第67話
ξ˚⊿˚)ξ 1/6話目。
本日一挙6話更新で完結させます。
更新時間は1時間ごと。12時完結です。
「では名乗ろう、我が名はダヴィト・フェダーク。黒騎士、"殺戮者"、そしてヤロスラヴァ姫の第一の騎士である」
俺はそう名乗りを上げた。
一瞬、マティアスの顔に困惑が浮かび、それは嘲笑にと変わる。
「ヤロスラヴァ……懐かしい名だ、ヤロスラヴァか! そうか、かつての余の婚約者にして、かの魔王と同じ忌まれし加護を持つ女! この骸骨共を使役する魔術師はあの女であったか!」
マティアスは巨大な両手剣を片手で持ち、馬車の方に切先を向ける。
「ヤロスラヴァ! 余の父、現帝陛下より生涯の幽閉を命じられていた筈だが、よくおめおめと顔を出せたものだな!」
俺は左手の剣でマティアスの大剣を弾く。
「我が姫への無礼は許さぬ」
マティアスはフン、と鼻で笑う。
「よくもまあ狂犬を手懐けたものだ。あるいは"霊王"に"殺戮者"、嫌われ者同士が傷を舐め合うか」
俺は全霊を以って怒りを御する。怒りと殺意に任せて勝てる相手ではない。
馬車の扉が開いた。
闇の中に沈む姫の姿は見えぬ。だが彼女は光の術式を使ったか。ふわふわと浮く光の球がいくつか生み出され、彼女の周りが明るく照らされた。
黄金の髪が、その美貌が闇に浮かび上がった。
敵も味方も息を呑む。
「お久しぶりでございます、マティアス殿下」
スカートの中ほどを摘み上げ、戦には場違いな淑女の礼がとられる。マティアスはそれに返礼もせず、言葉をかけた。
「ツォレルンの皇帝の命に反して出てくるとはな。愚かなのは貴様か王か?」
「わたくしの意志で幽閉された離宮より出てきました。しかし愚かなのは貴方たちです。そちらが先に国家の約束たる休戦を一方的に破棄して攻め込んできているのですから」
「だが貴様の行った様を見よ。貴様は魔王と後ろ指を指され、レドニーツェは魔王を擁する国と言われよう!」
姫は身を震わせると、拳を握りしめて、馬車へと叩きつけた。
女性の、戦いに身を置いたことのない女性の拳だ。そこに力強さの欠片もなく、傷ついたのは自らの拳である。だが、効果は劇的であった。
それに呼応して地に倒れる骸骨の巨人が全力で拳を地面に叩きつけたのだ。
大地が怒りに揺れた。姫が叫ぶ。
「わたくしが何処からこの骨たちを連れてきたと思っているのですか! 彼らは貴方たちの蛮行により殺され、晒された我が同胞です! これはその人とも思えぬ所業への復讐なのです」
「ふん、口の回る女だ。お前の首を断ってオンドジェイ王に送りつけてやれば静かになるか」
姫は毅然と前を向き、血の滴る手を前に。騎士に誓いを為させる所作。
「我が騎士ダヴィト、この痴れ者を殺しなさい」
「御意」
剣を振るう。速度重視の一撃。
不意打ちという訳ではないが、先ほど俺がマティアスの剣を払ったこと、そして彼の意識が姫に行っていたこと、大剣と片手剣の重量による初速の差。
この剣閃は防げるようなものではない。
だが、金属を強く打ち合わせた音が響く。
そう、常識を当然超えてくる。上位の加護持ちとはそういった存在であるのだ。
攻め手を休めはしない。金属音が連続する。
二剣を振れば手数が倍、そんな単純なものではないが、それでも左右より繰り出されるこちらの剣を大剣一本で軽々と凌いでくる。大剣を中段に構えて最小限の動きで捌かれているからである。
ちっ。
舌打ちを一つ。
王位の加護の威力に頼ったような雑な剣術じゃあない。しっかりと基礎を、その上に研鑽を積み上げている。
「そろそろこちらから行くぞ」
マティアスはそう宣言するとゆらりと甲冑から陽炎のようなものが立ち昇ったように見えた。王位の覇気である。
俺の打ち込みに合わせて、鋭い呼気と共に剣が押し出される。
剣が巌を叩いたように感じた。
衝撃に身体が押し戻され、間合いが一歩離れる。
片手剣の間合いではなく、両手剣の間合いに。
「ふんっ!」
マティアスの剣が上段に振り上げられる。
「死ねっ……!」
俺はそこに殺意を叩きつけた。"戦王"は殺気により身が竦むようなことはない。だがそれでも直近にいる正面の一人に、圧縮したそれを叩きつければ一瞬なりとも隙ができる。
だが返答は笑みに歪んだ唇であった。
大剣は僅かにも止まることなく、闇に銀の弧を描いて振り下ろされる。
轟音と悲鳴が響いた。
ξ˚⊿˚)ξと言うわけで今日完結させるので、ブクマ、★評価、感想などいただければ幸いですわ!
よろですの!