処刑10分前ですが、転生先選択画面に振り回されています!
「おい、シオン。お前の処刑は今日だ。わかったな。」
「…。」
私はこの国の…イレンジア王国の王女シオン。
国王である兄のジェージスが悪政を敷き、困っている国民を助けただけで国家転覆を疑われ処刑されることになった。
ほんっとムカつく!
元々、兄は私のことをよく思っていないようだった。
理由は単純、私の方が優秀だから。
この国では性別関係なく嫡子が国王の座につく。
しかし兄は私にその座が脅かされていると感じていたらしい。
実際立太子前の人気は私の方が高かったので相当危機感を持っていたはずだ。
それがまさか処刑しようと思ってたとは思いもしなかったわ!
せいぜい他国に政略結婚の材料として売られるくらいだと思ってた。
タチが悪いところは、普段処刑は公開されるのに非公開で行われるということ。
要職についている人でも兄に対して不満を持っている人が多いから、私の処刑はその人たちに絶対反対される。
つまりまあ、処刑しちゃってから事故死だ!とか病死だ!とか言えちゃうわけ。
当の私は兄がわがまま全開なことは昔から知っていたから半分諦めていた。
「はぁ…。誰がこの国のインフラ整備と財政の再建をしたと思ってるのよ!ウエスタビアとの戦争を回避したのも私なのよ!?死んだら絶対呪ってやるんだから。」
イライラしながら壁を蹴ると、いきなり目の前に半透明の板が現れた。
「なにこれ?」
「なにこれ!?」
触ってみようとするけど、私の手は板をすり抜けて壁に当たった。
しかも、私が体の向きを変えると一旦消えてまたスッと正面に出てくる。
そして、その板にぴかーっと文字が浮かび上がった。
《こんにちは。転生先選択画面に移動するには画面を下から上にスワイプしてください。》
「は!?」
びっくりして触れない板をツンツンしていると、また違う文字が。
《はよせえ^^》
「!?!?」
何が何だかわからないけどとりあえず指示に従って矢印の方向に指を動かすと画面がヌルッと切り替わった。
《あなたの魂を◾️!△%?が気に入りました。あなたには特別に転生先を選ぶ権利が与えられます。》
《指示に従って必要情報を入力してください。》
また矢印が出てきてそれをなぞると、よくわからない枠がたくさん出てきた。
なんだこれ?と思っていると1番左上にある枠が光り、“名前”と表示された。
「名前?わ!?」
点滅しているので触ってみると、板の下半分が文字で埋め尽くされた。
「こ、これなにをどうすればいいの!?」
《音声入力も可能ですが言語が対応していない場合があります。ご確認の上使用してください。》
「なんなのよ!」
思わず壁を叩くと、叩いた時に板に触れた部分にあった文字が枠の中に表示された。
「もしかして…。」
よくみると出鱈目な順番に並んでいる世界共通語であることに気づき、私は“シオン”と文字を触ってみた。
すると枠が青色に光り、“OK”と表示される。
《その他の情報もタップして入力してください。》
表示通り生年月日やら国籍やらを入力すると、また画面が切り替わる。
《希望の転生先を選んでください。ダブルタップで世界の詳細が確認できます。希望の世界を選択し、画面下部の“OK”をタップしてください。》
“世界”と表示された下にはまるで風景をそのまま映し取ったかのような綺麗な絵と文字が書かれた四角い枠が4つ現れる。
《ルシファの世界》
《海黎の世界》
《パーニニャの世界》
《ヴェルメスの世界》
“ルシファの世界”はこの国にそっくりだった。
でもそのほかはこの国はおろか全世界を見ても同じような国はない。
ダブルタップってことは2回ぽんぽんすればいいってこと?
あ、そうみたい。
詳細を見て1番いいなと思ったのは“海黎の世界”だった。
なんと言うか、4つの中でとくに異色だったのよね。
OKを押すと、“海黎の世界”の絵に吸い込まれるような演出の後よくわからない文字と共に《真名》と表示された。
「なにこれ?」
《洪紫雨:海黎の世界でのあなたの真名です。読み方は こうしう です。》
《洪紫雨でよろしいですか?》
「え、ええ…?よくわからないけどいいわそれで。」
そう言うと何もしてないのに画面が切り替わった。
《シオンの能力を引き継ぎますか?
▶︎はい
いいえ 》
「私の能力?」
《記憶を引き継ぎますか?ってことだよ》
はあ…とりあえずはいにして次に進む。
すると、どことなく私に似た人の絵と共に文章が表示された。
《洪紫雨:春嶺朝の商家に生まれ15歳で女官に。真名である紫雨が使えず雨霞と名乗るため呪術が効かない。》
《クリエイター機能を使いますか?》
「クリエイター機能って?」
《転生後の容姿を変えれるよ》
「別にいいわ。」
◇
「処刑の時間だ。来い。」
もう!?早くない?
まだ画面は光っているけど、呼びにきた兵士にはこれは見えていないみたいだった。
手を後ろで縛られて牢屋から出ると板も一緒についてくる。
《ギフト:超言語能力を解放します。》
《付随ギフト:呪術対抗を解放します。》
《キャラクリエイターを終了します。》
シュンシュンシュンと画面が切り替わるがまだ画面は消えず、今度は画面に男の人の絵が映し出される。
《この世界でやり残したことはあるか?》
「!?!?」
「なんだ。」
「な、なんでもないわ。」
びっくりした!まさか絵が動くなんて思わないじゃない。
やり残したことなんてもうないわ。
そもそも私が最近やってたことってその場しのぎに過ぎないから。
でも、この国が…というか兄たち、私を裏切った人たちを不幸にしたいわね。
なんてお願いしたらいいんだろ。
《善良な魂を持つそなたでもそのようなことを考えるのだな。人間らしくて結構。安心しろ、そなたがいなくなったこの国はじきに崩壊する。》
「っていうか私の処刑を取り消したりできないの?」
《それは無理だ。だからそなたを転生させることにした。そもそも今のイレンジアの国王はいささか問題がある。彼を殺すことも可能だ。》
でもそれだと国がなくなっちゃうんじゃ…。
せっかくみんなが過ごしやすい環境を作ってきたのにそれは残念だわ。
《安心しろ、そなたのいとこがクーデターを起こす形で国を作り、今まで通りの領土で統治してくれるだろう。まあ、あまり細かいことは気にしなくて良い。》
まあなんかいい感じにやってくれるってことね。
画面を見ながら歩いているといつのまにか私が処刑される庭に来てしまった。
私は中央付近に座らされ、後ろに剣を持った処刑人が立っている。
そして兄が出てきて言った。
「はっ、大人しく俺の言うこと聞いて黙って従ってりゃ殺しはしなかったんだがな!ここまで目障りなことをされると殺すしかないな!最後に何か言いたいことはあるか?」
「特にないわ。どうせあんた私の話聞く気ないでしょ。」
「当たり前だ、お前は俺にとっての反逆者だからな。おい、とっとと殺せ。」
私の後ろに立っていた処刑人が剣を振り上げた瞬間、板が光った。
《それではまたご案内いたします。》
それではまた?
どういうことだろうと考えることはできなかった。
板が光った瞬間、シオンの首は切り落とされ胴体はその場に倒れる。
こうして、国民に知らされないまま王女シオンは処刑された。
そして、それがイレンジア王国崩壊の第一歩になったのだった。