第51話
ξ˚⊿˚)ξ年内に完結させるために、今日から1日2話投稿にしますわー。
62話まで執筆ずみ。そこから数話で完結する感じなので。
更新は午前7時と午後7時にしますね。
あと数話先ですが、黒騎士卿視点で戦争シーンです。
この作品は散々人が死んでいて今更と思われるかもしれませんが、キーワードにあるようにR15で戦争なんでそこはご了承願います。
カイェターンお爺さまの目の前で無数の骨が組み上がっていきます。
車輪型に、箱型に。ええっと……。
「あの、これを馬車にしろと……?」
「うむ。骨の馬車じゃ。今、首無し馬を召喚してしんぜよう」
えー……。
わたくしは灯りの術式を使用して、周囲をか細く照らします。そういえばヘドヴィカたちはどこへ行ったのでしょうか。きょろきょろと見渡すと、女性霊を中心に数名がふわふわと天から降りてきました。
––姫さま。戻りました。
具現化していないので、思念が頭に響きます。
「お帰りなさい。どうしたのかしら?」
––フランチェスカ様が現王妃殿下に取り憑かれました。
あら。
––記憶を読み取ったところ、やはり王妃殿下の指示であったと。
思わず溜め息が漏れます。
「やはりそうですわよね」
––どうなさいますか?
これはわたくしに王族としての、あるいは霊王としての資質を尋ねられているのだ。そう感じました。わたくしが、お母さまの助命をするのであればフランチェスカ様たちはお母さまから抜け出て戻ってくるでしょう。
許すことは人としては慈悲深いかもしれません。ですが王としては甘すぎるのだと。そう言われるでしょう。
「わたくしの父であるオンドジェイ国王に、自らの行ったことを告白させ、その上で殺しなさいと」
––御意にございます。
悲しい? と自問します。いえ、既に泣いたのです。
「さようなら、お母さま」
そう呟いても、もうわたくしの心が荒れることはありません。
馬車が二台用意され、その一台に荷物が積まれ、もう一台にわたくしとカイェターンお爺さまが乗り込みます。近衛の兵たちから霊が抜けていき、荷物の積まれた馬車に吸い込まれるように入っていきます。
城門へと向かうと、押っ取り刀で駆けつけたのでしょう。近衛が集結していました。そしてその中央には彼らに囲まれて王の、お父さまの姿が。
……お年を召された。
わたくしが思い描くお父さまの姿より七年の月日が経っています。白髪も増え、顔に皺が多く刻まれています。
そしてわたくしが馬車の上から見下ろす形になっているのもあるでしょうが、小さくなられたようにも思います。
お父さまの横に立つ、ズィクムント近衛騎士団長が声を上げられます。
「そこに座すはヤロスラヴァ殿下に相違ないか! ご尊顔賜りたい!」
お爺さまが指を鳴らすと、幌馬車の幌が外れるように、大きな魔獣が口を開けるように、がばりと骨の天井が動いてわたくしたちの前に景色が開けました。
また人を驚かすような仕掛けを……。
そう思いを込めて見やれば、ひょひょひょと笑みを浮かべられます。
わたくしは正面を見ます。
「お父さま、こうして顔を合わせるのは随分と久しぶりですね」
「あ、ああ。スラヴァ。……元気、か……?」
「ええ、元気ですわ。お父さまもお変わりなく」
お父さまは目を白黒させて困惑した様子で問いかけます。
「あー、……今、危険な状態か?」
「いえ、暗殺されかけましたが今は問題ありません」
「暗殺っ……! そうか。スラヴァ、申し訳なかった」
お父さまは深く頭を下げられました。
それは王が人前で行ってはならない振舞い。それだけ謝意を示したいと言うことなのでしょうが。
わたくしは問います。
「……なに、に。謝罪されますか」
「八年前の神授の儀での振舞いを、そこから続く冷遇を、ここ数日の言を、今日のこの事件を」
お父さまは頭を下げたままそう仰い、わたくしは溜め息を一つ。
許します。そう言おうとして、言葉が詰まります。恨みがないはずはありません。もはや流れる涙もありませんが、わたくしの心は幼いわたくしが泣いているのを覚えているのですから。
ですが、ここで恨み言を言って何になりましょうか。それは神の加護を、ひいてはわたくし自身を否定することになってしまいます。
「頭をお上げください。恨む気持ちがないとは言えませんが、それでもこの騒動を起こしたのが陛下ではないと存じております」
「そう、なのか?」
お父さまは頭を上げられました。
「ええ、それとわたくしもこれからご迷惑をお掛けしますし……」
首を傾げられました。
「わたくし、ここを出ようと思いますの」
「っ……それは!」
周りを囲む近衛兵たちに緊張が走ります。
「分かっていますわ。ツォレルンとの約束なのでしょう? でもね、離宮に閉じ込められていても、食料や服が満足に与えられていなくても。わたくしはそれに八年従い続けていました。ですがその結果が暗殺者の刃や近衛に槍を向けられることでした。殺そうとされてまでここに居続ける意味はございますか?」
「……その近衛たちは」
「暗殺者も、近衛も全員殺しました」
近衛たちがざわつき、ズィクムント卿が唇を噛まれるのが見えます。
「陛下に問います。わたくしは間違っているでしょうか」
お父さまは悄然と肩を落として考え込まれ、そして真っ直ぐわたくしを見て仰いました。
「……否、王の命令なく他の王族に刃を向けたのだ。それを罰するのは正しい行いである」