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三題噺もどき3

ここあ

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくはちじゅう。

 


 また雨が降り出した。


 つい数分前までピタリと音がしなくなっていたのに。

 気付けば、窓を叩く音がリビングに響きだしていた。

「……」

 昨日は夕方には雨が止んでいて、綺麗に晴れていたのに。

 あぁ、でも曇ってはいたかもしれない、月やら星やらは見えなかったから。

 ジメジメとした空気がやけに重かったのを思い出した。

「……」

 おかげで寝苦しいったらありゃしない。

 ここ数日続く不安定な天気のせいで、寝不足ぎみな気がしている。

 その癖に寝るに寝れないから……毎日今まで以上にぼうっとしている気がする。

「……」

 今だって、お気に入りのソファに座って、ぼうっとしてしまっている。

 なんとなく飲みたくなったココアをもったまま。

 体育座りみたいな姿勢で、膝の上にカップを置いて。

「……」

 机の上には、読みかけの本が置いてある。

 昨日からまた新しい本を読んでいるのだけど、どうにも集中が続かずにいて。

 表紙を捲って数ページ読んでは閉じて、続きを読んでは閉じて、また開いては閉じてを繰り返している。全く読み進められていないので、この本を読むの自体をいったんやめようかと思っているぐらいだ。

「……」

 外ではさらに激しく雨が降り出した。

 今日はこのままずっと降ってるんだろうか……それともまた降ったりやんだりとしているんだろうか。

 携帯でもあれば、天気予報とか調べられるんだけど。今日はなんとなく手元に置いておきたくなくて、寝室に置いたままだ。まあ、どちらにせよ雨が降る以上、外に出る気にならないので、予報を知ったところで何もないのだけど。

「……」

 ざぁという激しい音が、リビングを満たす。

 雨粒が窓を叩く音が、低く鳴り続ける。

 今日は風も強いのか、かなり横殴りな感じがする。

 でも確かに、風の音はずっとしていたから強風なんだろう。

 台風か何かと見紛う程に天気が荒れている。風と雨と。

「……」

 はたと思い。

 手に持っていたマグカップを傾け、ココアを一口飲む。

 程よい温さと苦さで、喉を滑り落ちていく。

 そこまで熱くはないので、白湯とか飲むときの胃に広がっていく感覚はない。

 今日のはココアに冷えた牛乳を半分ほど入れたやつだ。

「……」

 冷蔵庫を開けたら見覚えのない小さな牛乳パックを見つけて。

 はて……と首をかしげたのもつかの間。

 そういえば、ココアを飲もうと思って買ったのだったと思いだして。

 期限を確認して、まぁまだ大丈夫だろうと言う感じで。

「……」

 もう一口ココアを飲む。

 元々甘みがついてるやつではなく、何だろう……よくお菓子の仕上げとかにかけるようなカカオ成分多めのやつ?をつかっているので砂糖とかを入れない限りこのココアは甘くはならない。その方が私的には好みなので。いいのだけど。

「……」

 温い液体が、落ちていく。

 ココアって、不思議と何かが満たされていく感覚になるのは私だけだろうか。

 温かいものだとなお思うのだけど。

 こうして、ぼうっと飲んでいるだけで、何かが少しずつ満たされていく。

 いつの間にか空いていた穴が埋められていく。

「……」

 昨日から続く痛みも、少しずつ引いていくような感覚。

 突然涙がこぼれても、まぁいいかと思ってしまう感覚。

 たまにはこんな風にしても、なんて思ってしまう感覚。

「……」

 正直涙をこぼすのは苦手なのだ。

 頭痛が酷くなるし、視界は悪くなるし、なんとなく恥ずかしい気持ちになる。

 息苦しくもなるし、気分は落ちていくし、消えてしまいたくなる。

「……」

 それでも今日は良いかなんて思う。

 不思議と痛みは引いていくし、視界は悪いけど、恥ずかしくもないし。

 息は少ししやすいし、気分はいいし、消えたいなんて思わない。

「……」

 まぁ、今は雨のせいでいろいろと不安定になっているだけだろうし。

 天気が良くなってしまえば、多少はマシになる程度の不調だし。

 寝不足が治ればどうにかなってしまいそうなものだけど。

「……」

 今日はこれでいいや。







 お題:携帯・ココア・涙

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