第六話「聞き込み」
本館とは別にいくつかある校舎のうち、実習や訓練場のある区画で僕らは聞き込みを始めていた。
本館ほど大きくはなくても4階建ての建物は立派で、もともとは実戦を考えて整備されてきた施設だったためか、装飾もそこまでない堅実な造りに見える。
それにしても、モニカ先輩の交渉術というか、話術あるいは人柄を見せつけられていた。
僕はあまり自分から話しかけようと思った事はないし、話す事が決まりきっていないとやり取りが難しいところがあるのだけれど、モニカ先輩は物怖じせず話しかけに行く。
「こんにちは。二年生のモニカ・ラッテです。ちょっとこの辺りで探し物をしてて」
考えてみれば、学園に来たばかりの14歳の小僧にガンガン話しかけて来て、こうした活動に引き込んできたのもモニカ先輩だ。
あの行動力は一体どこから来るのだろうか。
「うん、ありがとう。やっぱり?」
「だよね。鳥型って結構そういうとこあるよね。モニカちゃんの所もかぁ。この間は抜けた羽を鼻っていうか、嘴につけたままでさ。アホの子なのかなって心配したもん」
「それうちのマロンもやってた!」
何やら守護精霊あるあるで盛り上がっていた。いや、鳥型精霊あるあるだろうか。
能力にフォルムは関係ないと聞いた事があるけれど、こうした生活面での情報交換的に、同じタイプで話が弾むのはあるのかもしれない。
「というわけで、情報が入ったよファナル君」
「え、今のでですか!?」
関係のない雑談だとばかり思って油断していた。
不覚にも何を話していたのかちゃんと聞いていない。どうしよう。
「うん。鳥型はねー、落ちている光物は集めちゃうから。守護精霊も同じく、それも魔力を帯びた魔道具となると興味持つみたい」
「なるほど。だからあてがあったんですね」
「そういうこと。割と自由にさせている子も多いし。ただ普通の野鳥と違って精霊はある程度契約者と意思疎通できるから。何とかなると思う」
守護精霊の動物としての本能までは考えていなかった。
どうしても精霊というものは超然的に、ただそこに在るようなイメージがあって、つい忘れてしまう。守護精霊は人と共に在る事を選んだもの、だったか。
「けど、ファナル君? 今のでですかってちょっと酷くない? 何だと思ってたのかな」
「え、いや」
気付いたら詰められていた。
半眼になったモニカ先輩が不服そうにこちらを見ている。
守護精霊マロンまで、モニカ先輩の肩からこちらの頭の上に飛び乗って来た。
見えないけれど、僕の髪を啄んでいるのがわかる。痛くはないけれど、地味にやめて欲しい。
「全くもう。それでね、ファナル君。ちょっと相談なんだけど」
「はい」
「今夜、空いてる?」
「はい?」
僕は、モニカ先輩の真剣な視線から逃れられなかった。