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第68話

ξ˚⊿˚)ξ本日2/6話目。

 轟音の正体、それはまず左手の剣が砕けた音である。上等な剣であったが、硝子のように砕かれた。

 次いで右の剣で受け流す音だ。両手の剣を交差するようにしてマティアスの振り下ろしを受け止めようとしたが、左手の剣が砕けたため、強引に受け流す形となった。

 鎧の左半身が削られるように火花を散らし、大剣が地面へと落ちる。

 地面が沸騰するかのように爆発。衝撃波が来るのは先ほどの槍を見て分かっている。刹那に可能な限り距離をとり、身を低くして逃れる。


「ほう、耐えたか」


 返事の代わりに俺は柄だけになった剣を投げつける。剣で叩き落とされた。隙が出来ぬ。俺は声を掛ける。


「この程度で殺せるとでも思っているのか?」


「いや、耐えたかと言ったのはその剣よ。良い剣じゃないか」


 マティアスは剣を構え直し、俺の右手の剣を見ながら言う。


「余の剣を受けて折れも砕けもせぬ剣など、大した魔剣であるな」


 剣身からは青白い焔が散り落ちる。


「我が姫より賜りし、古の王の佩剣だ。俺には過ぎた剣だが、帝国の皇子を斬るにはちょうど良いだろうよ」


 言葉の終わりと共に殺気を叩き付けて前へ。

 しかし剣撃は易々と阻まれる。


「殺し屋・暗殺者系統の加護持ちの剣筋は読み易い。加護の性質として致命傷になるところを狙ってくるからな」


 さすが帝国の皇子と言うべきか、加護に対する造詣が深い。稀で秘されることの多いこの手の加護に対しても知識があるとは驚くべきことだ。

 "殺戮者"の加護もまた致命傷となる一撃に強力な補正が掛かるが、そうでない攻撃には何も効果がない。

 つまり鎧に覆われた身体を狙っても特に効果はないが、例えば兜を被っていないため剥き出しとなっている眼球狙いの突きであれば、威力も速度も上がる。だが、相手に予測されていれば対応されるということだ。もちろん、相手の腕前あってのことではあるが。


「ふんっ!」


 マティアスの突き返しを回避。再び間合いを取り、剣を構える。


 ガラン、と音。鎧の左肩が落ちた。避けたはずだが向こうの剣が伸びた。血が地面に垂れる。左手は……握れる。問題はない。


「ふん、"戦王"たる俺の前に立ち続ける勇気は誉めてやろう。だが、既に格の違いを理解していよう」


 そんなものは初めから分かっている。"殺戮者"は上位の加護だが王位ではない。そして殺しに特化しているのであって戦いに特化している訳ではない。

 だがそれより……。


「威圧抵抗系統の魔道具か」


 マティアスは耳元を指差す。なるほど、耳飾りがそれであると。先ほどから俺の殺気を受けていて、動きが全く止まらないのはその為だ。


「"殺戮者"と対峙する可能性がある以上備えるのは当然のことだ。卑怯とは言うまいな?」


「無論」


 俺は胸を叩く。そこにあるのは姫の刺繍した御守り。こっちには姫の想いという世界で最高の護符を持っているんだからな。


 ちらりと姫に視線を送る。

 先ほど俺が斬られそうになった時は悲鳴を上げていたが、今は祈るように手を胸の前に、心配そうにこちらを見つめている。


 俺についてきた兵たちもいる。


「兄貴ー! 頑張ってくだせー!」


 俺はお前たちの兄ではないが。


 逸物男は俺の紋章の旗をばさばさと振って応援する。

 それはそういう使い方をするものじゃねえ。壊れるだろ。


 ああ、そうか。


 すとん、と腑に落ちるものを感じる。


「俺は幸せじゃないか」


「……何?」


 俺の呟きが聞き取れなかったか、脈絡もない言葉の意味が分からなかったかマティアスが問うが、説明できるようなものでもない。


 主人もなく、孤立し、故郷を追われ、その故郷も焼かれた。

 だが遍歴の旅の果て、主人を得た。

 俺の旗を掲げ、ついてくる兵がいる。

 俺の懐には我が主人にして最愛の姫の刺繍がある。


「何の後悔があろうか」


 剣を構える。両手で握り、身体を限界まで捻る。


「狂ったか黒騎士。そのような破れかぶれの一撃を受けるほど余は甘くないぞ」


 全身全霊を攻撃に、いや一撃に賭ける。

 ありとあらゆる剣術で、武術で否定されるような構えだ。そんなことは分かっている。


「それとも勝てぬと分かって諦めた故か」


 俺の攻撃は右胴への一撃と明らかであり、そして相手の方が武器が長い。頭部に剣を振り下ろす必要すらない。ただ突きを置いておくだけで俺は死ぬ。

 だからなんだというのか。


「行くぞ」


 地面を蹴った。景色が後方へと流れ始める。

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