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黒装のファナル  作者: SousiNagi
2/10

第二話「訓練」

 炎が散った。

 暗闇に舞う火の粉が目に焼き付く。


 ブラフだ。

 火を直接見てはいけない。


 上から振って来る火炎弾。

 それと同時、視界の左下方より音もなく這い寄った何かが迫る。


 竜だ。

 小型だが、それでも子供を一飲みしそうな頭部が牙を見せている。

 その突撃をぎりぎりの所でいなす。


 左の黒き盾は砕けたが、一撃を逸らす事に成功。

 腕は痺れたがそう言っていられる状況ではない。

 次に警戒すべきは――。


 そう頭を回し、反応が一瞬遅れた。

 躱した竜の先、うねる尻尾が目の前にあった。




 はっと気付けば放課後だった。

 何度目の光景だろうか。頭上には化粧板で装飾された幾何学模様、もはや見慣れた天井がそこにはあった。


「また先生と特訓してたの?」


 その声に目を向けると、モニカ先輩がベッドの脇に座っていた。

 応急室の一角、西日が差し込む中、彼女は眉根を寄せている。

 夕陽に照らされ、元から鮮やかだったオレンジブラウンの髪がより印象深く見えた。


「まだ守護精霊も授かってないんだから無理しないの。焦る必要もないじゃない」


 腕を組んでモニカ先輩はそう言うけれど、そうも言っていられない事情が僕にはあった。


「それでのんびりしてて良いわけじゃないし、ちょっとでも強くならないと。僕らの目的のためにも」

「それは、そうかもしれないけど。でもなぁ」


 言いたい事はわかる。

 この国には守護精霊というものが居て、皆それと契約してから本格的な訓練に入る事になっていた。


 その契約前に、生身で戦うなんてやめろと言っているのだ。

 でも仮にそうだとしても、契約出来る歳まで待ってはいられないのだから、これはモニカ先輩の感傷なのだろう。


 その気持ちはありがたいけれど、それでも僕は――。


「うん。やっぱり駄目。あなたは私の大事な共犯者でしょ? 勝手に怪我なんてされたら困る」


 共犯者。

 身を乗り出して大真面目にそんな事を言う。


 この人は、いつも距離が近いんだ。

 関係ないと言いたかったのに、言いにくくなってしまった。


 そんな心理まで見抜かれているような気がして。

 僕は正面からモニカ先輩の目を見ることが出来なかった。


「こら。ちょっと。ファナル・ベチーナ君?」

「いえ、ちょっと。何でもないので気にしないで下さい」

「何でもないわけないでしょ。こっちを見て。大事な話なんだから」


 がしっと両手で僕の頭を掴み、強引に視線を合わせてくるモニカ先輩。

 彼女、モニカ・ラッテとの共犯者契約。


 それが僕、ファナル・ベチーナにとって。この学園で結んだ最初で最後の契約だった。

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