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運命を変える付与魔術師(エンチャンター)  作者: 舞
0章 はじまり
2/45

目が覚めるとそこは・・・

*

 僕は元々一人だった。

 両親に捨てられたのか殺されたのかは分からないが、森に赤ん坊と包む布だけ置き去りにされていた。

 幸いにも森の調査に来ていた冒険者が発見してくれてから、ギルドマスターが面倒を見ることになった。ギルドマスターは森からとってレストと名付けた。

 幼少期は剣の練習の相手になってもらったりして実力をつけていった。その時にはいろんな太刀筋や剣の振り方を学んで家族はいなかったけどギルド自体が家族に感じてとても楽しい時期だったのを鮮明に覚えている。


 それから数年後、なんとか魔法学園に合格した。

 剣の練習ばかりしていたのに、なぜ魔法学園に受かったのかは全く分からなかった。ギルドマスターや誰かが繋がって口添えした可能性もあると思っていたが、全員に聞いても誰一人として心当たりはなかった。


 ただ、入ったからには魔法の練習をしようと頑張ってみたが僕は魔法が使えなかった。

 しかし、魔法が使えなかったのに僕自身の中に魔力はあった。その時代の常識では、魔力がある生徒は魔法を打てるのが当然だったために騒然となる事件だった。希少性があったことで周りの生徒からは好印象で魔法が使えない僕のために進んで手伝ってくれたりもした。


 しかし、このことは王族に公表するわけにはいかなかった。希少性があっても戦力として認められなければならない。その目的を果たすために、魔法の授業はいつからか特別室の中で行うようになった。古い書物を漁っては、魔法の練習の繰り返しだった。なんで、こんなに疲れることをしなきゃならないなんてことを考える暇もなかった。

 そんな時に辿りついたのが、付与魔法だった。他人に魔力を付与することができるのが成功したときに、自分の魔力が指している方向が分かった気がした。


 その後は、付与魔法が重視するように研究されていった。僕自身も、どこまで付与魔法を扱えるのかも合わせて研究された。

 例えば、付与魔法には現状において2つの種類があった。

 強化(バフ)弱化(デバフ)である。その名の通り、強化は強くすることで攻撃や防御といった力が上がる。対して弱化は弱くさせることで魔物などを倒しやすくする。その2つから、さらにいろんな分野に分かれていくのだ。また、その2つも使い分けることに寄って戦いを有利に運ぶことができる。これは国としても十分な戦力になる。

 

 思い立ったが吉日、王様に報告すると大層に喜んでくれた。

 そして、その職業を付与魔法を操るものとして付与魔術師(エンチャンター)と称した。

 その翌日に、僕は10歳で魔法学園を卒業して勇者のパーティーに入って付与魔法の経験を積むことになった。

 勇者一行は、僕の能力について聞いていなかったようで付与魔法をかけてはいるが序盤の方はあまり役には立てなかった。中盤の時にピンチになった時があって僕が付与魔法を発動して倒せたことがあったが、地味すぎて自分たちの力が覚醒したのだろうと思い込んでいた。そのまま終盤の時にも魔王の一撃に耐えることができたのも付与魔法のおかげであるが、それは誰も気が付かなかった。そして帰りにはこんな仕打ちだ。

 僕は、今までの4年間でかなりの強化や弱化を1人で学んで3つ目の概念の領域に到達するまで極めていたが苦しみを分かってくれる人は誰もいなかった。最後にあの白狼だけが自分に対する苦しみの象徴だったのかもしれない。あの白狼を復活させただけでも僕の生きた意味はあったのかもしれないな。

*


 僕は少しずつ目を開くとそこには知らない気の丸太づくりの天井が映し出される。それに、ベッドや掛布団も白い何かの羽毛で作られている。

 そうだ、大量出血していた腕を触ると治療したように包帯が巻かれていた。触った感覚もそのままある辺りでどうやら助かったらしい。そこには僕だけしかいなかったので、あの白狼はどうやら森に帰ったのだろう。少し寂しくもあるが、またどこかで出会えるといいなとも思った。

 とりあえず、動いて問題はないし助けてくれた人にあいさつをしないといけない。

 起き上がって、ベッドから降りようとしたときに正面のドアノブが回った。

 ここに長居するわけにはいかないし入って来る人物には感謝しないといけない。


「あら、起きていらしたのですね」

「え?」


 人物ではなく長い耳と白い髪をなびかせたところを見ると、小妖精(エルフ)のような見た目だ。

 僕は小妖精の歳の概念は知っている。人間なら僕より数歳上だろうが小妖精はその概念が通用しない。たぶん100歳は超えているだろう。小妖精も人間からすれば敵意を向けてくるならば討伐対象になるが、会話できる現状を見るとコミュニケーションは取れそうだ。

 それに小妖精は集団でいることの方が多い。しかし、周りにはエルフの気配はしないとなると何かの因果でここに言った感じだろうと思う。

 僕は姿を見たときに少し驚いたが、冷静になって頭を抱えた。


「君が助けてくれたのか?」

「いえ、実際に助けたのは私ではありません」


 僕の横に小妖精が腰を下ろす。

 どんなに頭を抱えていても、小妖精は僕の目をじっと見つめていた。

 敵側でしか見たことなかったけど、こうやって直視されると少し可愛いかもしれない。いやいやいやいや冷静になるんだ。しかし、じゃ何でこの家にいるんだ?

 ふと、疑問が残る。


「じゃあ、誰が助けてくれたんだ?」

「えっと、名前は知りませんが獣人だった気がします。その獣人が君を抱えてここにやってきたんです。そういえば、奇妙なことを言ってました」

「奇妙なこと?」


「この方は私が本能で嚙み付いたのにもかかわらず、助けてくれた命の恩人だ。この人を丁重に手当てしてくれ頼む。このままでは命の恩人を死なせてしまうことになる」


「とそれに似たことを言ってた気がします。私も信じられませんでしたが、気高い上位種族の獣人がここまでプライドを捨ててまで頭を下げるなんて普通じゃないと思いました」

「そうか、ここで腕を治療してくれたってわけか。それにしても冷静だな」


 正直に言うと、もっと怯えるかと思ってた。

 普通は人間と魔物や魔獣は敵対関係にあるところだが、獣人からしてみても敵であることに間違いはない。そもそも獣人なんか助けた覚えはないし、あの命の恩人という発言に何か引っかかる。


「私自身も、あなたは危険でないと判断しました。だからこんなに気兼ねなく話せるのです」

「ふ~ん、それでその獣人は?」

「仲間を連れてくると言ってました」


 獣人も集団生活をするのが普通だ。仲間を連れてきてまで僕に固執する理由とはいったい何だろう?

 小妖精はこっちも見て笑顔を向けてきたが、いくつか分からない点は深く考えないことにした。

 現状を整理しよう。まず、僕はその獣人に助けられた。その後に、獣人が懇願して小妖精に治療をしてもらってベッドに寝かされた。そして、獣人も小妖精も僕を敵対視していないことだ。

 こちらの頭の整理ができたので、小妖精に気になっていることを聞いてみた。


「あなたはここで何を?」

「魔法の研究です。ここは元々、魔女の家だったんです」


 魔女についてはよく知らない。

 習った通りだと、人間に味方する魔術師を賢者と呼び、魔物に味方する魔術師を魔女と呼ぶことぐらいしか記憶にない。主観として魔女にはあまり関わらないというのが常識である。

 それに元々ってことは今は魔女の家じゃないのか。

 どこかしらに逃亡、自殺の可能性もあるけど小妖精が暗い表情になるので他に理由は別にありそう。

 この顔を見ればわかるが、デリカシーがないと言われても聞かないと納得できないことだった。


「今は魔女の家じゃないのか、今は魔女はどうしてるんだ?」

「ええ、先月亡くなったんです」


 どうやら深堀はしないほうがよさそうだ。それにしても、魔女はてっきり長生きするものだと勝手に勘違いしていた。魔女といっても所詮は人間、病気で簡単にくたばるなんて普通のことだ。でも、小妖精からしてみれば短いものなのかもしれない。


「話の振り方が悪かった。ここには君以外に誰かいるのか?」

「はい、弟が一人といっても小妖精ではありませんが・・・」


 ここから、まだ弟がいるらしい。なるべく凶暴な魔物ではないことを信じてはいるが、小妖精じゃないとするとなんだ?この森の辺りに生息する魔物や魔獣は魔王を倒すルートに入っていないので調べてはいなかった。危険で凶暴なやつとかだったらどうしよう。

 考えていると、扉を叩く音が聞こえた。


「お姉ちゃんいる?」

「いるよ、寝ていた人が起きたから話をしていたの」


 そして扉が開くと、飛び込んできたのは灰色の髪と少し肌の色が緑ががった顔を見ただけで何の種族か分かった。雑妖精(ゴブリン)である。人間からすれば確実に討伐対象であるが、どうやら様子がおかしい。

 部屋に入って早々、僕の胸に飛び込んできた。

 雑妖精がこうも慣れ慣れしく人間に、ハグさせてくれるものは到底思えない。それに、むしろ人間に対して全く警戒心がなくて、友好的と考えられることもできる。


 子供の時に好奇心旺盛だった自分を思い返す。

 そう感じて、甘やかしたくなってしまう。それにすごく安心した気持ちになった。

 僕も迷信であって欲しかった生物に違いない、これは友妖精(ホブゴブリン)だ。

 

 この二人は僕をしっかり見て話を聞いてくれる。

 そんなことだけでも、魔物と言えど感謝したかったぐらいだった。

 それに、僕には幼少期以来、自分の存在をちゃんと認めてくれたのが何より嬉しかった。

 すると、自然に涙が零れて一つ、また一つと床を濡らす。


「人間さん、どうして泣いてるの?」

「ああ、ごめん。自分が存在する大切さを理解できたのが久しぶりだったんだ」

「何かつらいことがあったんでしょう、無理に話さなくてもいいのよ」

「いえ、できれば聞いてもらった方が気が楽です」


 それから、自分の生い立ちから今までの全てを話した。

 流石に、自分の主観でしか話せることはなかったけど、二人共が親身になって聞いてくれた。

 魔物に人間のことを話しても理解はしてくれないと思った。

 なぜなら、魔物と人間は敵対関係だ。でも、この二人ともに話しているとなんだか魔物と話している気分ではなくなる。

 話し終えると、なんだかすっきりした気分になった。

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