第58話
ξ˚⊿˚)ξすぐ予約投稿忘れるのは年末でバタバタしてるからです(切腹
「少し休憩したら出発するぞ。埋葬や略奪の時間はない。死んだ五人の友の遺品だけ誰か持ってくれ。あと武器くらいなら良さそうなのをかっぱらっていくと良いだろう」
槍が折れている奴も多いしな。俺も盾が割れてしまったので左手用に剣を貰っていくとする。流石に別の紋章の描かれた盾を持つわけにはいかないから。
落ちている盾を拾ってひっくり返し、その上に座った。暑い。外気は寒いが、鎧の中は汗塗れだろう。鎧を見れば返り血で真っ赤である。
兵士たちは休みながら、あるいは武器を物色しながらびくびくとこちらを見る。まあ、見慣れた光景である。俺の加護は単身か寡兵で多勢に当たるのに適した加護であるが、それを成した後の味方からの視線はこうだ。
殺戮者の加護は、実のところ剣や武器の扱いが上達する加護ではない。斬りつけた時に致命傷を与えやすくなってはいるだろうが、剣筋が良くなる訳ではないし、威力が増す訳でもない。そして防御に関しては何の恩恵もない。
加護を極めるにつれ、以前の決闘のように斬らなくても斬ることができるようにはなったが、あれは集団戦で使えるようなものでもない。
殺戮者の真髄は恐怖による集団の硬直、または足止めである。
それ故に相手が戦意を喪失していても、逃げだすのが難しいのだ。二百人殺して此方の損害は五とすれば四十倍殺している計算になる。
「損耗比率40:1とかな。馬鹿げている」
「す、すす素晴らしい戦果でしたぁ!」
独り言に対して応えがある。逸物男だ。
彼は震えながらも旗竿に縋り付くようにして立ち、そう叫んだのだ。
「くくく黒騎士卿のお陰で生き延び、勝てました!」
周囲の兵たちからも困惑したような、だが頷きが返る。
「そうっすよ! ありがとうございます!」
「このまま砦落としちゃいますか?」
左曲がりと亀首が立ち上がってそう続ける。こいつらも生き延びていたか。
「俺の殺戮者は殺すのに特化していてな。砦攻めには向かん。本陣に合流するぞ」
「うす!」
兵たちから声がかえる。へえ。
俺は立ち上がり、逸物男の肩を叩いた。
「流石に逸物が輝いているだけのことはある」
「は? いえ、はい」
「大した胆力だって言ってるんだ」
戦闘中も、こいつが声を上げてくれたからこそ兵たちが動いたところがある。
味方が俺を恐れて動けなければ、ここまでの戦果はなかった。兵たちが背中を支え、止めをさしてくれてこそなのだから。
「日が暮れる前に行くぞ」
応、と返事が返ってきた。初めてのことであった。
その日の夜には主力に合流した。
「フェダーク卿か!」
殿下は健在であった。だが、軍は無事とは言えなかったようだ。
損耗は少ない。だが意気消沈している。どうやら騎士が何人か一方的に一騎討ちにより破られたとのことだ。
この時代の、この地域の戦は騎士と騎士の一騎討ちにより趨勢を決めていくことが多い。故に兵の損耗はあまりないのが普通だ。
通常、一割も死んだら敗戦、三割死んだら全滅だ。まあそれを覆すのが加護ではある。俺もそうだし、魔術師系の上位は特にそうだ。
カイェターン殿が全力で魔術を行使したら、字義通り敵は鏖殺されるだろう。
「二百人倒しただと……!」
報告を聞き殿下が唸る。
「倒したではなく殺しました。騎士や士官は四、五人殺したかと思いますが、まあ主力はいなかったのでしょうな」
「そうか……。いや、うむ。なんだ。今日唯一の朗報だな。卿の奮戦に感謝し、大戦果を称えよう」
殿下は口を濁すが、要は俺がちゃんと敵を捕虜とすれば身代金交渉や捕虜の交換ができたのにという意味である。
だが、それを俺に期待しても無駄だということを感じたのであろう。
「ちなみにこちらの騎士に勝ったのは誰です?」
「マティアス皇子だ。加護は戦王だと」
その日はそれで終わった。
翌日からは俺が一騎討ちに出るという話になっていたが、ツォレルン軍は慎重策を取ったようだ。
主力が砦に籠り、軽装の部隊や騎兵が一当てして去っていくような戦法を取り出したのである。
「ちっ……。遠いな」
それも、必ず俺から一番遠い位置をである。
なるほど、俺の弱点を突いてくる。馬が怯える故に、騎乗戦闘ができないのだ。
その上、俺の位置を正確に把握するのは、姫様の侍女のように遠隔視系統の加護や術式の使い手がいるのだろう。
俺が近づくと、どれだけ相手が押していても撤退するのである。
こうして、戦は膠着状態になったのだった。