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Knight of Ace  作者: 赤城 奏
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第九話 明かされた真実

部屋に戻ったミツルギ達は、何かを覚悟した様な雰囲気を持っていた。それに気付いたオウガ達も真剣な表情で対峙した。

全員の視線がミツルギ達に集中した時、彼らは話し始めた。

「前に神殿を調べた時、あの壁画に記されていた事であの時話していなかった事がある。役の本来の能力と前回行った封印のリスク、そしてジョーカーの正体についてだ。」

役の本当の能力とは浄化能力であり、ジョーカーの正体であるかつての戦争で犠牲になったもの達の怨念を浄化していた事、月食のエネルギーを使えば浄化作用がなくなり封印という形でしか抑える事ができない事、そして月食のエネルギーを使えば使用者は死んでしまう事。

ミツルギ達が話し終えるまで誰も口を開かなかった。いや、開けなかった。

彼らが話し終えた時には部屋は静寂に包まれていた。

「…、まさか、ジョーカーの正体が戦争の被害者達の怨念とはな。」

タイコウがようよう口を開いてそう言った。

「俺たちはジョーカーが何かも知らず、その思いを踏みにじっていたのか。」

オウガが眉を寄せてそう言ったが、すぐにミツルギが否定した。

「それは違う。」

「私たちが使う役は浄化能力を持つ。それは彼らの怨念を浄化し、昇天させていた。だから思いを踏みにじっていたことにはならない。」

シンラもミツルギと同じく彼らの思いを察し、続くように説明した。それを聞いた全員が安堵した。それを見たミツルギ達も肩の力を抜いたがすぐに表情を曇らせた。

「だが、封印ともなると、そうもいかなくなる。」

「どういうことですか?」

戸惑った様子でミコトが尋ねた。それにハヅキが暗い顔をした。

「月食になればジョーカーの力が増し、通常の攻撃は効果がなくなります。なので役を使うしかなくなるのですが、それにも限界があります。そして不完全である第一位も森中のジョーカー全てを浄化しきることはできません。」

「だから足りないエネルギーを月食のエネルギーで補うのさ。ただし、さっきも言った様に月食のエネルギーを使えば浄化能力は失われ、いつかは解ける封印という方法しかできないんだよ。」

その言葉に、アキノリは身を乗り出して待ったをかけた。それにザクロはめんどくさげな顔を向けたが、アキノリは言葉を止めなかった。

「ちょっと待て、役の第一位が不完全ってどういうことだよ⁉︎」

オウガ達も思っていたことをアキノリが言った。全員の目が集中する中ザクロは肩をすくめた

「どうもこうも、前回の第一位が未完成だったってのは封印があったことでも、壁画に記されていたことでも証明されてる。それと、僕たちが使ったものを簡単にだけど比較して見たけど、どう見ても同じだったよ。」

その言葉に全員が呆然とした。元々、習得するだけでも困難なものを習得していただけでもすごいことなのに、さらにそれ以上である必要があったなど思いもよらなかったのだ。

そして、話を聞いて思い至った。数百年も前に役を作ったときでさえ完成しなかったものを今から完成させるには、どうやっても時間が足りなかった。ならば月食が近づいている今、どうやっても封印という方法しか取れないということに。それがミツルギ達の命を奪う行為だとしてもそれしかないことに。

その事実にオウガ達は絶望した。何人かは膝をついてもいた。ミツルギ達も分かってはいても、彼らの反応に顔をうつむけるしかなかった。

だが、それでも諦めきれないものがいた。

「なぁ。壁画を調べたって言ってたが、それは詳しく調べたものなのか?」

その一人であるマサミヤは思いついたことをザクロに尋ねた。ザクロは感心した様に目を細め、いつもの笑みを貼り付けた。

「いいや。国の準備やジョーカーのこともあったから、簡単にしかできなかったよ。」

それを聞いて何人かは顔を上げた。希望が見えた気がしたからだ。しかし、続けられた言葉に希望も消えた。

「でも、簡単にとは言っても、封印が重要なのは分かり切ってるから、第一位のことだけを集中的に調べたさ。その上でさっき言ったのさ。『僕達の使う第一位も未完成だ』って。」

ヒロキ達が再度顔を俯ける中、ザクロの言葉にそれでもマサミヤは食い下がった。

「だが、全てを調べきれていないのなら、月食のエネルギーを使わない他の方法が見つかるかもしれない。」

それにはミツルギ達も顔を上げた。彼らも新しく見えた希望に諦めきることはできなかった。

          ***

翌日、もう一度神殿を調べることになった。

今回はミツルギ達と共にミコト・コウキ・ミカド・マサトがいた。神殿についてすぐ、ミツルギ達は中へ入って行った。

「今度は調べ漏らしてこないでよ、A様。」

ミカドが皮肉のつもりでそう言ったが、ザクロは手を軽く振るだけだった。その返しに舌打ちをするもミコトになだめられ、前回のオウガ達同様神殿の周辺を調べ始めた

中に入ったミツルギ達は前回と同じ様に壁画を調べていた。だが今回は調べるだけではなく壁画に記されている内容を持参した紙に写し取って行った。中に入れないオウガ達も壁画の内容を知るために壁画を写し取ってくることが今回の目的だった。

部屋に入ったシンラとハヅキは早くも作業を始めていた。ミツルギも同じ様に紙を広げたところで、壁画を見上げたままのザクロに気付いた。

「いつ見ても圧巻だねぇ。」

「ザクロ。」

名を呼ばれたザクロは声に怒気が混じっているのを感じ取り、肩をすくめた。

「ハイハイ、サボらずやりますよ。」

めんどくさいという様な雰囲気で返したザクロだが、作業を始めると真剣な表情で取り掛かっていた。それにミツルギはため息をこぼしたがすぐに自分も作業に取り掛かった。

数時間後、全てを記し終えたミツルギ達は資料をまとめ外へ出た。外では神殿の周りを調べていたミコト達が同じように資料をまとめ終えていた。

「すまない、待たせたな。」

詫びるシンラにコウキは首を横に振った。

「いえ、私たちの方も先程終えたばかりです。それ程待ってはいません。」

その言葉にシンラは笑みを浮かべた。そして全員の準備が整うとすぐにスピリット王国へ帰還した。

城へ戻ったミツルギ達はすぐに資料を広げ、全員がそれを覗き込んだ。

「神殿の周りには半径約五十mほどの範囲にジョーカーが近づけないようになっていました。」

まず始めに神殿の周囲を調べていたミコトが話した。神殿に行ったことのない面々からは驚きの声が上がったが、神殿に行ったことのあるオウガ達は眉をひそめた。

「だいぶ狭くなったな。」

「俺たちが行った時は半径百mはあったはずだ。」

それに全員が顔をしかめた。ミカドはザクロ達を見た。

「A様達は何か意見とかないの?よくあそこに行ってたんでしょ。」

何も言わないザクロ達にそう聞いた。それに考え事をしていたザクロはめんどくさそうにため息をついた。

「僕達が初めてあそこに行った時は一キロぐらいはあったよ。でも、異変が起き始めたくらいから徐々に狭まってって、第一位を習得した頃には半分くらいになってたよ。」

ザクロの話を聞く中で、オウガ達は‘‘異変が起き始めた頃’’という言葉に注目した。

「もしかすると、前回の封印がまだ力を持ってて、それが神殿を守る結界みたいなものになってるのかもな。」

「だとすると、月食が起きる頃にはその結界が消滅して、ジョーカーが神殿に近づくことが可能になる。神殿を壊されれば封印できなくなる。」

タイコウの言葉にシンラが焦った様に言った。全員が封印以外の方法を見つける必要性が上がったことに複雑に思った。

「ハヅキさん達の方では、何か分かりましたか?」

ミコト達の説明を終え、マサトが尋ねた。ハヅキ達は新たに神殿内部の図面や壁画の内容を写し取ったものを出した。

全員の目が壁画の内容に釘付けになる中、ある一点を示した。

「これが壁画に記されていた事で、これが、前回の月食のことだ。」

全員がその内容に顔をしかめた。そして、封印以外の方法を探し、資料を読んでいった。

          ***

資料を読み進めて数時間が経ったが、なかなかいい案は浮かばなかった。その為、一度休憩を取ることになり、大半のものが資料から顔をあげた。

だが、ミツルギ達だけは資料を見続けていた。

「何か、気になる事でもありましたか?」

それに気付いたノブタカが声をかけた。ノブタカの言葉に休憩していたミカド達も視線をザクロ達に向けた。

「ちょっと、ね。」

ザクロは資料に目を落としたまま、歯切れ悪く答えた。言うべきか悩むザクロだが、全員の意識が集中しているのを感じ取り、唸り声を上げて天井を見た。

「僕はただ役が不完全なことが気になっただけだよ。おかしなことじゃないんだからそんなに注目しないでよっ!」

子供の様にでザクロが叫んだのをミツルギ達は顔をあげて苦笑し、オウガ達は見たこともない反応に唖然とした。

ミツルギ達がザクロをなだめる中、ミカドが惚けた顔で言った。

「お前、そういう反応もすんのね。」

ミツルギ達になだめられたザクロだが、そう言われてぶすくれた様に何か悪いと返した。以前惚けたままの彼らにザクロはため息をこぼして怒りを鎮めた。

「それより、そっちは何を気にしてんの?」

真剣な顔で問われたことにミツルギ達も気を引き締めた。

「お前と同じ、役のことについてだ。」

ミツルギがそう返し、シンラとハヅキも頷いた。ザクロはやはりと思ったが、コウキ達には彼らが役を気にする理由が分からなかった。

「シンラさん達は何故、そんなに役のことを気にしているのですか?」

ヒロキが全員の思いを代弁した。それに先程と同じ様にシンラ達は目を資料に落とした。正確には役のことが記された壁画の内容を移したものに、だ。

「おかしいんだよ、これ。」

「おかしい?役がか。」

オウキがおうむ返しの様に尋ねた。それにザクロが頷き、正確にはと続けた。

「役がこれだけある中で、なんで第一位だけは未完成なのかってことがだね。」

そう説明されても、オウキ達は納得できなかった。

「でも、第一位は最強の技なんだろ。だったら簡単にはできないもんじゃねぇのか?」

タケルが言った言葉に大半が頷いた。だがハヅキは首を横に振った。

「いいえ、本来第一位 ロイヤルストレートフラッシュは第二位 ストレートフラッシュよりも威力が強い程度が普通なんです。ですが、僕たちが使っている第一位と前回封印に使われた第一位はそれを上回る威力を持っています。」

第一位のことをそこまで知らなかったオウガ達は知らされた事実に愕然とした。だが、そのことを含めて考えてみるとミツルギ達が疑問に思うのも納得した。

「ミツルギさん達はその理由に心当たりはあるんですか?」

ミツルがなんと話に尋ねると、ミツルギ達は顔を見合わせ、何とも言えない顔をした。

「一応の検討はついているが、」

ミツルギが歯切れ悪くも肯定した。それにオウガ達は驚いたが、ミツルギたちの表情はいいものではないことに気づき不審に思った。

「ハヅキ?」

マサトがハヅキの名を呼んだ。ハヅキはミツルギたちの顔を伺い、マサトに向き直った。

「僕たちの考えとしては、未完成の理由はエネルギー不足だと思うんです。」

「エネルギー不足?」

意外に思ったマサミヤがおうむ返しの様に尋ねた。それにハヅキは頷いた。

「ですが、役を使うためのエネルギーなら足りていると思うんですが。」

シュウトはシンラたちが第一位を使った時を思い出しながら言った。それにザクロは肩をすくめた。

「確かに、通常のジョーカーを相手にするなら今のままでも十分だろうね。けど、第一位だけはそれ以上を想定して作り直されたんだろうね。」

「それ以上って、まさか⁉︎」

あることに思い至ったミカドたちは目を見開きザクロたちを見た。四人は一つ頷いた。

「おそらく第一位 ロイヤルストレートフラッシュだけは、月食のために作り直された役だ。」

「そして、エネルギーが足りなかったがために未完成にしかならず、浄化しきれなかった為月食のエネルギーを使って封印したんだろう。」

ミツルギとシンラが言った言葉に部屋の中は静まり返った。誰も何も言えなかった。

そんな時、部屋に過給機氏が駆け込んできた。

「大変です!禍々しくなった王が二体、森の南に出現しました!」

その報告に全員驚き、すぐに部屋を飛び出していった。

          ***

彼らが駆けつけた先には確かに禍々しく変異した王がいた。ミツルギたちは素早く剣を抜いて構えた。

「いよいよ、月食が近づいてきたわけか。」

剣を構えながらオウキが言った。ミツルギたちは軽く目を合わせると二手に分かれて飛び出した。

「なっ!おい。」

思いもよらなかった行動にオウガたちは出遅れた。

ミツルギとザクロは二人で片方の王と対峙した。こちらに気付いた王が腕を振り下ろしたのをザクロが弾き、ガラ空きになった胴にミツルギが入り込み袈裟懸けに剣を振り下ろした。追い討ちをかける様にザクロが剣を突き出した。たまらず数歩後退した王だが、あまりダメージを負った様子はなかった。

「なぁんか、あんまし効いてないみたいだね。」

「やはり、二人だと少しきついな。」

ザクロとミツルギは悔しそうに言った。体勢を立て直した王は強化されたスピードで二人に迫った。二人は左右に飛んで避けたが、ザクロが立て直そうとした時すでに王が腕を振り上げていた。

「ぐっ、重っ。」

なんとか剣で防いだザクロだが攻撃の重さに押され、膝をついた。

「ザクロ!」

駆けつけようとしたミツルギの横を誰かが飛び出した。

『ストレートフラッシュ』

横から役を受けて王は消滅はしなかったがザクロから離された。ザクロは役が放たれた方を見て驚いた。

「⁉︎お前ら。」

ザクロを助けたのはミカドとオウガだった。ザクロは自分を助けた相手が意外だったのか、目を見開いたまま固まっていた。それを横目で見たミカドは顔を正面に向けたまま楽しそうに言った。

「A様も大したことないね。なんなら今から僕が変わろうか?」

その言葉にザクロは笑みを浮かべて立ち上がった。

「冗談。僕のこの称号は、まだまだ誰にも渡さないよ。」

「ザクロ。」

ザクロが体勢を立て直したところへ、ミツルギたちも合流した。

「すまない、オウガ。」

「気にすんなよ。仲間を助けるのは当たり前だろ。」

肩をすくめたオウガにミツルギも頷いた。シンラたちの方を見ると、そちらの方でもコウキ達が援護していた。

「オウガ、お前達は俺たちの援護を頼む。」

「分かった。無茶すんなよ。」

「あぁ。」

ミツルギが頷き、ザクロと共に王に向かって行った。二人から離れたところでフォローするためにオウガ達は役を発動させた。ミツルギ達は仲間達と連携を取り王を追い詰めていった。

そしてオウガ膝をついた時、四人は役を使った。

『ロイヤルストレートフラッシュ』

『ストレートフラッシュ』

ミツルギ達が放つのと同時に、オウガ達も第二位の役を使った。すると、オウガ達の斬撃がミツルギ達の斬撃に吸収され、威力が増した。それに全員が驚いた。

威力の上がった斬撃を受け、ジョーカーは赤い光に包まれて消滅した。

          ***

ミツルギ達はジョーカーが消滅した場所をぼんやりと眺めていた。

(今のは一体?)

(もしかして、月食のエネルギーを使わなくてもいい方法ってこれか?)

今起きたことを誰も説明することはできなかった。頭を振ってミツルギは全員を促し城へ戻っていった。

月食が起こるまで後わずかー。

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