第33話
ξ˚⊿˚)ξすいません、予約投稿忘れてましたわー。
12月から毎日投稿にします。やったね。
カイェターンお爺さまが前に出て、祭壇の前へと歩みます。
そこには宝剣が一振り安置されていました。黄金の柄の剣。鞘も流水のように象られた金で美しく縁取りされています。
わたくしは彼の前で膝を折ります。
「今ここに一人の騎士が新たなる主人を得ることを祝福くださいますよう」
「彼が主人に仕えると誓うのであれば、その守護者としての生を全うするための力を授けん。また彼が教会、寡婦や孤児、恵まれぬ境遇にある全ての善なる生者と死者の保護者となるように」
お爺さま、善なる死者ってなんですの。変な文言付け加えないでくださいまし。
わたくしは副葬品であったその黄金の柄の剣を受け取りました。両手で鞘を戴き、フェダーク卿の前へ。
「まさに騎士になろうとする者よ、真理を守るべし、教会、寡婦や孤児、恵まれぬ境遇の全ての善なる生者……と死者を守護すべし」
「御命しかと承りました」
「しからばこの剣を授けます」
フェダーク卿の灰色の瞳が揺れました。
「しかし、これは……俺には過分な剣です」
確かにこれは王の佩剣、国の宝といって良い宝剣です。ですが……。
席より古代の王の霊が一歩前に歩み出て声を上げました。
「そは余の生涯、腰にあった宝剣である! だがもはや余には不要のもの、このような場所で朽ち果てるよりも、戦場にて振られることを望む! 汝が余らが愛娘ヤロスラヴァを主人とするのであれば、この程度安いものよ」
「御意。古の王よ。感謝いたします」
フェダーク卿は礼を口にして立ち上がると、腰に差していた剣を外されました。ヴィートさんがそっと横にやってきてそれを受け取ります。
わたくしは卿に新たな剣帯を渡すと、彼はそれを身につけて黄金の宝剣を吊るしました。
ヴィートさんが離れるのを待ってフェダーク卿はゆっくりと剣を引き抜きました。
青白い焔が剣身から放たれます。剣身には無数のルーンが刻まれていました。
フェダーク卿の眉が驚きに固まります。
「……お爺さま?」
「ふひょひょ。何百年も前の剣ぞ。戦場で折れても困るでな。昨日夜なべして手入れしたわい」
手入れという言葉では済まぬ気がするのですが。元々高位の付与魔術の掛かっていたものを、新たに強力に上書きしてくださったのではないでしょうか。
「ありがとうございます」
「お安い御用じゃよ」
フェダーク卿は作法通りに剣を抜いては納め、鞘なりの音を三度霊廟に響かせると、再びわたくしに向けて跪かれました。
「我が剣は主人が剣となり、主人が敵を憂いを薙ぎ払わんがことを。我が盾は主人が盾となり、主人の敵を寄せ付けぬことを。そして我が身を主人に捧げ、命潰えるまで……いや、命潰えても共にあらんことを」
フェダーク卿は騎士の誓いの文言の最後を変えてきました。わたくしが死霊術師故に、死後も仕えて下さると。
「ダヴィト・フェダーク。貴方がわたくしの騎士として仕えることを許します」
わたくしは跪くフェダーク卿の前で膝を屈め、彼の頭に手をやります。わたくしのそれとは違う、黒く硬い髪を掻き分け、額の、髪の生え際の部分に唇を寄せました。
口元をざらりとした感触が撫でます。そして立ち上がるとフェダーク卿の頸を手で叩きました。
平和の接吻と首打ちという儀式です。首打ちは今では剣の腹で叩くのが一般的ですが、古式は手で打つものといいますし、そもそもわたくしが刃物を持つのは危ないということでこの形になりました。
「これにてダヴィト・フェダークはヤロスラヴァ・レドニーツェを唯一の主人と定める騎士となった」
カイェターンお爺さまが仰います。霊たちが両の手を挙げ、口々に言いました。
「栄えあれ!」
「おめでとうございます!」
先ほどとは別の王の霊が前に出ます。
「フェダーク卿、拍車を」
彼は黄金の拍車を渡し、再びヴィートさんがフェダーク卿の足元に屈み、それを革ベルトで踵に装着しました。
馬に乗るための道具ですが、あれも魔力を感じるものです。何らかの魔術具なのでしょう。
王の霊はノートラント伯に声を掛けて下がります。彼は言いました。
「ノートラント伯爵、ラドスラフ・カシュパルが確とこれを見届けた」
こうして、フェダーク卿がわたくしの騎士となったのでした。





