居場所と狼とモフモフと
「行く当てもなさそうだし、もうこっちに住めばいいんじゃないかな?」
「人間は断ってるんだけど人間の国に帰ったら逆に居辛くなりそうな気がする」
その二人の反応には、僕も少し申し訳なく思ってしまった。
確かに、パーティーの3人がどんな噂を流しているか分からない。死んだとか言ったら幽霊みたいな扱い受けそうだし、パーティからまたひどい扱いを受けそうだ。メリットを考えるならギルドの人に会えるぐらいだが、そうなるとギルドの方に迷惑をかけるデメリットの方が高くなる。どう転んでも悪い方にしか傾かずに国から出ていくことになってしまう。
僕には選択肢が残されていなかったので、観念したように呟く。
「そうだな、助けてくれた2人のために身を捧げよう」
「よし、決まりね!」
「やったぁ!」
魔物が人間と同居して大丈夫なのかなんて問題は深く考えなくていい、自分が見た光景を信じるだけだ。
小妖精も友妖精もジャンプして大いに喜んだ。
彼らが敵意を向けてこないのが唯一の救いかと思ったが、話してみると意外と情に厚くて面白い魔物たちだと感じた。何よりも僕に共感してくれる初めてが魔物だったことも不思議だと思う。
下に降りて机1つと椅子3つが置かれている部屋に移動してから、それぞれが椅子に座る。
「じゃあ、まずは自己紹介。姉ちゃんから」
「小妖精のフェイン、この家で家事と魔法の研究をしています」
「フェインの弟の友妖精のホブン、剣士として修行中です」
「僕は人間のレスト、付与魔術師という職業だが剣もそこそこ腕が立つ。ただ、この森については全く知らないのでよろしく頼む」
「うんと言いたいんだけど森のことについては私よりも適切な人がいるよ」
僕が?という表情をしながら首を傾けるとドアを叩く音が聞こえる。
ドンドンドン
自分の椅子がドアに一番近かったので、後ろのドアの方へ向かう。後ろでニコニコ笑う2人の顔はムカつくが、どうにも僕に開けるべき客だと予期した感覚だった。
これで人間が来て帰るために連れ去られるとかだったら、もう何も信じられなくなりそうだ。
そう思いつつも、恐る恐るドアを開けた。
「遅れてすまん、仲間を連れてくるのに手間取ってしまって・・・」
その白髪でイケメンな獣人は申し訳なさそうに2人を見ていったのだろうが、出てきたのは僕なので途中で発言が止まって3歩後ろに下がって土下座をした。それを見ていた後ろの6匹の狼たちも大人しくお座りをしていた。
先程の言葉を言っていたの獣人ってのはこのイケメン狼のことかよ。
確かに、人間の俺より数百倍イケメンな顔をしていたので魔物や魔獣のイケメンの考え方と人間のイケメンの考え方は類似していると理解できた。
そういや話の中で命の恩人とか言ってたな。
「あの、君を助けた覚えはないのですが・・・」
「そうですね、これならわかりますか?」
白髪の狼が光りだしてどんどん小さくなっていく。
その光が治まると、そこにいたのはあの時助けた小さな白き狼だった。
あの時の生命力を与えた狼があんな風になるとは、全く想像できなかった。
「実は、私もあの時は生きるのに必死でした。食料を見つけては巣に持ち帰るの繰り返し。光すら見えないお先真っ暗でした。それなのに私が噛み付いても許すどころか助けてくれた方には頭が上がりません。どうか仲間としてここに置いていただけませんか?」
「どうする?」
後ろを振り返ると、一歩ずつ近づいて来てるフェインがいた。
おいおい、こいつのこの態度を見るにおそらくケモナーというやつなのでは?
ホブンも首を縦に振っているから構わないと言った表情だ。
普通なら姉と弟の反応は逆じゃないか?
「いいんじゃない、それより白い狼を私たちにもモフらせて!」
「いいと思う、仲間が増えてくれるならありがたい」
「ありがたいのですが、近づいてくる小妖精にはなぜか身の危険を感じるのですが・・・」
後ずさりする白き狼の後ろ脚を引きずる音を彼女は聞き逃さなかった。
そして、飛び掛かろうとした瞬間に白き狼は華麗にかわす。しかし、彼女はあきらめなかった。立ち上がって外に飛び出してから追いかけっこが始まった。その小妖精のキャラの崩壊ぶりは凄まじかった。まるで、血眼になって餌を追う魔物のようだった。
「姉ちゃんはあのようになると手が付けられないんです」
「完璧な美少女でも、あの豹変ぶりにはついていけれんな」
「そういや、あの6匹の狼たちはお座りしたまま動かないんですけど、どうします」
「触ってみるか」
僕とホブンは6匹の狼をなでたりして、友好的な関係を気付いた。
撫でたり、追いかけたりして6匹とも僕ら2人に対して尻尾を振るようになった。
そして、6匹を並べたところで僕はホブンに聞いてみた。
「この6匹を見て何か気が付かないか?」
「え?」
「あ、3匹は毛並みが逆立っているけど3匹は毛並みが垂れている」
「そう、これは雄と雌の違いだ」
そんな説明をしているだけでも数時間が経つ。途中で、「助けて」「何か指示を」とか言ってる声が聞こえたが面白そうなので少しこのままでおいておくことにしようと思ったが、このまま野放しにしておくのも厄介だな。
そして、考えると一つの名案を思いつく。
そうだ、逆にそれを利用しよう。
「狼たち、今日はご馳走したいから食えるものを森から片っ端持ってくるんだ。頼んだぞ」
「「「「「はい」」」」」
そして、狼たちは散らばっていく。
さて、この間にフェインの回収を急ぐか。
ホブンはフェインには勝てないのはさっきの発言で分かった。
しかし、僕の能力を使えば勝てる可能性があるかもしれない。
「ホブン、フェインのことは任せていいか?」
「でも、本気モードの姉に競争で一度も勝ったことないんです」
「あのモードから解除するにはどうしたらいい?」
「たぶん、白き狼が獣人に戻ればいいと思います。でも、どこにいるかすらわかりません」
「大丈夫、手を出してみろ」
確かに、ホブンの言葉が長い間は一緒にいるだけあってフェインの情報においては詳しい。
自分だってこの森が広く続いていることは知っている。唯一、分かることは全速力で走っているので位置が分かれば捕まえやすいだろう。それなら・・・
僕は、手助けするためにホブンにある力を使った。
「付与、浮遊&加速」
「これは・・・」
「ああ、同時に付与は僕でもできる。それでもう一度聞くぞ、フェインのことを頼めるか?」
「フェインを捕まえて、白き狼を獣人に戻せばいいんですね」
「そういうことだ」
「了解しました!」
本気度ならこっちだって負けてない!
本来ならばダブルで付与するのは、攻撃と防御が普通らしいが状況によって使い分けることができるのが便利だ。浮遊することはもはや概念であるが、どんなものでも浮かすことができる。つまり空中から捜索できるわけだ。
ホブンは浮遊を使って、位置を特定して付近に降りてから加速で追いついてフェインを捕まえた。
それでも、暴走は抑えきれないので白き狼に届くように叫んだ。
「白き狼、レストからの命令だ。獣人の姿に戻っていいそうだ」
それからすぐに獣人の姿に戻ると、フェインの暴走は視界にモフモフがいなくなったことで消失した。
覇気を失った様に、しぼんでいくかのようなテンションを見せていた。
わずか30秒のことだった。
「じゃあ、帰るぞ。レストが待ってるしな」
そんな仲間が増えて、どうにかこうにか一日目が終わろうとしていた。
しかし、ホブンにはどうやら適応力が凄く高いのかもしれない。
そろそろ進む予定です。
 




