第八話「侵入」
モニカ先輩の守護精霊、黄色いムクドリのマロンは土属性の特性を持っていた。それも鍛錬の成果か、元よりそうした方向なのか、情報を得る能力に長けている。
振動や音響の伝わり具合から類推するのか。それとも、魔術的な繋がりで痕跡や繋がりを手繰り寄せているのか。
ムクドリの性質を考えれば音情報だと思うが、ともかくそうして精霊が感じ取った事をまとめる。
指示を出し、調べさせ、連鎖的に情報を解析する能力がモニカ先輩にはあった。
「解錠するよ」
「はい」
施錠されていた扉が稼働音と共に開いていく。
広間に備え付けられた大きな扉は運搬用のもので、どちらかと言えばダミー。その脇に隠された管理用の別口があった。
本来はどちらも強固に連携封印され、どちらも同時に解かなければならない二重防護になっているそうだが、今はそれが運搬用に解かれている。本当に、今日は滅多にないチャンスだった。
それにしても。
鳥型としての上空からの機動力、視野。ムクドリとして主人の声色を真似ての伝達能力。そしてこの、構造体として繋がっているのなら多くを読み取れるリーディング能力。
モニカ先輩の力は、まだ学び途中の生徒とは思えないほど完成されている気がする。
「複雑な術式ほど解いてしまえば簡単なんだけど、この先。単純な仕掛けは誤魔化せなくて、ファナル君お願いね」
「はい。モニカ先輩は後ろへ」
「うん。遮音の結界なんて出来ないから、出来れば静かにお願いね」
扉から通路を抜けた先、侵入者対策か警備用か。
運搬用通路と合流した部分、左右には大きな戦士像がいくつか並んでいた。
飾りではない。傀儡としてシンプルな侵入者対策。動く甲冑たち。
「黒装、展開」
僕は黒い装甲で形作られた装備を纏う。対する甲冑たちと性質としては同じようなものだ。
具現化した一回り大きな魔力外装を背負って、それが連動あるいは独自に動く。
動き出した甲冑は剣と盾を持つものと、弓を持つもの、全部で6体。弓は2体だ。
流れ矢がモニカ先輩まで飛ぶのは避けたい。
僕は黒装の脚で踏み込み、跳んだ。右奥の弓手に一気に肉薄し、右腕を振るう。黒き装甲で弓手を叩き潰し、左から飛んできた矢を別の手で弾いた。
大きさは僕より二回り大きいくらいの鎧だが、それでもそこらの甲冑とは強度が違う。長年魔物と戦って来た鎧は絡繰りの攻撃くらいではびくともしなかった。
再びの跳躍。黒装の出力を活かした突進で左の弓手も壁へと弾き、無力化。
少し心配だったけれど、4体の近接型も注意がこちらに向いている。良かった。
傀儡は近いものや脅威度が高いものを狙う単純な命令なのだろう。モニカ先輩が狙われていたら大変だったけれど、難なく倒す事が出来る。
「流石だねファナル君。思った以上で、吃驚しちゃった」
「リスレット先生の守護精霊の方が何倍も手強かったです。保管庫の警備がこんなもので大丈夫なのかな」
「そこは多分、連動して通報が行く予定だから足止め程度なのかも。そっちは無効化したし、大丈夫だよ」
「良かった。モニカ先輩が居てくれて本当に助かりました」
「こちらこそ。私一人じゃどう頑張っても戦えないもの」
あくまで学園の保管庫、今まさに扱うために警備が解かれている事を考えればこんなものだろうか。ともかくこれで、中へ入る事が出来る。