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運命を変える付与魔術師(エンチャンター)  作者: 舞
1章 小妖精の町(エルフィーナ)
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30 代償の7日間 -Day6- 王女と勇者の縁談 前編

 誰かが言った。

 人生には転機が存在してその転機が良い方向に働くときもあれば悪い方向に働くときもある。それを決めるのは転機となった時の自身の選択次第である。ただ、その選択が迷う余地なく決められるなら自ずと良い結果が後からついていくだろう。


 幼少期から選択を迫られたときに迷っていた僕に誰かが言った。

 その言葉を真に受けずに、迷う人になってしまった自分には悪いことしか起こらなかった。

 僕は自分の居場所は人間のいるところにはないんだと感じていたかもしれない。

 王様も褒めてくれたが、ただ僕の珍しさを利用するだけの道具としてしか見ていないのかも知れない。


 そんな毎日に転機は起きたのだ。

 *

 午前10時、王宮内の第一会議室


「この度はご足労いただきありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ縁談を了承していただきありがとうございます」


 国王も勇者も相変わらず、変わらない様子だった。

 ただ、ローブを深く被っている僕を二人共は明らかに警戒しているようだった。

 縁談会場の第一会議室にいるのは僕、リアル王、リアフ、人間の国王、勇者だった。

 確かに考えてみれば僕は部外者に近しい存在なのかもしれないが、全員と関わりのある参加すべきメンバーではあるのだ。

 しかし、それにしても何度見てもリアフの綺麗な着物の仕立ての時にも何度か見たけど綺麗だ。


 *

 数分前に、僕はリアフの準備の様子に部屋に伺っていた。


「リアフ、なんで縁談なんて受けたんだ?」

「レストさん、あなたの目が間違っていることを言っているとは思っていません。ですが、それはあなたからの目線です。私がこの目で見ないと納得がいかないのです!」

「そうか、止めはしないけど後悔するなよ」

 *


 こうして縁談が成立しているわけだが、勇者の面だけはかっこいいと思える程度にはイケメンだから国民からの信頼も厚いことが伺える。

 まずは本番と言わずに国王がリアル王と話す世間話から始まった。


「実は、この森でレストとかいう少年が行方不明になってましてね。私としては逸材なので回収しておきたいぐらいの考えなんです」

「それはどんな特徴なんです?」

「いかにもさえない感じの少年で隣の勇者も1日中は森の中を探し回ったのですが見つからなくて返ってきた次第です」


 やはり想定通りだった。

 自分の面子を潰さないためにやっぱり事実を捻じ曲げて伝えていやがる。

 本当のことは違うのに、表面ではいいやつだから国王だって少しの疑問を抱いていないことが発言としてとれる。

 そんなこんなで話し合っているが、リアル王には事前に僕に目を合わせるなと言っているために一度もこちらを向こうとしない。

 国王が一方的にしゃべるだけだったので、普通に話を進めることになった。


「さて、そろそろ本題に入りましょうか」

「そうですね」

「その前に、そのローブを被っている黒妖精は必要ですか?」


 僕のことに突っ込んでくるのは分かっている。

 ただ、今は我慢のターンだ。

 咄嗟にリアル王がフォローに入ってきた。


「あんまり、お気になさらずにお願いします」

「は、はい」


 やっぱり僕を警戒している。

 縁談でそれは部外者が入って来るなんて普通は言語道断なことだ。

 別に僕はこの縁談を妨害しようと思って言っているわけではないので邪魔しなければいい。


「まず、アピールポイントですが、この勇者であるセンは(僕の付与のおかげで)魔王を討伐したことはもちろんのこと実績がかなりあります。そして(僕を除いて)パーティーメンバーからの人望も厚いです。また、(表の面しか見てない)民衆たちからの評価も高く尊敬や信頼をされています」


 やっぱり付け足してみるとこれは面白い。

 僕に対する態度とは正反対のことがすらすらと国王の口から語られていることに僕は吹き出しそうになりながらもこそこそと笑っている態度にセンは怒り心頭のご様子だ。


「こいつ、一発殴っていいか?」

「やめないか、これじゃ私が言っていることが嘘みたいじゃないか!」

「っち!」


 勇者であり完璧超人の立場を守り抜くために分が悪そうに拳を収める。

 こちらは完璧に仕組まれたうえでやらせてもらっているんだ。真実と違えば、この縁談も破談するのが目に見えている。この縁談は元から破談の予定なんだけどな。


「では、こちらのターンですね。アピールポイントですが、黒妖精の中で剣技が上手で森ではトップクラスの実力があります。それに、みんなをまとめるリーダーシップも兼ね備えております。家事全般や気の利いた行動もいち早くできます。唯一の汚点は酒癖が悪いところですが心の広い方なら安心ですね」

「いや~、それほどでも」


 さて、ここからが本番みたいな感覚かな。


「次に2人だけで数分間はお話をお願いします。その為に私どもの3人はご退出いたします」


 リアフ、うまくやってくれよ!

 僕はローブの中で目配せをして国王、リアル王、僕の3人は部屋を退出した。

 廊下からでも勇者の声は聞こえているが、ある時を境にぴたりと会話がやむ。

 それから羅列される言葉の数々にとんでもない怒りの声が響き渡りながら机に登る勇者とさやから剣を抜くような音が聞こえてから数秒後にパキンと鋭利なものが折れるような音が聞こえた。


 どうやら、うまい感じにやってくれたようだ。

 僕は、2人の時間になったらできるだけ勇者を煽るような発言を連発してくれと頼んだ。


「アピールポイントが全て噓だとか裏がありそうで怖いとか何でもいい。奴はそういう周りの評価に敏感で、剣されるとすぐに怒り出す。一応は安全のために防御魔法はかけておくからよろしくね」


 その惨劇みたいな音が只事じゃないと感じたのか国王が扉を開ける。

 ドアを開けるとそこには折れた剣先を構えたセンがそこにはいた。

 よかった、僕が直前に『絶対防御』を付与しておかなければ確実に死んでいただろう。

 その様子を見た国王は目が覚めたかのように目を大きく開いて静かに聞いた。


「どういうことだ?これは」

「この人が私を突き刺して殺そうとしたんです!」

「いや、これは」


 リアフは途端に被害者面をし、センは咄嗟に弁明しようとしたがもう遅い。

 リアフは確かに被害者であるし、先に手を出したのはそちらだ。

 どんなことがあろうとも、言論に対して暴力を選択するのは縁談としてはありえない行為だ。

 周りにいたメイドたちがお怪我はありませんかなどと一部一部を確認していく。

 そしてどこにも傷がないことを確認してメイドたちは去る。


 残ったのは静かになって信じられない放心状態の国王と机の上に膝をつく勇者に、先の尖った剣の先端が机の上に跳んでいる。まるで殺人現場のような状況であり、華やかなはずの縁談が愛が重すぎて殺してしまったようなサスペンスのような現場になってしまう。

 幸運なことは死傷者がゼロだったことぐらいだろう。

 リアフが僕の胸に飛び込んできたが、その顔は随分と満ち足りたような笑顔だった。


「はあ、相変わらず貶されると頭に血が上ってすぐに剣を取り出す。変わっていないな」

「なんで、何もしゃべらなかったお前が俺を知った風な口を利くんじゃねえよ!」


 流石は隠蔽のローブと言われた代物、声を出しても気が付かないとは呆れた。

 互いにもう関わることはないだろうから忘れようとしていた時だったのかも知れない。

 リアフの頭を数回撫でた後に僕はローブのフード部分を脱いだ。

 たぶん、勇者も国王も驚いたと思うだろう。

 リアフとリアル王は知っていたかのように見守ってくれている。

 だって、散々僕のお話を丁寧にしてくれたんだからな。


「久しぶりだな、勇者セン!」

「レスト!」


 満を持しての登場、捨てられてから約3か月ぶりの再会だった。

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