21 代償の7日間 -対フェンズ-
今回のお話はセイサの視点になります。
*
私はセイサ、訳あってレストという人間の少年とフェンズという小妖精の魔法の天才の試合の審判をしている。なぜなら、フェンズの両親がとても審判できる状況ではないため消去法で自分になっただけである。ただ審判である以上は、どちらにも加担することなく正々堂々と戦いを見守るのが審判の務めである。
それに、公平という立場において重要なのは私の隣にいるレストの仲間であり、フェンズの姉であるフェインの存在である。彼女はさっきまで泣いていたが今はすっかり泣き止んでこの戦いの行く末を私と同時に見守っている。レストが条件をなくしたことで、二人共が油断せずにただ実力を計るための真剣勝負となっている。
「セイサ様はこの勝負はどう思います?」
「フェンズは、精神状態が不安定ですから何かしら支障ををきたす可能性があるといえます。今の状況は、レストが優勢だといえるでしょう」
「それは違います。弟は、少なくとも魔法の使い手として安定性を重視しているのです。魔法は充てなければ意味がないのは当然のことです。それは体全体に染み付くように残っているのでフェンズが魔法を外すことはたぶんないでしょう」
「では、あなたはこの試合はどう思いますか?」
「私でも分からないところはあります。まず、フェンズの魔法の精度がどこまで磨きがかかっているか。そしてレストはどのような戦い方をするのか。だから、どうなるかは分かりません」
「レストは確か付与魔術師と呼ばれていますが、それは自分には付与はできないらしいですね」
「はい、だから私にこの剣を渡してきたことも意味不明な話ですよ」
2人の戦い方を知っているからこその発言だともいえるだろう。
それに、渡された剣は人間の国から送られて魔物特攻が付与されているので使ったらレストが間違いなく勝利することは彼は分かっていただろう。
しかし、彼はそれを自ら捨てた。その行動の意味すら分かっていないというのに始めてしまった。
戦い始まってから数秒後にフェンズは魔法の準備を始めている。すると、レストは足を動かしてフェンズの方に歩み始めた。
そして詠唱が終わると、フェンズの周りに5つの火炎弾が出現した。その瞬間にレストは足を止めた。
足を止めたと同時に火炎弾が1つずつ数秒ごとに不規則な動きでレストに迫っていた。
消える瞬間までレストは動いていなかったので確実に命中はしているはずだ。そして火炎弾が地面に着弾したときに生じた煙幕がなくなると、レストはそこにいなかった。
逃亡するわけもないし、穴を掘ったような形跡もない。
その後に数秒して、レストの声が聞こえた。
「こっちだ」
彼は、フェンズの背後に回って軽くこぶしを当てていた。
もちろん、痛くもないしダメージを与える気のない拳で背後でグーして背中に当てているだけだった。
フェンズは警戒して一歩だけ身を引いた。
だが、レストはそこでダメージを与える気はなかったように思える。
「なるほど、今の一撃で勝負はついていたと言わざるを得ない。でも、二度も同じ手は食わない。それに対する対処法は知っているからな」
たぶん、フェンズが仕掛けたその言葉についてもレストは知らないだろう。フェンズは歴戦の戦士たちのデータをほとんど完全にコピーして再現できるし対処だってできる魔法を使うものとして弱点である接近戦さえも彼にかかれば距離を取ることなんて造作もないのだ。
すると、フェンズが無詠唱でさっきの倍の10発の火炎弾が用意された。
それと同時に、フェインが笑って言った。
「この勝負の結果は、レストの勝ちよ」
「あっちは10発の火炎弾を用意しているなら、先程のようにはいきませんよ」
「見てれば分かる」
5発の火炎弾を先程と同様に僕に向けて撃ったかと思うと、彼は空中に浮いた。
なるほど、これなら背後に回られることはないし死角から攻められない限りは残り5発の火炎弾で仕留めることが出来る。
すると、地面の1部分がところどころ盛り上がって火炎弾の4発と相殺し合う。
おそらく、この最後の1発で勝負が決まる。
最後の盛り上がった地面が全速力でフェンズの方向へ跳んでくると同時にレストがその岩に乗っている状況で来た。
そして、彼は僕をめがけて最後の火炎弾を交わしてジャンプした後で岩を相殺した。
あと、もうちょっとのところで彼に届いたというのに・・・
そんな白熱した試合だったが、彼はその場で上に向って足を延ばして彼の手に持っていた魔法の杖を場外へと落とした。
そして、2人ともしっかりと着地した。
「そうか、そうだったのか」
「僕はまず、最初の攻撃は君の身体にダメージを与えると宣言したようなものだった。でも実際に狙うのは杖だった。君の魔力もすさまじいのだろうが、杖が無ければ魔力を操作することさえもできない。最後の攻撃の時に火炎弾を4発破壊したのは、君が飛んだ動きから5発の火炎弾が君の近くにあることが分かっていたから1発だけ残した。そして君の火炎弾が1発しかないのを確認してから上に跳ばして、最後は君に急接近して最後の1発の火炎弾を交わして杖を場外に送る。これで君の魔法を出せる武器は無くなった」
「君のような勝利をする人の動き方は過去のデータにはなかった」
「あそこで、君がもう5発分は火炎弾を詠唱で作っていたら負けてたかもしれなかった」
白熱する戦いは和解するという形で終わったが、レストはフェンズの両親に向けて改めて言った。
「この子の魔法には、あなた方の大切な思いが籠っていました。フェインの件はこちらで受け持つことにするので、安心してください。フェインの了承があればこちらから連絡します。それからフェンズ、再戦は忙しくなければいつでも受け付けるよ」
「フェインのことをよろしくお願いします」
「じゃあね、レスト!」
彼はフェンズにいつまでも、手を振っている様子が印象的だった。
勝負が終わった後に、フェインは言った。
「魔女様が残したファイルの中に付与魔術師のことが書かれていたのよ。滅多にいない付与魔術師の中でそれを生かせる人間は少ない。付与魔術師の戦いとは付与魔術を利用することで戦いを有利にするいわば頭脳戦みたいなものなのだってね」
「彼には、その素質があったと?」
「断定はできないけどあったのかもしれないね」
「フェイン、みんなで一緒に飯を食わないか?」
「え、私まで言いのかしら?」
私は、この勝負は一生忘れることはできないだろう。
いつか、君の持つ力を最大限みられる日が来るかも知れないことに胸を躍らせる日々だった。
*




