表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ラブコメ初期作品

大好きな幼馴染に振られたはずなのになんだか幼馴染の様子がおかしい

作者: 青空のら
掲載日:2022/09/05

確かにはっきりと振られた。悲しい片思いの現実を突きつけられた。なのに何か変だ。何かというより全てが変だ。ちょっと待って欲しい。


*********


「秋葉ねぇ、おはよう!」

「あ、冬彦! おはよう、今日も元気だね」


 秋葉ねぇの登校に合わせて家を飛び出し声を掛ける。振り返り微笑む俺の女神は今日も可愛い。隣りの家の幼馴染で一つ歳上、落ち着いた所も素敵だ。

『私には冬彦が可愛い弟分にしか見えないから、付き合うとかそういう気持ちにはなれそうにないよ。ごめんね』

 昨日も振られたけど、そんな事は気にしていない。一緒に歩きながら、横に並べる自分の幸せを噛み締める。尊い。


「あ、そうだ。今日のお弁当渡しておくね。今日のおかずは秋刀魚だって言ってたよ」


 校門前でおばさんの手作り弁当を秋葉ねえからを受け取る。いつも美味しいお弁当、感謝しかない。おばさん、ありがとう!


***


「冬彦、今帰り?」


 部活が終わり、秋葉ねぇを探しに校舎へ向かおうとした時、後ろから声を掛けられた。振り返ると秋葉ねぇが立っていた。


「そうだよ」

「じゃあさ、一緒に帰らない?」

「もちろん!」


 いつもと逆のパターンにいつも以上にテンションが上がる。ここ数日一緒に帰れなかったから尚更だ。


「よかった」


 ズギュン!ほっと胸を撫で下ろす秋葉ねぇの姿にハートを撃ち抜かれる。


「秋葉ねぇの頼みを断るはずないだろ!」

「それなんだけどさ……呼び方」

「なに?」


言いにくいそうに秋葉ねぇの声が小さくなっていく。


「昨日の告白断ったけど、諦めちゃった?」

「天地に誓ってもそんな日は来ない」


 将来、俺以外の誰かと付き合う姿を見る事になったとしても、秋葉ねぇを好きだというこの気持ちは変わらない。


「よか**」

「えっ?ごめん、よく聞こえなかった」


 俺とした事が秋葉ねぇの呟きを聞き逃してしまった。


「ううん、何でもないよ!それでね、弟分を卒業するっていうのなら、いつまでも『秋葉ねぇ』って呼ぶのはおかしくないかな?」

「!?」


 言われてみればそうかもしれない。しかし、秋葉ねぇは秋葉ねぇだ、他に呼び方が思い浮かばない。俺の女神……


「ほら、私も冬彦の事呼び捨てにしてるし、冬彦も私の事を秋葉って呼び捨てでいいんじゃないかな?」

「よ、呼び捨て?」


 俺の女神を呼び捨て!?


「嫌われるのが怖い……」


 無意識に口から言葉が溢れていた。マジで呼び捨てなんてして嫌われたらどうしよう!?


「ふふふ、そんな事で嫌うわけないでしょ? それとも諦めちゃうの?」


 俺の女神が小悪魔的な笑みを浮かべてこちらを見つめている。


「頑張る!頑張って呼び捨てしてみる!」

「頑張る程じゃないと思うけど。じゃあ、頑張って」


***


 夕食後、俺の姿は秋葉の部屋にあった。もちろん勉強を教えてもらう為である。


「……」

「どうかしたの?」


 横に座った秋葉の囁く息が耳に掛かる。俺の女神の吐息で昇天してしまう。というか、ここは天国だろうか?


「今日は隣なんだね」


  いつもはテーブルの対面に座るはずの秋葉が今日は横に座っている。


「ふふふ、対面でもいいんだけど」


 そう言うと秋葉は自分の胸を指差す。


「それなりの頻度で視線を感じていたのよ、自意識過剰かな?」

「自意識過剰なんて、そんな事はないよ!」


 秋葉の自嘲めいた口調に反射的に答えた。そして気付く、壮大に自爆した事を……


「そ、それよりさ」


 何とかして話題を変えなければならない。


「隣だと俺、臭くないかな?」


 部活後にシャワーを浴びているとはいえ真横。秋葉の良い匂いがするという事は逆にこちらの匂いも届くはず。


「そうかな? くんくん」

 秋葉が顔を近づけて来ると、そのまま俺の胸に顔を埋めた。


「うん、やっぱりそうだ」


 くんか、くんか。すーはーすーはー。

 何も出来ずに待つ事3分、秋葉が顔を上げた。


「ふう、堪能した。じゃなくて!! 大丈夫! 全然臭くないよ、本当だよ? 信じて!」


***


「久しぶりに一緒に食べない? 天気も良いし外に行こうよ!」


 朝に弁当を受け取るのを忘れた時は、昼休み秋葉のクラスに受け取りに行く。そして、今日は誘われるまま一緒に中庭に出た。


「えへへ、久しぶりに一緒に食べるし、食べさせてあげようか?」

「はい! じゃなくて、我慢する。食べさせてもらうなんてお子様みたいだ」


 弟分を卒業する為にも我慢、我慢。うーん、涙出ちゃうぞ、血の涙。


「そっか、じゃあまた今度にする? 今なら食後の膝枕もセットで付くんだけど?」

「ぜひお願いします!!」


 叫ぶと共にその場で土下座した。後悔はない。というか、この機会を逃した方が後悔するだろう。


「じゃあ、あーんして」


 秋葉が差し出したたまごサンドをそのままいただく。味のアクセントとして、たまごの焦げた味と塩っぱさとガリガリとした殻の歯ごたえがする。


「味はどうかな? 美味しい?」

「もちろん美味しいよ。最高だね」


 間髪入れずに即答する。もしかして、もしかしなくても、秋葉の手作り? 俺の天使のお手製? 何かの悪戯や実験だとしても嬉しすぎる。俺は遠のく意識を必死で繋ぎ止めた。


「良かった。まだまだあるから全部食べてね」


***


「というわけで、今日からマネージャーとして参加してくれる秋葉さんです。みんな仲良くしてください」


 キャプテンの春人先輩からの入部の紹介が終わると同時に秋葉に駆け寄る。


「入部したんだね!」

「ええ、今日からマネージャーとしてよろしくね」

「さあ、ビシビシ仕事教えるからね。覚悟しなさい」


 先任マネージャーの夏樹先輩が秋葉の横でニヤニヤしている。以前から何度か秋葉を勧誘していたと言ってたので、今回の入部は念願かなって嬉しいのだろう。


「受けて立つわよ」

「俺、嬉しいです! ラ、ランニング行ってきます!」


 今以上に頑張らなくっちゃ! 少しでも良いところを見せたい。


***


「俺、水に浮かないから苦手なんだ」


 春人先輩、夏樹先輩、秋葉とプールに来ていた。水泳トレーニングという名の息抜きである。鍛えられて引き締まった肉体の春人先輩の体脂肪率は一桁、水に浮かぶわけがない。


「浮き輪抱えてる姿も似合ってるって! ほら、楽しまなくっちゃ!」


 そう言うと夏樹先輩が春人先輩に水を掛け始めた。

 カップルの邪魔をするのは野暮だな、とか、おっぱいって本当に水に浮くんだな、とかぼんやりと考えていると隣から視線を感じる。

 振り返ると秋葉がこちらを見つめていた。


「俺たちも楽しもうよ」

「冬彦、羨ましいの?」


 先輩二人の関係? 俺は秋葉さえいれば他に何もいらないよ。


「ちょっとだけね」

「そう、おっぱいが大きい方がタイプなんだ?」 

「ぶふっ!? いきなり何言い出すの」

「見てたでしょ?」


 ジトっと睨まれては逃げようがない。もとより俺の辞書に秋葉に嘘をつくという言葉はなく、ここは素直に謝るしかない。


「はい、ごめんなさい」

「他の女のおっぱい見るのは浮気だからね!」


 う、浮気なんだ? 俺は秋葉一筋だよ? その前に付き合ってないよ?


「わかった、これから絶対に他の女の人のは見ない」

「わかれば宜しい」


 満足したようにうんうんと頷く秋葉。


***


「右に逃げたよ、追いかけて!」


 マタドールと闘牛、春人先輩と俺の対照的なスタイルを二人一括りにしてよく評される。


「そこ! フェイント掛けて左の進路を塞いで!」


 そもそも弱小部、春人先輩に憧れる新入生の大量入部はあったものの、進学校のモヤシ生徒には過酷な春人先輩の練習量についていけずに大半が脱落、3ヶ月後には春人先輩と俺の二人だけになっていた。


「違う! 身体全体をぶつける感じで! そう! 嫌がって右に逃げるところにパンチを置いておけば当たるはず!」


 ほとんどのパンチ、というか全てのパンチを捌く春人先輩に対抗する為には被弾覚悟で突っ込んで行くしかなく、必然とリング上が闘牛場と化す。もちろん闘牛は俺だ。


「ああ、また当たらなかった……」


 進路に置いてたパンチを春人先輩は当然のように叩き落とすと、手打ちで腰の浮いてる俺の顔面にストレートを叩き込む。俺はそのままリングに崩れ落ちた。そしてそのまま練習終了。


「耳はいいんだよな。セコンドの秋葉の声にほとんど反応してたしな」


 当然だ。どんな大歓声の中でも秋葉の声を聴き分ける自信はある。


「スタミナも付いてきたし、最終ラウンドまで手と足が止まらなければ対戦相手次第ではチャンスはあるな」

「大会の話?」


 夏樹先輩がリングを降りた春人先輩にタオルを渡す。


「そうだ」


 去年の秋の大会は春人先輩の名前を全国的に轟かせた。弱小高校に彗星の如く現れた脅威の新人選手春人。


「でもまだ一発もまともにパンチを当てた事がないから」


 早く春人先輩にパンチを当てて秋葉に認めてもらう。弟分を抜け出すんだ!


「相手が相手だから仕方ないよね」

「まったく、大人げないわ!」

「まだ馬鹿になる気はないんだよ」


 三人の会話を聞きながら、俺はまだリングの上から動けずにいた。そして秋葉の幻聴を聴きながら微睡に落ちて行く。


「ケチくさいこと言わずに一発くらい殴られてくれてもいいでし……


***


「元気出しなよ!十分立派な成績だよ」

「……うん」


 秋葉の慰めが虚しく聞こえる。張り切って臨んだ大会は残念な結果に終わった。

『そうだなぁ? 春人にパンチを当てれるくらいに強くなったら立派な男の子、弟分卒業だね』

ボクシング部入部直後にはっぱを掛ける様に秋葉に言われた言葉が頭の中で繰り返される。

 同じ学校ということで大会の組み合わせは別ブロック、春人先輩と当たるとしても決勝戦。練習とは環境も違うのでもしかしたらチャンスはあるかもしれないと臨んだのだが。


「次の全国大会に向けて頑張ろうよ」

「……うん」


『闘牛』『ノーヒット』と称されてた俺はまったく警戒されていなかったようで、試合開始後にダッシュで間合いを詰め連打、嫌がって逃げるのを追い詰めて連打、それだけで全ての試合が終わった。問題は春人先輩と対戦出来なかった事だ。

 今回の出場枠は二枠あるので同門対決はする必要がないと春人先輩の不戦勝である。つまり、一度も春人先輩と拳を合わせること無く終わった。パンチを当てるなんてもってのほかだ。


「今日はすごく格好良かったよ」

「……ありがとう」


 いつも秋葉は優しい。こんな時にも励ましてくれる。いったい何時になったら俺は秋葉の横に並ぶのがふさわしい男になれるのだろうか?


***


「冬彦はまだ私の事、好きでいてくれてるのかな?」


 大会の結果に落ち込んでいる俺を励ますからと言われて呼ばれた秋葉の部屋。


「もちろん大好きだよ!!」

「本当?嬉しい!」


 高校に進学してからは勉強目的以外で訪ねた事はない。


「何か変だよ、どうかしたの?」

「あのね、お願いがあるんだ、そんなに難しい事じゃないし、どうかな?」

「秋葉の願いなら喜んで」

「冬彦なら簡単だよ。これを私に向かって読み上げて欲しいの、駄目かな?」

「読み上げればいいんだね、わかった!」

「ちょっと待って! 心の準備をするから」スーハー、スーハー


 秋葉は胸に手を当てて呼吸を整えている。


「!?」

「準備OK!読み上げてくれる?」

「じゃあ、読み上げるね」


 俺は秋葉から渡された用紙の内容を読み上げる。


「俺冬彦は秋葉の事が好きです。大好きです!」


 当たり前の事が書いてある。なので、そのまま読み続ける。


「はい!」

「だから俺と付き合ってくれ!」


 何度も言ったセリフである。


「はい!」

「将来、俺の子供を産んでくれ、できるだけ沢山」


 !? OK? えっ? 付き合えるの?


「はい!」

「浮気はしない」


 浮気ダメ、絶対にダメ。


「はい!」

「他の女には目もくれない」

「はい!」

「だから俺と結婚してください!!」

「…………」

「えっ?」


 ここの流れで拒絶されたら死にたくなる。


「こちらこそ、よろしくお願いします!!」


 そう言うと秋葉が胸元に飛びついてきた。相変わらずいい匂いがする。


「もう絶対に逃さないんだからね」

「こっちこそ、どこまでも着いていくからね」

「絶対に絶対に逃さないんだから、どんなに嫌がっても離れないんだから!」


 俺の女神は今日も可愛い。尊い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ