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運命を変える付与魔術師(エンチャンター)  作者: 舞
1章 小妖精の町(エルフィーナ)
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34 代償の7日間 -Day7- 全てが変わる

「ちょっと下ろしてよ!」


 目が覚めてしばらく経ったところで、寝ぼけ眼だった目から意識がはっきりして状況を理解したのかお姫様抱っこしている自分が恥ずかしいと思ったのか下ろすように要求してきた。僕としてもしばらく腕に力を入れながら走っていたので腕力もかなり限界になっていたので足からそっと下ろすようにした。

 僕は、急いでいた足を止めてからルウの身体を足から滑らすようにして身体を床にそっと下ろした。


「王座の間を見た頃から記憶がないんだけど・・・」

「途中で寝落ちしちゃったんじゃない?」

「シノフ様と一緒に来たはずだったのに寝落ちしたら気付いてくれるはずですが・・・」


 おっと、どうやら王座の間の見学までした記憶に関しては鮮明に覚えているようだ。

 事を大きくするわけにもいかないので、空想話ではあるができる限り筋の通った説明をした。


「僕がシノフ様に発表が始まるまで王宮を自由に歩かせてやるように言ったんだ。なんでも、セイサの古い友人を紹介されて発表前に家に少し出向いていたんだ」

「なんだ、でもセイサはこっちに来たの?それにシノフ様も見る限りはいないよ」

「セイサに呼ばれて呼びに来ただけだよ。シノフ様には先に発表会場に戻ってもらって僕らも発表会場に向かうところだったんだ」

「なんだ、びっくりした」


 どうやら納得したような顔をしたルウだった。

 私一人でも行けるから心配しなくってもよかったのにとか言われたら、方向音痴を自覚症状なしで歩き回ることになる。つまりは老人がよく夜になって徘徊するのと変わらない光景になる。

 僕は迷子にならないように、ルウの手を少し強く掴んだ。


「フェイン様を思い出すな。私が迷子になって泣いていた時にフェイン様がいつも迎えに来てくれて家まで連れ戻してくれた頃があったんだ」

「安心してくれ、フェインの代わりになるのは今日一日ぐらいだ」

「でも、レストでも悪くないかもしれない」

「勘弁してくれよ・・・」


 フェインはルウのことをよく知っているのにはそういう過去があったのか。

 二人には離れていた間にまだまだ積もる話があるだろうからホブンも含めて4人で話を聞くことが出来れば時間をとってもいいかもしれないな。

 話しているうちに王宮内のホールの扉を開けると音で僕とルウに視線が集まった。

 そして発表中にも関わらず、壇上から降りたセイサがルウを抱きしめていたところで全員が立ち上がって拍手喝采が起こった。


「ルウ、無事でよかった。レスト、任せて済まなかったな」

「うん、特に何事もなくてよかった」


 パチパチパチ

 そんな拍手が飛び交い合う中でシノフは何も言わずにただ僕に向って手を合わせてごめんなさいと言ってきたようにサインを出されたのだった。

 その後ろから来たのはパンドラとリーベルだった。


「主にルウも無事でよかった」

「レスト、ルウ。ここにいる会場の皆さんは二人の帰りを待っていたんですよ」


 ここまで盛大にしなくてもよかったようにも思えるがセイサが抱きしめるルウの姿には、それほどの勝ちがあったのだろう。

 実は、発表はもうとっくに終わっていて二人の帰りを盛大に迎え入れる体制をセイサが計画していたのだというのは後日聴くことになる話だ。


 *

 発表後に発表者のセイサ、そして娘のルウ、そして僕の三人は王座の間に呼び出されている。

 もちろん、リーベルをはじめとした王家の皆様も同席している。

 そんな中でリアル王が放った言葉がこれだ。


「セイサ、君の発表は実に見事であった。ここまで竜の生態について研究をされているとは思いもしなかった。毎回、君には驚かされてばかりだ」

「はい、今後もできるだけお伝えしたく存じます」


 セイサが大きく一礼をすると、王様は一回相槌を打つとルウに視線を向けた。


「ルウ、君は父についていくことで異論はないのだな?」

「はい、私は何よりも深く縁がある場所として、何よりフェイン様との関係のように小妖精と黒妖精が仲良くなることを望むためにレストの村で学んでいきたいです!」

「そこまで、強く言われたら断れなくなるだろうな」


 そして最後にリアル王は僕に視線を向けて言った。


「レストも二人を受け入れることは問題ないな?」

「ええ、それに彼らの協力があってこそ村はより強固になると考えております」


 そして、王様は一息置いたところで声がずっしりと重くなった。


「さて、前振りはここまでとしてこの床の亀裂の修繕費はだれが払うんだ?」


 やべぇ、そんなことは喜びムードですっかり忘れていた。

 この床に入った亀裂はシノフが変身して巨大な『大黒鬼』になった時に転移させられる前に入った重みによる亀裂だ。多少なりとも僕が関係しているから、ここでシノフが入って言いだすのは考えにくいし責任は僕が全部持つ感じになったしどうしよう・・・


 その時だった。

 勢いよくドアが開いたかと思うと、そこから現れたのはシノフと隣の老人は誰だ?


「レスト、すまん。君には迷惑をかけた」

「あなたがレスト様ですか、うちの研究員が迷惑を掛けましたな。私はデン侯爵と言います」

「これはご丁寧にどうも・・・」


 デン侯爵は素早く後ろを向いて老体のような体からは気迫を感じさせるような声で言った。


「リアル王よ、これは我が家の研究員がしでかしたことでこちらのお三方は関係ありません」

「ほう、ではデン侯爵が自ら修繕費を払ってくれるのだな」

「はい、それと共にシノフ研究員を追放いたします」

「すまん、その話に口を挟むようで悪いがリアル王よ。私から提案があります」


 デン侯爵が追放宣言をしたときも覚悟が決まった表情である。

 たぶん、彼はデン侯爵には本当のことを話そうと思っていたのかも知れない。

 できればその事態を避けたかったが当然の判決だった。

 しかし、そこで大きくセイサが口を挟んだ。


「私の屋敷をシノフ研究員と家族に譲りたいと考えております。だから階級を貴族へと押し上げて頂くことはできないでしょうか」

「そんな、追放された僕をお屋敷にくれるなんて・・・」

「シノフ、お前が研究がなかなか実らなかったことは知っている。だから過去の私の資料のコピーが中にはある。それが君の実験に役立つかもしれない。だから託すんだ」


 たぶん、自分の判決が悪い方向に向くことを予想していただろう。

 その当時の気迫に僕は驚かされていたけど、もしかしたらここは一つの分岐点な気がする。


「だが、罪を与えずに褒美を上げることはできない。それは何においても同じだ」

「はい」

「じゃあ、それを覆るようにすればいいじゃん」


 その言葉に助けを出したのは僕だった。

 王様のいうことは正しいが、それは国でのルールなのかもしれない。

 だから、僕はこういう時に別の政策をとることを推薦する。


「だから、現在は民に公表する前だから不問にすればいい。民は発表を聞いて幸せな状況で悪い知らせを公表することは町のイメージダウンにつながる。ただ、セイサの推薦でシノフが貴族になることだけの公表することで町はさらに盛り上がるし改革の一部としてイメージが上がる。どうだ?」

「でも、そんな傲慢な意見を王様が許すかどうか」

「面白いかもしれない、さすが村や町に滞在したことで見えてくる意見だといえよう。では、それに付け加える形でうちの娘を移住させることも公表させていただく。文句はないな」

「では・・・」

「ああ、リーベル。お前のやりたいように生きなさい」

「お父様!」


 その日の午前中は、話し合いがそれで終わった。

 午後では、大きく分けて四つのことが人民たちに公表された。


 ・この町を『黒妖精の町(ブラックエルフィーナ)』に改名すること

 ・リーベル、パンドラを含む住民が多数がうちの村に住むこと

 ・セイサのお屋敷はシノフに譲ってシノフを貴族階級に挙げること

 ・僕とリアル王が友好関係にあり互いに助け合うこと


 僕がここでやることは終了である。

 この町も来たころとはずいぶん違ったように思える。

 あとはみんなを連れて帰るだけだ。

予告:明日で1章は終わります。

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