第44話
ξ˚⊿˚)ξすいません、予約投稿が切れてるの気づいてませんでしたわ……。
「なるほど……」
今は夕方、王城での軍議から戻ってこられたダヴィトは、その途中でお父さま、オンドジェイ陛下とお話したとのこと。その内容をわたくしに報告してくださいました。
わたくしはしばし目を瞑り、心を落ち着かせて考えます。わたくしの気持ち、お父さまの気持ち、客観的な見方……。物事は視点により変わってくるでしょう。
もちろんわたくしの悲しい気持ちや悲しんだという過去は重視すべきですが、それはあくまでも判断の一側面です。わたくしはこれでも王族ですから。それを教えてくれたのはお父さまではなく霊たちですけど。
ダヴィトは憤りの残滓を身体に纏わり付かせています。
こうして、わたくしのことに腹を立ててくれる人がいるというのはなんと幸せなことでしょうか。
「陛下は責任を転嫁するつもりはないと言いながらツォレルン帝国の名を出しておられましたが、あれでは結局責任転嫁しているように感じてしまいますな」
それも一つの側面でしょう。
「わたくし、マティアス・ツォレルン殿下と婚約していたのです。わたくしが五歳くらいの頃から八歳までですね。婚約の顔合わせは覚えてはいないのですけど」
「いかに王族の政略結婚とはいえ、五歳ですか」
わたくしは頷きます。
「こうして閉じ込められてしまったために、ツォレルン帝国がどういった無理難題を言い出したのかは分かりません。ただ、わたくしの存在が父母の心労となったのは間違いありません」
「しかしヤロスラヴァ姫に咎なきことです!」
しばし黙考します。わたくしが何か罪を犯したかと言えばそんなことはない。ですが、わたくしの存在が罪であったかもしれない。
ふふ、でもこんなことを言い出したらダヴィトに怒られてしまいそうね。
「どうでしょう。それでも、結果としてエーガーラントはツォレルンに占領されてしまいましたのよ」
ダヴィトは口に出しませんが、それが逆に物語っています。エーガーラントにお住まいであった彼の実のご両親も、フェダーク家のご両親ももう生きてはいないのでしょう。
彼は口籠もります。
「その責がわたくしにあるとまでは言いません。それでも、わたくしが霊王ではなく、マティアス殿下に嫁いでいれば。恐らく戦にはならなかったでしょう」
「……恨むべきは帝国です。姫ではない」
「そうね。御免なさい。出陣も近い貴方につまらないことを言ってしまったわ」
わたくしが頭を下げると、ダヴィトは首を振ります。
「いえ。それより、俺がいない間、御身を大切になさってください。何かあればラドを……ノートラント伯を……伯を頼ってください」
「はい」
ダヴィトは伯のお友達なのに、あまりわたくしに近づけたくはない様子。それでもとっても信用はしているのよね。
彼は僅かに眉尻を落として言います。
「王家のことに、ご家族のことに意見するのは越権と知っていますが、それでも陛下たちと王城でお会いするのは避けていただきたい。また魔力は消耗するでしょうが、いつもどなたか霊を具現化して護衛としていただければ」
「分かっているわ」
彼は以前も告げてきたことを再び口にしました。
やはり、護衛の騎士としては、家族だからと警戒心が薄れるのを警戒しているのでしょう。
わたくしは立ち上がり、窓から離宮の庭を、その向こうの王城が夕陽に赤く染まるのを眺めます。
「ダヴィトはわたくしが絆されるのを警戒しているのでしょう。絆されるのは無理なのよ」
「は……」
「お父さまは心から反省されて謝罪されているのかもしれないわ。でもね、壊れた甕は元には戻らない」
「はい」
わたくしはあの日のことを思い出します。今でもそれだけで、じわりと涙が盛り上がってくるんですもの。
「わたくしが霊王と言われた後に、差し出した手が払われたとき、マティアス殿下からの婚約破棄を反論もせず粛々と受け入れられたとき、わたくしが負った傷は癒えないの」
わたくしは、城の塔の先端を見上げました。
「忘却の加護により忘れられていたのが戻ったということは、その時のお父さまたちの感情も戻ったということ。……そんなの、嫌だわ」
わたくしの身体に手が回されました。たくましい腕がわたくしの首元の辺りに回され、後頭部が硬い胸板に当たっています。
「……申し訳ありません」
「……そうね、不敬だわ」
彼の腕が解かれようとするのを掴みます。
「でも許します」
沈黙が落ちます。ぽつりと呟かれました。
「貴方をここから攫っていきたい」