6 王様の過去と残された形見
それから、数時間後に僕は知らない天井で目が覚める。
起き上がろうとしたが、それを引き留める人物が近くの椅子に座っていた。
黒妖精の王様である。
それと同時に僕は王女の病気を治すために付与で魔力を流し続けて気絶したことを思い出した。
「目が覚めたか、ここは王宮の医務室だ。私たち以外には席を外してもらっている」
「王女はどうなったんですか?」
「今は気絶したままの状態だけど、順調に回復はしているそうだ」
「そうですか、よかった」
とりあえず、付与魔法は成功していたことに心の中でガッツポーズをした。
僕も起き上がれるほど、体力は戻っていないようだ。
起き上がることすらできない状態で王様は重々しく口を開いた。
「こうなった以上は君にも話しておかなければならない。私の妻についてだ」
*
昔、平民だった一人の黒妖精がいた。
その黒妖精は、戦闘種族であるにも関わらず戦闘が得意ではなかった。しかし、他のことが全て完璧にできていたので生活はとても安定していた。ある年に食料が無くて大飢饉に陥ったことがあった。少ない食料は全て貴族や王宮の黒妖精の食糧となっていた。そんな時に、彼は畑などでできた食物を皆に配って食料の供給が安定するまで無償で与え続けた。そんな中で、王の御息女が病気にかかっていたらしいが彼が育てた畑の食物を食べたときに奇跡的に症状が一時的に収まったというのだ。平民だった彼は、民たちを守ったり御息女を救い出したという功績から御息女の婚約者に任命されて泣き王の後に平民ながら王様という地位を得た。御息女は小妖精であったが、共生することで互いの種族の名誉を守ろうと誓い合っていた。婚約した当時に重い病気を患っていることは聞かされていたが、小妖精は病気に対してそれほど耐性がないので何度も看病したりしていた日々だった。
それから数年がたったある日のこと、私の妻の態度が急変した。症状は、数年前に起こったあの時とほとんど一緒だった。だが、今度は突然であり対応しようにも一族だけでは無理があった。
数時間後に妻は他界した。
どうにもならなかったと同時に、激しい喪失感に襲われた。せめて残った息子2人と娘2人だけでも守ろうと誓っていた。特に下の娘は小妖精だったために妻が残した形見として大切に育てていった。
*
「そして今回のことにつながっていくのだ」
「なるほど、王様が苦労されていることは分かりました。では、あの即死状態は遺伝であると?」
「確証はありません。ただ、あの娘の衰弱しきった姿を見ると数年前を彷彿とさせるんだ」
怯えきった王様を見るのはとても珍しいのかもしれない。
確かに、重要な話を僕以外の誰にも聞かれるわけにはいかないのは王様の威厳を保つために当然だ。
そして深堀するのも、心をえぐりそうだったので聞くのをやめた。
「とりあえず、助かってよかったです。僕も今までは魔物は敵だと教え込まれて戦ってきましたが、意外と魔物の方にいても楽しいと思えます」
「君はなぜ魔物の方に就いたんだ?」
「就いたわけではありませんが、大まかに捉えればあなたが体験したことと一緒です。仲間に裏切られたからです」
「どうやら、人間は陸でもないことには変わりないって考えは変わりませんな」
その夜には王宮内で宴会が行われたそうで、そこには小妖精も自由化されたために招待された。
フェインやホブンは、それぞれ挨拶があるが僕の周りには人間だからか誰も寄ってこなかった。
そして、宴会場の外に出て夜空を見つめていた。
「姉さん、飲みすぎだって」
「おいおい、酒に弱いってのに無理するからだろ」
「大~丈~夫~」
男2人と女1人の黒妖精が、こっちの方にやってくる。
男2人の方はでかい部屋で王様の横にいた2人で僕に攻撃してきたので覚えている。
女1人はお茶会で部屋に入ってから一番近くで小妖精の手を握っていて涙を流しながら祈っていた。
合計3人とも面識があり、先程の発言から3人は親族か何かであるとお見受けする。
何かパーティーでこの光景を見ると出発界のパーティーで飲みすぎた女騎士を担ぐ部下2人に似ているなと感じた。あの時にだる絡みされてイライラしていたこともあった。
懐かしさの感傷に浸っていると女が、星を見ていた僕の背中に激突した。
「あ、すみませんってお前は!!」
「あ、君は!!」
「え?あ、あなたは!!」
3人の対応の発言で、大まかには誰か分かりそうだ。
おそらく、いかつい黒髪で片眼を隠しているのが荒々しい僕に一番に飛び掛かりそうだった奴。
次に言葉遣いをきちんとしているが、敵意が鋭すぎて飛び掛かりはしなかったものの冷静な判断が出来ていた水色髪のイケメンの奴。
そして、先程までだる絡みしていたくせに僕を見た途端に酔いが一気に冷めた茶髪の女性の奴。
「王様を殺そうとした人間!」
「小妖精の解放を推奨することを条件にした人間!」
「妹を全力で助けてくれた人間!」
大体、答えてくれた予想通りだ。
王様を殺そうとしたわけではない話を聞いていないバカ丸出しの黒妖精。
話は最後まで聞いていたが、話の条件がどうも納得のいかない黒妖精。
そして、何よりも妹を助けてくれたことが印象であった黒妖精。
でも、3人の言葉が全て正しいとするなら・・・
「つまり、王様を殺そうとして不利な条件を押し付けて妹を助けた人間ですが、何か?」
「あんたが何でここにいる?」
「妹を助けたなんて初耳なんですが、姉さん酔ってます?」
「そんなわけないじゃない」
2人の姉と名乗るその女性はでたらめっぽい2人のいうことを一括した。
「どんな理由があっても、妹を助けてくれた恩人になんてことを言うの!」
いや、2人のいうこともあながち間違ってはないのかもしれない。
たぶん、2人共この国のことが大好きだからこそ人間には敵対する発言が出てしあうのかもしれない。
そして、僕の方を向き直って姉と名乗る女性は一礼した。
「すみません。私は第1王女のリアフ、弟で第1皇子のリーフス、第2皇子のリオスです」
「いえ、2人共のいうことも分かります。人間と魔物は敵対関係にあるのは当然のことです」
「まあ、なんと心の広いお方」
「3人とレスト様、こんな隅におられてどうしたのですか?」
「いえ、世間話をしていたところです」
王様である父がこちらの方に来ると、弟2人は一礼をした。
その後ろから、ひょっこりと除く白い肌のきれいな小妖精の影が見えていた。
そして、王様の裾をぐいぐいと引っ張って小妖精は言った。
「お父様、誰?」
「ああ、君を助けてくれたレストという人間だ」




