14 代償の7日間 -Day1- ③
ルウの父親についていくと頑丈な鉄扉のドアが付いた部屋の前へと案内された。
どうにも厳重そうな扉と赤いランプがある。
セキュリティのように赤いランプにルウの父親が手をかざすと緑色に変わり、扉が開いた。
相当、多くの数の大事な資料がここに眠っているに違いない。
「ここには数年間かけた大事な研究資料が眠っている」
自慢したような顔に腹は立つが、ここまで本棚が埋め尽くされるほどの研究資料の数を目の当たりにすると逆に感心のあまり、声も出なかった。魔女の家で見た研究資料よりも詳しく生態系や自然の恵み、魔法などの全てが書いてあると言ってもいいだろう。
そして、ルウの父親は数歩だけ歩いてから研究台の近くの椅子に腰を下ろした。
「私は近隣の森の研究をしている。そして、これが今までの研究功績だ!」
「あのさ、ここに魔女は来たことあるのか?」
「たぶん、君が行っているのは元ゴブリン村の近くに住んでいた魔女のことか?」
「うん」
すると、ルウの父親は頭を抱えだした。
この反応は、おそらく来たことがある反応で良い思い出ではないだろう。
「来たことはあったけど、魔女たちの研究は我々とは比べ物にならないほど秀一なものだった。この研究部屋に来た時も鼻で笑われたよ。薄すぎるといってな!」
歯を食いしばって、悔しがる姿を見て思い出させてしまった自分を悔やむ。
彼がこの研究に誇りを持っていること、誰よりも研究熱心だったことを感じた。
しかし、最後の薄すぎるとはどういうことなのだろうか?
僕は研究資料を手に取って中身を数ページ見ると不思議と分かった。
「追い打ちをかけるようで悪いが、薄すぎるのは事実だ」
「なぜ、君まで同じことを言うんだ?」
「例えば『上位種を発見した』の一部だけで文が完結している。研究者ならどんな条件下で上位種になるのかとかを調べるべきなんじゃないか?」
「しかし、この森には調べるほどの術がない」
「この森に限定するからダメなんじゃないか?大陸中や各地の森と比べることが出来れば自ずと上位種になるかなんて分かることだ」
簡単なこと、この小妖精の町や周辺の森だけを見ていても世界は広がらない。
魔女でさえ、色んな所を飛び回って集めた情報を元に資料を作成しているから薄いと言ったのだろう。
しかし、この森の小さなエリアだけで様々なジャンルを開拓していることはすごいことだ。
僕は、侮辱してしまったことに関してお詫びとして、言った。
「あなたたちがよければだが家族共々、僕の村に来ないか?」
「小妖精がいっぱいいるのに、私たちみたいな黒妖精が行って大丈夫だろうか?」
「それは何とか仲介する。僕の村には魔女が残した研究資料があるから、きっとあなたの研究も広がると思う。どうかな?」
「考える時間を下さい。明日、王様がここに来るまでには決断します」
僕は、それ以外にも利点はいくつかあった。
ルウがここに来ればフェインもホブンも喜んでくれることや小妖精と黒妖精を仲介役であるが地位を元に戻すように仕向けやすくなること、そしてもう一つの目的でもある衣食住を安定できる人材を確保しやすくなることだ。
それに考える時間は必要だろう。貴族という立場がある以上は簡単に離れることが出来ないし、それなりに覚悟するべき状況はあるだろう。
そして、子竜が研究に必要だと言われていたがそれもこっちに来れば解決する。何が起こるか分からない以上に簡単には提供させることが出来ない。それに、村に来るかどうかの問題を考えるのに専念してもらう方がいいからだ。
僕はパンドラを連れて研究室を出る時に後ろを見たが、扉が閉まるまで机でずっと考えている様子だった。
*
荷物を置いた自室に戻ってだらだらしているとルウが入ってきた。
ルウは小さな果実を何個か持ってきた。
何のために持ってきたのか最初は分からなかったけど、一番最初に果実に飛びついたのはパンドラだった。ルウはびっくりしていたが、パンドラが食べる姿を見て微笑んでいた。
「これは何?」
「ドラゴンフルーツって果実、普通の食卓では目にかかることはできない珍しい果実だよ」
「これがパンドラの好物なのか?」
「この色のドラゴンは何を食べるのかはよく分かんなかったけど、この森ではドラゴンなんてめったに見ないから森でなってない植物について考えてみたらドラゴンフルーツなんじゃないかと思ったの!これは西の大陸から送られてきた贈答用のやつで厨房からこっそり持ってきた」
舌を出して小悪魔アピールをしてくる。
それにしても、こいつの子供っぽいところとしっかりしているところの性格の差は大きい。それに、押し倒す発言を聞く限りはもしかしたら脳内お花畑な黒妖精なのかもしれない。
パンドラとルウは遊びつつも、それを見守る時間が過ぎていく。
明日は、王様やリーベルたちと再び出会うことになるであろう。
もしかしたら、怒られるかもしれない。
それでも、自分がやりたいことに間違いはないと信じて一日目が終わっていった。




