめしてやらぁ!!」
不良たちは声を張り上げると、あっという間に俺の周りを取り囲む。
これで、完全に俺の逃げ場は無くなってしまった。
「おいおい、多勢で俺をやるなんて、勘弁してくれ」
俺がそう口にすると、不良たちは――。
「へへ、俺らに舐めた口を利いたんなら、覚悟はできてんだろうなぁ?」
「リンチどころじゃ済まねえぞ……?」
さすがに、一対多数になると、状況は不利だと言わざるを得ない。
ただ、不良たちは、完全に俺に意識が持っていかれている。
――そのせいで、背後から忍び寄る、もう一つの"人影"に気づいていなかった。
「えい!」
「ぐわあ!?」
突如として響いた女の子の声……。
そして、それを皮切りに、俺を取り囲む不良たちが、次々と倒れていく……。
「ふう……。おまたせ、杉原」
「遅いよ、冬川」
俺がそう口にすると、冬川と呼ばれた女の子はムッとした顔になる。
「何よ? せっかく、友達と遊ぶのを断ってまで助けに来たのに……」
腰まで伸びた赤い髪の両側をリボンで結んで、ツーサイドアップにしている女の子……。
冬川野々花が彼女の名前だ。
「それは悪かった。……後で、イチゴケーキ奢るから許してくれ」
「それだけじゃ、足りないわね……」
「おいおい、勘弁してくれ……」
「ふふふ。……さっ、今はこんな馬鹿なこと言ってないで、コイツらの相手をしないとね」
俺らが軽口を叩いている間に、不良たちが立ち上がった。
そして、俺と冬川を交互に睨むと――。
「ぐ……。お前らはあっちの女をやれ……! 俺はこっちのクソ野郎をやる……!」
不良たちは連携しようと別々に散らばり、俺と冬川を取り囲む。
そして――。
「ぶ、ぶちのめしてやらぁ……!!」
数の暴力で、俺と冬川を圧倒しようとするが、もはや勝負はついていた……。
「冬川! まず、背後にいるやつから殴ってくるから避けろ」
「オッケー」
俺の言った通り、冬川の背後にいる不良が彼女に殴りかかっていく。
こうして、彼女に命令を出しながら、俺も不良たちの攻撃を躱す。
次に――。
「三秒後くらいに斜め後ろに避けろ」
「オッケー」
俺の言葉通り、三秒後くらいに不良たちから蹴りとパンチが冬川めがけて飛んできて、彼女は指示通りに斜めに身を翻す。
――俺の今までの戦闘経験から、相手が次にどう動くのか、大体は分かる。
こうして、命令を出しながらも、俺は不良を撃退するのだった。
そして、数分も経たないうちに――。
「な、何だよコイツら……!?」
「アイツ……。俺らのことをまるでザコのように……。しかも、あの女に命令しながらだぞ……!?」
不良たちは、信じられないという顔をしながら俺たちを見る。
ただ、肝心の目的が、まだ言えてないな……。
「タバコの吸い殻、拾ってくれるよな?」
俺がそう言うと、不良たちは――。
「に、逃げろおお!!」
「こ、コイツら人間じゃねぇ……! 化け物だ!!」
彼らは、吸い殻のことなど忘れて、一目散に逃げてしまう。
そして、不良たちは、読書中の女の子が座るベンチの前を通ろうとする。
すると――。
「「「うわあ!?」」」
そのベンチで読書をする女の子が足を伸ばし、逃げようとする不良たちを見事に転ばせた。
栗色のセミロングヘアーに、メガネをかけた女の子……。
彼女は、菊谷美乃里だ。
すると、その菊谷という女の子が――。
「悪かったですね。読書に夢中で、気づきませんでした」
ここでようやく、彼女は視線を本から転んだ不良たちに移した。
「こ、この女……!」
転んだ不良たちは、菊谷に殴りかかろうとするが、間髪入れず、パトカーのサイレンが鳴り響いた。
そのけたたましい音に、不良たちは次第に顔を真っ青にするのだった。
そして、学園の門の前に、数台のパトカーが停まり、そこから姿を現したのは――。
「ごめんごめん、皆ー。お父さんを呼ぶのに、時間がかかってねー……」
薄紫色の短めの髪が特徴的な女の子……。
彼女は、小野内悠華だ。
そして、彼女に続いて、パトカーから次々と警官が飛び出していく。
「お前らかあああ!? 学園の敷地内にタバコなんか捨てやがったのはあああ!?」
その警官の中でも、一番存在感のある四十代後半くらいの男性がいた。
あれは、小野内のお父さんだな……。
小野内は、警察署長の娘だ。
だから、娘の通報ということもあり、彼女のお父さんが血眼になって駆けつけてくれたのだろう。
「ひ、ひいい!?」
結局、不良たちは俺らの活躍で、今度こそお縄になってしまった。
この学園には、廃校を阻止しようとするハイスペックな生徒が四人いる……。
それが、俺たち――"ガラクタ屋"だ。
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