2016/11/4(金)~亀裂~(前半)
【登場人物】
うみ…本作のヒロイン
ユリア…露出全振りが特徴のメイドさん
修さん…アルブム経営者の一人で頭脳明晰なビジネスマンタイプの人
HITOC…アルブムの時間帯責任者
木村拓夢…ぽっちゃり体系で最古参の一人
平野明哉…ウィッグを被った最古参の一人
山中義昭…最古参で最年長(そして筆者のモデル)
~亀裂~
私の仕事は盆暮れ正月が繁忙期となり長期休暇が取れない。
そのため、時期をずらして1週間程度長期休暇を取得する制度がある。
結婚していたころは旅行や帰省で妻と日程調整して希望を会社へ出していたが、離婚して以降は他の人に合わせて暇なタイミングで取得していた。
そして業界的に一番の閑散期が11月。
実家が遠い事もあり、上司と相談して土曜日スタートの8連休を貰った。
それは2週連続でうみさんに会えることを意味する。
金曜日の仕事終わりにアルブムに行って、土曜日の朝に帰省。
翌週の金曜日の夕方に帰京してアルブム。
これは完ぺきな作戦である。
そんな状況で迎えた金曜日。
風習的に則り連休前は軽く仕事を引き継いで、業務らしい業務をせず帰宅。
軽めの晩御飯を食べた後に帰省の荷物の確認をしてアルブムへ出発。
キャリーケースと大きめのショルダーバッグを持っているので移動も一苦労だ。
週末の秋葉原は人が多く、キャリーケースは蹴られるショルダーバッグは他の人の鞄と引っかかる。
軽い修行の場と化していた。
こんな場所はさっさと抜けて早くアルブムへ…そう考え、慣れない人込みをかき分ける。
私に対してなんか言ってるやるがいるけど、無視無視。
そして22時過ぎ、アルブムに到着する。
そこで見た光景は今までと少し違っていた。
今まではうみさんの前に木村と平野がいて、私がそこに加わる形であった。
しかし今日は木村と平野が真反対ともいえる位置に座っており木村には誰もついておらず、平野にはうみさんが付いていた。
『席が空いてなかったのかな?』
複雑に考えず、それくらいの認識でうみさんの前に案内される。
いつも通り軽く挨拶をして、平野がつまらないダンスの話を始める。
これは修行と思い相槌だけ打っていた私とうみさん。
時間としては30分くらいだろうか。
永遠とも感じられた30分を過ぎ、平野とは逆側のお客さんが帰る。
その時に気づいてしまった。
私が座るスペースがあるという事は木村はそこに座れる状況であった。
しかし、敢えてそうしなかった。
ここは空気を読めてないと思われてもいいので真実がしりたい。
99%の好奇心と1%の罪悪感でうみさんに小声で聞いてみる。
「木村さん、なんかあったんですか?」
そうすると苦虫を噛み潰したような顔をしてうみさんが答える。
「ちょっとね…ここでは言えないから後でSNSで言うわ」
なるほど、私か平野と会いたくないという事か。
うみさんが後で伝えてくれると言っているので、これ以上の詮索は辞めておこう。
その後はうみさんの昔話やアニメの話をして時間が過ぎていく。
流石は金曜の深夜、人の入れ替わりが激しく入店した時にいたのは木村と平野だけになっていた。
よく見れば木村にはユリアが付いていた。
時刻は0時前。
エレベーターが空いて新しいお客さんが入ってくる。
よく見たら以前、平野と一緒に飲んだイケメンだ。
「久しぶりー!」
平野が声を掛け、そのまま出口付近で談笑している。
「あの人知ってる人?」
うみさんが聞いてくる。
「以前、3人で飲んだんですよ」
事実を簡潔に答える。
帰ってくる気配が無い平野とユリアとの会話に夢中な木村をみてうみさんが口を開く。
「実は木村から平野と一緒に飲みたくないって言われて…
今までより短くてもいいから1対1で話したいって」
このタイミングですか!
「先週の反応見ていてわかりましたけど、二人ともうみさん異性として好きですからね」
「それは嬉しいんだけどさ…」
困った顔のうみさんも美しい。
それは置いといて色恋沙汰が常の業界に身を置いたものとしていえる事が一つある。
これはどっちかがいなくなるまで終わらない。
しかし、そんな言葉を発してもうみさんは困ってしまうだろう。
「人それぞれ楽しみ方がありますからね…」
根本的な部分から目をそらして当たり障りのない回答をする。
お互い困った顔をしていると爽やかイケメンが声を掛けてくる。
「山中さんお久しぶりです!
平野さんと向こうで飲んでるんですが、一緒にどうですか?」
ありがたいお誘いだが、幸運にもうみさんと二人で内緒話をしているので丁重にお断りする。
「ごめんなさい、ちょっと今話していて…」
「そうですか。
朝までいるのでよければ!」
そんな私の状況を察したのかイケメンが爽やかに去っていく。
そしてこのタイミングでユリアが小声でカットイン。
「うみ、木村さんについて。
結構イライラしているみたいだから」
『遊びに来てイライラすんなよ』
内心そう思いながらも惚れた腫れたが常の業界。
「行ってきた方がいいですよ」
うみさんに伝える。
「また戻ってくるから」
そういったうみさんの顔は面倒くさいという表情で満ちていた。
そして代わりにユリアが付いたタイミングでエレベーターが開く。
同情したのは長い前髪とイケボが特徴の大東山であった。
大東山はコミュ力が高く、いろんなお客さんと挨拶している。
そして一頻りあいさつが終わったタイミングで空いていた私の隣に案内される。
「2週間ぶりですね」
「お久しぶりです」
「大東山さん、結構来られるんですね」
「どっちかと言うと山中さんの方がレアキャラですよ」
私の方がレアキャラだった模様。
そして後ろの経営陣席に座っていた修さんが声を掛けてくる。
「今日もウォッカトニックですか?」
「はい、ウォッカ大好きなんです」
「じゃあみなかみの誕生日イベント来てくれたお礼に特別なウォッカで出しますよ」
『特別なウォッカ?』
ウォッカって1種類しかないと思っていたら、色々種類がある模様。
「お願いします!」
特別に出してくれるのであれば、断る理由はない。
ドキドキしながら修さんの作ってくれるウォッカトニックを待つ。




