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第2話

ξ˚⊿˚)ξ本日2話目ですー。

 わたくしは食堂の隅に置かれていた骨を撫でます。寒々しく白いそれは人骨、人の大腿骨が何本も積まれています。

 わたくしはそのうちの二本を手に取り、喚起インヴォークの詠唱。


「霊王の字を以って我、ヤロスラヴァが命ずる。絶望の門より出で、大河を越えよ。我が眠るまで共に過ごせ。我が魔力を対価として与えん。汝の名はイザーク、汝の名はヘドヴィカなり」


 骨がカタカタと震え、朝であるというのに部屋が薄暗くなったように感じます。

 陰の気が凝っていきます。空気中に青黒い影のようなものが出現し、それは二人の人影となりました。


 一人は白いコックコートを着た男性の影。長身でコック帽を手に紳士の礼(ボウアンドスクライプ)をとり、気障ったらしくウインクします。

 もう一人は黒のロングスカートに白のエプロンドレスを羽織った女性の影。スカートを摘んで丁寧な淑女の礼(カーテシー)をとります。


「イザーク、参上っす」

「ヘドヴィカ、御召しにあずかり参りました」


 まるで人のような返答。ですが彼らの身体は透けています。わたくしが呼んでいるのは死者の霊なのですから。

 それでも声が嬉しく、わたくしは笑みを浮かべてしまいます。


「うん、おはよう。イザーク、ヘドヴィカ!」


「ん、姫さんはこれから朝飯?」


 そう言ってクロッシュをひょいと持ち上げます。

 中にはパン(フレビーチェク)が二枚、ハムの載ったものと、刻んだ茹で卵とピクルスの載ったもの。芋と玉葱のスープ(ブランボラチュカ)、レタスの上にチーズフライ。

 定番の朝食のメニューです。


 イザークは料理の上に手を翳すと、ひょいと料理の載ったプレートを持ち上げました。


「冷めちゃってるんで温め直してくるわ」


 そう言って食堂の隣の台所へ。


「イザーク、暖炉の用意もお願いします! 姫の御召し替えをいたしませんと」


 ヘドヴィカはそうイザークに言付けると、わたくしを部屋へと戻し、着替えさせました。

 彼らは見た目こそどちらも二十歳過ぎの男女ですが歳を経た霊、しかも霊王という死霊術師の中でも最上位の資質を有するわたくしが魔力を分け与えています。

 騒霊ポルターガイストの応用で物を持ち運ぶこともできるのです。


 ヘドヴィカがドレスを宙に浮かせ、わたくしはそこから明るい黄緑のデイドレスを選びます。


「レドニーツェの姫ともあろう方が一人で着替えだなど……しかも同じ服を」


「ごめんなさい……」


 ため息が一つ。


「ヤロスロヴァ様を責めているのではありませんわ。今の王家の方々や、不甲斐ない使用人たちに憤っているのです。このドレスだって一人で着られるようなものではないのですよ?」


 わたくしは頷きます。

 そうね。使用人の着るようなエプロンドレスや平民のものは別ですが、王侯貴族の女性たちが着るようなドレスはそもそも一人で着られる構造になっていませんから。

 それに、この離宮を清潔に保つことだって一人でできようはずはありません。

 それを思えば、使用人たちが朝晩の食事だけ置いて帰るような状態が正しいはずはありません。

 お父様、お母様の命なのか、女官長の命か、それとも使用人たちが勝手に振る舞っているのかは分かりませんが……。


「ですので、ヤロスラヴァ様は私たちをもっと気軽に使ってくれて構いませんよ」


「……ありがとう」


 そんな話をしつつ着替えて、食堂へと戻ります。


 わたくしが階段を降りて食堂へと戻ると暖炉に火がくべられていて部屋が暖まり始めていました。

 長いテーブルの暖炉の傍の席へと向かうと、ふわりと椅子が下がります。

 わたくしが座るのに合わせて椅子を調整してくれます。


 イザークが皿を手に戻り、私の前のテーブルに供しました。先ほどと違い、スープからはまだ湯気が立っています。


「それと姫様、こちらをどうぞ」


 そういって、コトリと硝子の器が置かれます。

 器に盛られていたのは林檎と洋梨のコンポートでした。朝日を浴びて艶やかに輝いています。さっきそんなものは無かったのに!


「イザーク、これは?」


「コンポートです。一昨日、倉庫に忍び込んで林檎と梨を掻っ払って、昨日のうちに仕込んでおいたんですよ」


「あ、ありがとう!」


 ヘドヴィカが満足げに頷きます。


「良い仕事です、イザーク」


「甘味のない朝食などレドニーツェでは朝食として認められないってことですよ。さあ、召し上がれ」


 わたくしは神に感謝の祈りを捧げ、朝食をいただきました。

 テーブルの向かいではイザークとヘドヴィカが並んで座り、にこにことこちらを眺めています。


 使用人は同席できないと断られていたのですが、やはり寂しいですからね。頼み込んで座ってもらっているのです。


「絶対使用人どもが中抜きしてるんだよなあ」

「ふむ、あなたもそう思いますか」

「だって朝飯に果物もパンケーキ(パラチンキ)も、何の甘味もつかないなんてことがあるか?」

「まあ記憶にありませんね。王族なら尚更です」


 向かいで二人が話に花を咲かせています。内容はわたくしの待遇の悪さについての不満なんですけど。

 同席して貰っていても彼らは食事ができませんからね。


 温かい食事は美味しい。一緒に食べる人がいれば……人ではないかもしれないけど……もっと美味しい。

 記憶を辿れば、八歳までの食事はもっと豪華だったように思います。そういう意味ではこの食事は彼らの言うように王侯貴族に相応しくないのでしょう。でもこの離宮に閉じ込められてすぐの頃よりもずっと美味しい。

 イザークは料理を温め直すだけではなく、きっと味も整えてくれている。

 だって、台所にはいつの間にかわたくしにはどういうものかわからない調味料が増えているのだもの。


 皿の料理を平らげ、コンポートに取り掛かる。

 小さなスプーンを差し込めば、煮込まれて、だけど煮崩れてはいない果実にするりと入っていきます。

 口に入れればジャムほどに甘くなく、爽やかな香りを伴った甘味が広がりました。


「んー!」

明日も7時に投稿ですわー。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読させていただきました。 私が知らないだけかもしれませんが、舞台装置が斬新に感じられます。それでいてとっつきやすい。 主人公はかなり過酷な目にあってますが、どこか楽しそう。 先が楽しみで…
[一言] ワイもヤロスラヴァちゃんのお世話をしたい( ˘ω˘ )
[良い点] ほほう! ネクロマンサーですか! これは面白くなりそうですね! 楽しみです!
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