第65話
ξ˚⊿˚)ξまた予約投稿忘れてる……。
明日完結すると思いますの!
夜襲、混乱、恐怖。そして城壁内という壁に囲まれた逃げ場のない領域。
それは殺戮者にとって最も効率的な狩場であると言えよう。
逃げ惑う兵は背中から内臓を突き刺し、破れかぶれに掛かってくる兵は袈裟懸けに叩き斬り、恐怖に足の止まった兵の喉を突く。
城壁の上の兵は始末した。階段を足早に降り、開けた場所で再び剣を振るう。
宵闇に紛れては飛び道具も少なく、それでも飛来する幾許かの矢や魔術は敵の身体を盾とする。
ふと、斬り捨てたはずの男が立ち上がった。
「ぬ……?」
男は胸に手を当てて礼を取る。なるほど。
「……シェベスチアーン殿か、どうなさった」
所作を見るだけでも姫様に仕える執事であると分かる。死体に憑依したのであろう。彼は言う。
「北門、ツォレルンに抜ける門を開き、逃げようとする者たちがいますので止めて参ります」
「任せて良いか」
「ええ、お任せあれ」
数体の死体が立ち上がる。姫と共にいる霊たちか。姫は霊たちをできるだけ具現化させずに魔力を貯めていたというが、それでも彼らはこうして戦ってくれるのだなと思う。
彼らが北へと向かった。
俺は戦場の様子を窺う。俺がシェベスチアーン殿と話して少し動きを止めていたその間に、周囲の敵兵は距離を取って囲むような状態、将の姿は見えぬ。
骸骨兵たちは決して動きが機敏ではない。だが、連携が上手い。攻めるときは必ず複数で一人を、多勢で少数に当たり、同数の場合は守勢に回る動きはエーガーラントの兵が基本として叩き込まれる動きだ。
着いてきた奴らはどうだ。偃月陣の動きか。先頭に将、つまり俺がいないが、三馬鹿を先頭にして機能しているのは敵が混乱しているからだな。
殺気。
唐突にいまいる場所が死地であると悟る感覚。なぜ、だれが、などと考えるまでもなく全力で回避。横に転がるように……着弾。
回避中の身体が爆発に吹き飛ばされて冗談のように宙に浮く。敵兵や骸骨兵を跳ね飛ばして止まった。
「大丈夫ですか! 兄貴!」
俺を受け止めるような形になったのは、……左曲がりか。
くそっ、何を食らった。敵はどこだ。
兜の狭い視界では碌に見えぬ。俺は兜を脱ぎ捨てて左曲がりに押し付けて言う。
「問題ない。自分から飛んでいたから派手に吹き飛んだだけだ。それより今のは……」
何の攻撃だった? そう続けようとして視界に煌めくものが見えた。それは骸骨兵の中央に着弾すると数十体という単位で骨を破砕し吹き飛ばす。
「槍か!」
「はぁっ?」
左曲がりが困惑に叫んだ。
投槍の一投で着弾地点に衝撃波を発生させているのだ。無論、真っ当な武技ではない。このようなことができるのは加護の力、それも高位の……!
「戦王か!」
「いかにも」
俺が叫ぶと応えがあった。
「ツォレルン帝国皇子、"戦王"マティアス・ツォレルンである」
うおおおおと敵軍から歓声が上がった。
将とは目立つことで士気を鼓舞するものである。夜でも松明の明かりを照り返して輝く黄金の鎧に緋色の外衣、兜は被らず王族らしく整った顔を、だが武人でもある精悍な顔を晒している。
「マティアス……!」
あの男が。
湧き上がる怒りが脳を沸騰させそうになるが、それを鎮める。
奴は自軍の兵に向けて語る。
「ツォレルン帝国の兵よ! 敵は巨大な骸骨兵で城門を破り、死者と共に現れた! 成程、諸君らが怯えるのも分かろう。だが見よ!」
マティアス・ツォレルンが腰から剣を抜き、こちらを、そしてその後方の姫の馬車を抱く骸骨兵を指す。
「敵の巨兵は城壁を壊すのに骨折れ、動いておらぬ! 骸骨兵は余の一撃で纏めて吹き飛ぶ雑兵! 人間の兵は寡兵だ! 恐るるに足らぬ!」
誇張ではある。奴ほどの力あればこそ骸骨兵を雑兵と呼べるが、一般の兵にとって決して楽な相手ではない。
だが将たる者そうでなくては。
マティアス・ツォレルン。我が姫を悲しませることとなった諸悪の根源であり、エーガーラントの、恐らく父母の命を奪った仇でもある。
だが将として、武人としては良き男であるのだろう。
俺は立ち上がる。右手の痺れは取れた。幸いにも吹き飛ばされて痛めたところもない。
一歩前に出て笑みを浮かべる。敵に見えるように。
戦場の動きは止まっている。逸物男の旗竿に掲げられた黒騎士の旗は無論相手にも見えているであろう。
「警戒すべきはこの骨どもを操る魔術師が一人と、そこの黒騎士のみよ。成程、先日の戦いでも今日も多くの兵の命を奪った強者にして狂人であろう」
ちっ。舌打ちを一つ。
魔術師と言った時に姫の座す馬車を指した。バレている。
だがまあ、戦争において王位の加護を有する者が、敵を恐るるに足らぬと、その中で警戒すべきはこれだけと言ったのだ。次に奴が言わねばならぬ言葉は決まっている。
「黒騎士フェダーク! 一騎討ちを所望する! 戦王の字に尻尾を巻いて逃げる臆病者でないならかかってくるが良い!」
そう言うことだ。
「一騎討ちを受けよう」
俺は右手で宝剣を抜いた。
「あ、兄貴……」
左曲がりが心配そうに俺に声を掛ける。
「左曲がりぃ! 貴様らは死ぬ気で姫を護れ!」
「……りょ、了解でさあ!」
一瞬、姫の馬車に視線を向ける。馬車の中からこっそりとこちらを覗く青い瞳が見えた。
矢から身を守るために窓を開けるなと言ったのだが。……まあ、なんだ。
心は軽くなった。
「大将首だ。行ってくる」