聖母降臨
星真一さんに傾倒してショートショートを書いてみました。短いので、お気楽に読んでください。
「生理が来ないの」
少女は泣きそうな顔で友人に話した。
「たまには遅れるでしょう」
「それがもう四ヶ月も」
二人はなんとか通販で妊娠判定薬を手に入れ、調べてみた。そして妊娠が判明する。
「相手って誰?」
「誰もいない。この2年、家にも帰ってないし、この学校の敷地から出てもいない」
彼女たちがいる寄宿生の女子校には教師や従業員にも男性は一人もおらず、少女も男性との性行為はしていない。
校医(女性)に相談して、懐妊がはっきりとわかる。妊娠は五ヶ月目に入っていて、中絶の時期を外していた。少女は産むと決意し、周りもそれを助ける。
彼女の家からは懐妊は学校の管理不行届だと抗議がくるが、それでも自分の子供の援助した。母親は高名な音楽家で世界中を演奏のために出かけているので、娘を預ける形で全寮制の寄宿学校に入れた。父親も対面を重んじるタイプだったので、このまま、少女のことが公になることは望まなかった。そのため多額の寄付金を出した。
そのあと、学校で受け入れ体制が整い、子供は妊娠八ヶ月で2000グラムの未熟児だったが自力呼吸も、自力での哺乳もできたので、二ヶ月間の保育器で過ごしたあと、学校に戻ってきた。少女は子育てを多くの人の助けを借りて、学業にも励んだ。
少女が性行為なしに子供を成したという話に懐疑的だった医者は、産後落ち着いてから少女の卵子を調べることを願い出た。少女の卵子の核には四十六本の染色体があった。普通は卵子は染色体が二十三本の減数が起こるのに、少女の卵子の核には、一度減数した核が二つ入った形で受精卵に近い形のものになっている。
その頃各地で性行為なしの懐妊が発表される。そしてその全てが女児を産む。どうやら卵母細胞がウィルスによって変化し、単為生殖になっていた。そしてそのウィルスは世界中に拡散している。
十六年前、世界的なバンデミック起こり、その時にある変異種が生殖細胞の遺伝子に変化を起こした。そのウイルスを罹患した少女は男性との性交渉なしに子供を産む。いや、男性がその生殖に参加できないのだ。既に受精卵の形になっている卵子の核には精子の核が入ることができない。そして生まれる子供は全て女児だけなのだ。これは男性の絶滅を意味している。
このウィルスに罹患した女性は遺伝子変化を起こし、その女性が産んだ子供は単為生殖をする。
これがわかった時、男たちは女狩りを始めた。聖女たちを殺そうとし始めたが、もちろん、彼女たちを守る側もいた。聖女たちは匿われ、女性だけの街でひっそりと出産し、育てた。しかも外から見て、遺伝子変化を起こしているかどうかわからない。
男たちは女性を全て殺してはいけないこともわかっている。女性を全て殺せば、人類は滅亡する。女性の卵子がなければ、子供は生まれない。子宮がなければ子供は生まれない。それがわかっているから、ウイルスに感染し、遺伝子変化を起こしている女性を探すことにしたが、それはかなり難しい。
遺伝子の何が変化したら、聖女になるのかはわからないのだ。聖女の多くは匿われ、わずかな聖女ではサンプルとして特定が難しかった。そしてウイルスは伝搬し、聖女は静かに広まっていった。
女性と性交後に生まれた女児だからと言って聖女でないとは言い切れなかった。ウイルスに感染したからといって、その感染した女性は普通に半分の遺伝子の卵子を持つ場合もあれば、聖女の場合もある。拉致した聖女に、受精卵を移植したこともあったが、それによる妊娠はなかった。異物に対する免疫反応で、全てが流産した。たまに流産しない場合もあったが、それはすでに聖女が単為生殖をしていた後に、受精卵が移植された場合のみだった。その場合でも、受精卵は着床せず、排出され、のちに聖女は自分自身の女児を産む。
5年、10年と月日が流れると、男女の出生率には顕著な差が出てきた。普通に婚姻した夫婦にも男児は生まれなくなった。15年後、最後の男児が産まれた後、生まれてくる子供はずべて女児だけになった。
その頃には男性の政治家たちによる、女性参政権の停止や、女性の経営参加の停止が法律で決められていたが、実効性はなかった。女性たちによる互助団体や、経済活動は日増しに増加し、女性の社会圏を作っていった。
人口減少によって放棄された村や島を買い取り、開発して女性だけの街を作って行った。そしてその村々、島々、で交流し、交易し、国境や、民族、宗教を超えて連帯していった。
男性たちは昔の核兵器の発射を目論んだ。どうせ男性社会は無くなるのなら、道連れに女性たちも滅ぼしてしまえ。
この計画は未然に食い止められた。今、死ぬことをよしとしない若い男性たちが止めたのだ。
地には女性たちが満ちていた。社会はそのまま維持され、インフラも、交易も、科学も、政治も、文化等も、滞りなく維持された。長い年月、世界は男を忘れた。
「犬とか猫にはオスがいるのに、なぜ人にはオスがいないの?」
子供がたわいもない疑問を持ったが、大人たちは微笑んで答えた。
「人にはオスっていないの。そういう種なんだよ。オスは昔の物語の中のファンタジーなんだよ。そう、昔々、オスがいて戦争を起こしていた時代がありましたってね」
女たちは子供におとぎ話を聞かせていた。御伽話には、戦争や、虐殺、大量殺人などの話があったが、子供向きにかなりマイルドな内容にはなっていた。
あくまでおとぎ話です。まに受けないでください。