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Knight of Ace  作者: 赤城 奏
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第五話 異変の謎

まだ暗い時間に切り札の森の西側で轟音が響いた。そこでは複数のジョーカーと戦う少年がいた。少年ーハヅキはジョーカーの攻撃を流し懐に入り込むと、その胴に強力な突きを入れた。ジョーカーは突きを受けて何体かのジョーカーを巻き込みながら後ろへ倒れた。

ハヅキは一度大きく後ろへ下がると、右足を軽く引いて剣を斜め下に構えた。

「フラッシュ」

剣は青い光を纏った。ハヅキはその場で剣を十字に振るった。それによって生じた斬撃がジョーカー達を襲った。斬撃を受けてジョーカー達は青い光に包まれ、消滅した。

ジョーカーの消滅を見届けたハヅキは肩の力を抜いて剣を納めた。

(今回のジョーカー・兵も全て后並にまで強くなっていた。象もそれほどではないにしろ凶暴性が増してきていた。)

「いつ王が出現してもおかしくないですね。」

そう呟いてハヅキは嘆息した。そして踵を返し国へ帰っていった。

          ***

ミツルギ達ミチュの上級騎士達は今、スピリット王国の城にいた。そこには他にもシンラ達のスピリット王国の上級騎士、ザクロ達ディアマンテ王国の上級騎士、ハヅキ達クラーバ王国の上級騎士がいた。

その理由は2日前の会議にまで遡る。

ミチュ王国の会議室でミツルギ達上級騎士と総司令官が集まっていた。

「!それは本当ですか⁉︎」

オウガが驚いて立ち上がった。オウガの言葉に総司令官は頷いた。

「あぁ。上の方々の協議の結果、四大王国の上の方達で集い協議を行うこととなった。先日その旨をそれぞれ三国に知らせ、了承を得ている。場所はスピリット王国の城の一室で行われる。その護衛としておまえたちごにんがつくことになった。」

その知らせはミツルギ達にとって嬉しいものであった。三人は顔を見合わせ頷き合い、改めて総司令官の方を向いた。

「分かりました。出発はいつ頃になりますか?」

「これから二時間後に発つ。それぞれ準備をし、城門前で待機せよ。」

『了解!』

五人は席を立ち、それぞれ部屋を出ていった。

「ミツルギ!」

部屋に戻ろうとしたミツルギの後ろから声がかけられた。ミツルギが立ち止まって振り返るとそこにはオウガが笑っており、ミツルギが止まったのを見て駆け寄ってきた。

「よかったなミツルギ。こうなってよ。」

「あぁ。だが、今までの歴史を考えると本当に協力し合えるかは分からない。」

そう言ってミツルギは俯いた。だがオウガが彼の方に手をおいて笑った。

「大丈夫だよ。」

オウガの言葉にミツルギは顔を上げそうだなと呟いた。その顔にはもう暗い影はなかった。それを見たオウガはミツルギと別れた。二人はそれぞれ自身の準備のため部屋に戻った。

そして、国を出たミツルギ達は切り札の森とのギリギリの道を通ってスピリット王国に着いた。それまで数回ジョーカーと対峙したがすぐに倒し、その日の夜に王国へ着くことができた。

次の日の昼にクラーバ王国の者達が、その日の夜にディアマンテ王国の者達が到着した。

「それぞれの上の方達は協議のために一室に集まり、その間護衛のミツルギ達は別の部屋に集められていた。

そして今に至る。

          ***

ミツルギ達は今それぞれの国ごとに集まっていた。ミツルギは一度シンラ達と集まりたいと思っていた。そんな時オウガがミツルギに声をかけた。

「ミツルギ。今のうちにジョーカーのことについて情報交換しておいたほうが良くないか?」

「あぁ、そうだな。」

オウガの言葉にミツルギは頷いた。それにオウガはニッと笑って言った。

「なら、お前は他のAたちに話してこいよ。」

「!いいのか⁉︎」

オウガの言葉にミツルギは驚いた。オウガは返された言葉に頷いた。彼の後ろでミコトも同じように頷いていた。それを見てミツルギは小さく礼を言い、近くにいたディアマンテ王国の騎士達に囲まれたザクロの元へ向かった。

「すまない。そちらのAと話がしたいのだが良いだろうか。」

ミツルギの言葉にザクロはオウキとノブタカを見た。二人が頷いたのを見てザクロはミツルギの方に体を向けた。

「良いよ。話って俺だけに?」

「いや、あと二人呼ぶ。」

「分かった。そういうことなんで、後よろしくねぇ。」

ザクロはそう言ってミツルギについて行った。そして二人は残りのシンラとハヅキを呼び、話し声が聞こえない様部屋の端に集まった。

そこまで来ると全員素の表情を露わにした。

「久し振り。と言うほどではないか。」

ミツルギが苦笑してそう言った。釣られた様に三人も笑った。

「ホントだよねぇ。話し合ったのついこの間なのに。」

ザクロが肩をすくめて言った。それにシンラとハヅキも同意した。

「確かにな。まさかこんなに早く再開することになるとは。 」

「そうですよね。しかも僕たちにとっては嬉しいことでまた会うことになったんですから。」

シンラが片手を腰に当ててそう言い、ハヅキが嬉しいのを隠さず言った。そしてハヅキが続けた言葉に全員が嬉しく思った。

そんな時ハヅキが思い出した様に言った。

「そう言えば、僕とザクロさんも一部の人にですがみなさんとの関係を話したんです。」

「僕たちの方がそうなった原因は、大量発生したジョーカーとの乱戦中に起こったジョーカーの共食いなんだ。とは言っても食われなかったジョーカーが多く残っていたから仲間達の方でも仕方なく共闘し合ってたけどね。」

肩をすくめて言ったザクロの言葉にミツルギとシンラは親愛の表情でいた。だが、すぐに四人は真剣な表情になった。代表する様にミツルギが言った。

「これからの戦いで、おそらく王が出て来ることになると思う。」

それに三人も同意した。続く様にシンラが腕を組んで言った。

「だろうな。むしろ今まで出てこなかったことの方がおかしいくらいだ。」

「そうそう。しかも単に凶暴性が上がってた頃にならともかく、それよりも状況が悪化した今の状況で出てこないってことはないでしょ。」

シンラとザクロの言葉にハヅキは顔を曇らせた。

「そうなると、以前より悪化した今、通常のものが出現する確率は低いでしょうね。となるとどうしても異常が起きているものが出て来ることになりますね。」

ハヅキの言葉に全員が苦々しい表情をした。そしてザクロが嘆息した。

「ホント、嫌なことばっか起こってる気がする。」

「『気がする』じゃなく、実際に起こっている。ここまでになると少し気が滅入りそうだ。」

ザクロが投げ出した様に言ったのをミツルギが訂正した。シンラとハヅキもため息をついた。重くなった空気を覆す様にミツルギが言った。

「だが、‘‘切り札’’はまだ残っている。」

その言葉に三人はハッとした。そして不敵な笑みを浮かべた。

「そうだったな。ジョーカーに対抗する手は、まだある。」

そう言ったシンラに続く様にザクロとハヅキも言った。

「そうそう。せっかく頑張って特訓したんだもんね。」

「特訓の成果、盛大にお披露目いてあげます。」

全員が顔を見合わせ頷き合った。その後、訂正する様にザクロが「あんまり盛大にやっちゃダメだけどね」と言い、それに三人は「確かに」と笑った。

四人が集まって話していた頃、オウガとミコトの働きかけで情報交換のため四国の騎士達の中でもミツルギ達の事情を知るもの達が集まっていた。他のもの達は部屋の中で自由にしている者、オウガ達の様子を訝しんで見ている者と様々だった。

「さて、まずはお互いのところのジョーカーについて一度まとめてみますか。」

そう言ったオウガに全員が同意した。それにまずはミコトが話した。

「僕たちの方では元々兵と象の出現率が増加し、異常に力が強くなっているだけでした。ですが今から半年ほど前から后に新たな異変が起き始めました。」

ミコトが話すと、それぞれの国のもの達も話し始めた。

数十分後、すべての国のことを話し終えた後マサトが代表してまとめた。

「皆さんの話をまとめると、ミチュ王国は初めに兵と象の出現数の増加と力の異常な上昇。今から半年前から后に新たな異変ー弱体化からの凶暴化が起こっている。」

マサトの言葉にオウガ達は頷いた。次にマサトはマサミヤ達の方を見た。

「スピリット王国では象と城の出現数及び出現率の増加。そして四ヶ月前から兵と后に新たな異変ー兵が共食いからの凶暴化、后が弱体化からの凶暴化が起こっている。」

同じ様にマサミヤ達も頷いた。その次はオウキ達の方を見た。

「ディアマンテ王国では兵のみの出現率が増加し、象並となるまでの異常な力の上昇。そして五ヶ月前から象に新たな異変ー共食いからの凶暴化が起こっている。」

オウキ達も同じ様に頷いた。最後にマサトはタイコウ達の方を見て全員の方に体を向けた。

「そして我々クラーバ王国では兵が后並にまでなる程の力の異常な上昇。それと半年前から象と城に新たな異変ー象が共食いからの凶暴化、城が弱体化からの凶暴化が起こっている。」

マサトの後ろでタイコウが頷いた。まとめ終えた情報に全員が考え込み黙った。はじめに声を上げたのはヒロキだった。

「何故凶々しくなる過程が違うのでしょうか?」

ヒロキが言ったことは全員が考えていたことだった。その問いにオウガは小さな声で返した。

「…力の差、じゃないのか。」

オウガの言葉に全員が眉をひそめた。それに問い返したのはマサミヤだった。

「どういうことだ?」

「単なる推測でしかないんだが、ジョーカー達に何か大きな力が働いて力の強い后と城は弱体化するにとどまったが、力の弱い城と兵はそれに耐えきれなかったため共食いをすることで消滅を逃れようとしたんじゃないかと思ってな。」

オウガの推測に納得した様にタイコウが肯定した。

「なるほどな。確かにそれはあり得るな。」

「ですが、もしその通りだとしてもジョーカーに働いている力とは一体何なんですか?」

だが、新たな問題をミコトが指摘した。彼らはまたもや黙り込んでしまった。

「赤い月」

「赤い、月?」

そんな時ノブタカがポツリと呟いた。その言葉を拾ったヒロキがおうむ返しの様に聞き返した。

「なるほど、月食か。」

ヒロキの言葉を訂正する前にオウキが納得した様にそう言った。その言葉にノブタカは頷いた。

だが聞いたこともない言葉にヒロキ達は疑問符を浮かべて顔を見あった。

「‘‘げっしょく’’って一体なんだ?」

「月食ってのは数百年に一度起こる現象だ。月が昇ってから沈むまでの間、月が赤く光るってもんだ。」

「だから‘‘赤い月’’ですか。」

オウキの説明を聞いてマサトがそう言った。他にも未だ分からず頭を悩ませているもの、同じように納得したものと様々だった。

そんな中、彼らのいる部屋の扉が乱暴に開かれた。扉を開けた下級騎士は息を切らしながらさけんだ。

「はぁ、はぁ。た、大変です!ここから南西二キロ先の森で凶暴化したジョーカーが大量に出現。王以外のジョーカーが全て出現しています。」

『‼︎』

部屋にいた者達全員が驚いた。そして情報交換をしていたミツルギやオウガ達は仲間の元へ戻った。

「ミツルギ。」

「行くぞ。凶暴化しているなら早く倒した方が良い。」

そう言ってミツルギはシンラの方を見た。同じようにザクロとハヅキもシンラ達の方を向いて頷いた。

「すまない。助かる。」

シンラが申し訳なさそうに言った。そして全員が部屋を飛び出した。

          ***

ジョーカーが出現した場所についたミツルギ達は素早く剣を抜き、それぞれジョーカーに向かって行った。ミツルギ達は仲間と協力し、一緒に攻撃したり背中合わせで戦ったりして大量のジョーカーを倒して行った。だがそれと同じ数のジョーカーが新たに出現し続けていた。

「クッソ、キリがないな。」

愚痴を漏らしたオウガの後ろでミツルギは正面のジョーカー二体を倒した。

「あぁ。だがまだあの状態になったジョーカーはいない。今のうちにとっとと倒しきるぞ。」

「了解。」

オウガはミツルギにそう宥められて怒りを落ち着けた。そして二人はまた新たなジョーカーを倒した。

「あ〜もぉ。鬱陶しい!何でこんなにしつこいんですか。」

イライラした様子で叫んだヒロキをスピリット王国のKであるコウキが睨んだ。

「口を動かす前にまず手を動かしなさい。油断すればすぐに足元をすくわれます。」

「分かってますよ!」

コウキの説教に八つ当たりになって言い返した。そしてすぐにヒロキは新たなジョーカーに向かって行った。

「ホラホラこっちだよ〜。」

クラーバ王国のJ・アキノリはジョーカーを挑発するように目の前で飛び跳ねたりしていた。ジョーカーはアキノリを捕まえようと上を振り上げるが、ギリギリのところで逃げられてしまう。それを追いかけるように何体かのジョーカーが前へ踏み出した。するとジョーカーの足元に大きな穴ができ、その穴に落ちて身動きができなくなってしまった。

そんなジョーカーの上からアキノリは役を使いジョーカーを消滅させた。

「へへん。うぉっ⁉︎」

穴の前で喜んでいたアキノリは横からの攻撃を間一髪で避けた。だが体制が崩れてしまったアキノリに爪を振るおうとしたジョーカーだが後ろから斬られて倒された。ジョーカーが倒れた後ろにいたのはタイコウだった。

「挑発して罠にかけるのは良いが、周りをちゃんと見ろといつも言っているだろ。」

「分かってるよ。次はやらない。」

タイコウに叱られてアキノリはふてくされたようにそう言い、すぐに剣を構えて新たなジョーカーに突っ込んで行った。

「全く。」

タイコウはそんなアキノリにため息をこぼし、また新たなジョーカーと対峙し始めた。

「はぁ、やあ。」

ディアマンテ王国の10・シュウトは三体のジョーカーと戦っていた。シュウトが前の一体と対峙していると横から別のジョーカーに攻撃された。ギリギリ避けたが体勢を崩してしまった。そこへ追い討ちをかけるようにジョーカーが襲いかかったが、別の誰かに倒された。

「大丈夫ですか?」

ジョーカーを倒しシュウトを救ったのはノブタカだった。ノブタカは剣をジョーカーに向けたままシュウトに声を掛けた。

「はい。ありがとうございます。」

「正面の敵を倒すのは良いですが、周りのこともちゃんと見てください。」

そう言ってノブタカは左のジョーカーを倒し、後ろから振るわれた腕を飛んでかわし落ちる勢いを利用して剣をジョーカーに突き立てて倒した。地面に降りたノブタカはそのまま他のジョーカーを倒しに行った。

「よっし、やるぞ!」

それを見ていたシュウトは新たなジョーカーに突撃して行った。

ジョーカーの大群を倒し始めて数時間が経った頃、ようやくジョーカーの出現が止んだ。残りは今いるジョーカーを倒すだけとなった時、それは起きた。

『グオオオォォォ』

ある一体のジョーカー・后が突然大きく吠え出し、体を凶々しいものに変え始めた。それに釣られた様に兵・城・象に一体ずつ異変が起きた。空に吠え、周りのジョーカーを食ってその体を凶々しいものに変えた。

それを見た四人のAは纏う空気を変えた。

「?ミツルギさん。」

それに気づいたミツルはミツルギに声を掛けたがミツルギは手を止めたまま変異していくジョーカーを見続けていた。ミツルの声を聞いたオウガ達もミツルギに視線を送った。視線が集まる中、ミツルギはぽつりと呟いた。

「…頼んでも良いか。」

『え?』

ミツルギの言葉の意味が分からなかったツカサとミツルは疑問を浮かべたが、オウガとミコトは嬉しそうに微笑んだ。

「行ってこい、ミツルギ。」

「こちらのことはお任せ下さい。」

二人の言葉を聞いたミツルギは一つ頷いて変異していくジョーカーに向かって行った。

「どうしたんだよシンラ?」

ミツルギと同じく凶々しく変異していくジョーカーをシンラも剣を振るう手を止めて見ていた。それに気づいたスピリット王国のJ・タケルがシンラの近くにいたジョーカーを倒しながら声を掛けたがシンラは何の反応も示さなかた。タケルとコウキはいつものシンラらしからぬ様子に首を傾げた。だがヒロキとマサミヤはシンラの考えがわかった。

「早く行けよ。こっちは俺らがやるから。」

「僕たちは大丈夫です。シンラさん達はあっちの方をお願いします。」

二人の言葉にシンラは後ろを振り向いた。振り向いた先にあった二人の笑みを見て、シンラは頼むと言って変異していくジョーカーに向かった。

「珍しいじゃん。お前が黙ってるなんて。」

ディアマンテ王国のK・ミカドは挑発する様にザクロに言ったが、ザクロは変異を始めたジョーカーを見ているだけだった。何の反応もないザクロに不審を抱いたミカドはそれ以上何も言わなかった。ミカドの言葉を聞いたオウキ達はジョーカーを倒しながらザクロへ視線を向けた。シュウトは不安そうな視線を向けたがオウキとノブタカはザクロが動くのを待っていた。

「ねぇ。ここのこと、頼んでも良いかい?」

やっとザクロが発した言葉はそれだった。ミカドとシュウトはザクロが言ったとは思えない言葉に驚き固まったが、オウキとノブタカはそれを待っていたかの様に笑った。

「ここはA様がいないと崩れる様な貧弱者はいねぇよ。とっとと行って倒してこい。」

オウキがそう言い、ノブタカも頷いた。横目でそれを見たザクロはフッと笑みを漏らすと、変異を始めたジョーカーに向かって行った。

「ハヅキ?」

手を止めてジョーカーを見ていたハヅキにマサトは声を掛けた。それに気づいた対抗も横目でハヅキを見た。アキノリとクラーバ王国の10・トウヤはそれに気付かずジョーカーを倒すことに集中していた。マサトは戦っていたジョーカーを倒したタイコウと顔を見合わせ頷き合った。

「行きなさいハヅキ。」

「!」

マサトの言葉に驚いたハヅキは後ろを振り返って二人を見た。二人保同じ様に微笑んでいた。

「こっちは俺たちだけで十分だ。お前はやるべき事をやってこい。」

二人の笑みを見たハヅキは力強く頷き、変異を始めたジョーカーに向かって行った。

変異を終えたジョーカー達は向かってくる四人にその鋭い爪を振りかざした。四人は素早く避け、一人一体いや、四人で四体を相手に戦い始めた。

四人のことを知らない者達は先程の会話と、彼らの戦う姿に戸惑いを隠せなかった。

ミツルギ達は互いが互いをフォローし合いながら戦っていた。ミツルギが正面のジョーカーを斬り、ガラ空きになった背中に別のジョーカーが爪を振るうも横からシンラに防がれミツルギと背中合わせになる。ザクロとハヅキは互いの身長差を生かし、ザクロが上から斬りかかり注意の疎かになったところをハヅキが足元を掬う様にして体勢を崩す。四人の流れる様な攻守の交わりはまるで踊っているかの様だった。

だがその戦い方は四人の関係を知らない者達からしてみれば混乱する要因以外の何物でもなかった。

(何で?何でミツルギさんが、国を裏切る様なことをするんですか?何で…)

ミツルは四人のことが衝撃的すぎて戦いに集中することができず、ジョーカーに押されていた。振り下ろされた腕を剣で受け止めるも押し返すことができずその場で固まっていると同に蹴りを食らって後ろに倒れた。ミツルは何とか起き上がろうとしたがそれより早くジョーカーの爪が振るわれた。

(やられる‼︎)

腕で顔を覆ったミツルだが、いつまでたっても攻撃を受けることはなかった。腕を退けてみるとそこにはオウガの背中があった。

「オウガさん!」

爪を受け止めたオウガはそれを弾き懐に入り込んで剣を振り上げた。斬られたジョーカーは後ろに倒れて消滅した。オウガはミツルの方に振り向くと未だ混乱している様子のミツルを見た。

「オウガさん。ミツルギさんは何で、国を裏切るようなことをするんですか?僕たちは、仲間じゃなかったんですか?」

ミツルはずっと考えていたことをオウガに言った。オウガは揺れるミツルの目を見てからミツルギ達の方を見て言った。

「ミツル。お前は、国を裏切ったミツルギを斬り捨てるか?」

オウガの言葉にミツルは目を見開いた。

「そんな、そんなこと出来る訳無いじゃないですか!ミツルギさんは僕たちの仲間なんですよ!」

「ならそれで良いだろ。」

「えっ⁉︎」

考えても見なかった言葉にミツルは驚いた顔をした。そんなミツルにオウガは微笑んだ。

「ミツルギは俺たちの仲間だ。それに今回の四大王国の上の方々が集まったのも国同士が協力する必要があるからだ。なら、今はもう『裏切り者』じゃないだろ。」

オウガの言葉を聞いてミツルは一度目を閉じた。そして開かれた目に光が戻っていた。それを見たオウガはもう大丈夫だと頷きミコトの方を見た。ミコトもツカサのフォローををしており、ミコトに諭されたツカサは新たなジョーカーを倒していた。彼の方もいつもの自信を取り戻していた。

「どうやら向こうも大丈夫そうだな。行くぞ、ミツル。」

「はい!」

オウガ達もまた新たなジョーカーに向かって行った。

同じようにコウキもジョーカーを倒しながらもシンラの行動に戸惑いを隠せなかった。

(どういうことですかシンラさん。Aである貴方が、なぜ国を裏切るのですか。)

先程までの勢いはないが何とかジョーカーを倒している時、マサミヤを見つけた。マサミヤもコウキに気付き二人は背中合わせで戦い始めた。二人で戦い大量のジョーカーを倒して行くがコウキの動きはいつもより鈍かった。

それに気づいたマサミヤはジョーカーと戦いながらも後ろにいるコウキに話しかけた。

「珍しいな。あんたが戦ってる最中に悩むなんて。」

話かけられたコウキはマサミヤの言葉に何も返さず、逆に自分の考えを言った。

「貴方は、シンラさんのことを知っていましたね。」

「…あぁ、知っていた。」

「何故、彼女を止めなかったのですか。」

八つ当たりのようなコウキの言葉にマサミヤは一瞬シンラ達の方を見た。

「あの状態になったジョーカーどもを倒せるのは、現状的にAであるアイツらだけだ。だから止めなかった。」

「そうではありません。確かに彼らの戦いを見るにシンラさん達でなければならないというのは分かります。だからと言って何故彼らとともに戦うなどという行動を起こすことをわかっていながらを行かせたのかということです。彼女のあの行動は王国に対する裏切り行為です。」

何かを堪えるようにそう言ったコウキに、マサミヤは背中を向けてみえないコウキの思いつめたような顔が浮かんだ。それにマサミヤは嘆息した。

「なぁ。今回四大王国の権力者達が集まった理由、Kのあんたなら分かってんだろ。もう国がどうしたとか言ってらんないってのは。」

「…」

「それならアイツの行動だって裏切り行為じゃないってことだろ。」

マサミヤの言葉に口をつぐんだコウキは、左から突進してきたジョーカーを倒し大きく息を吐いた。

「私としたことが、仲間を疑うなんて愚かな行為をするとは。マサミヤ。」

「シンラさんと彼らの事について、後でちゃんと話してもらいますよ。」

そう言ったコウキは先程までの戦いは何だったのかという勢いでジョーカー数体を倒してしまった。それを見たマサミヤは吹っ切れ過ぎだろと呟き冷や汗を流していたが、笑みを漏らしコウキに続いて行った。

別のところではミカドが冷めた目をしてジョーカーを倒していた。

「ふ〜ん。A様が国を裏切る、ねぇ。」

だが内心は大きく動揺しており、背後からの攻撃に気付かなかった。だがそれをノブタカが防いだ。それによってミカドも攻撃があったのに気付き、散漫だった周囲への注意を再度行った。

「背中がガラ空きです。いつもの貴方らしくもない。」

ミカドの援護をするようにジョーカーを倒して行く中ノブタカはそう言った。その言葉にミカドは自重気味な笑みを漏らすと表情を消した。

「ねぇ。ザクロにとって、僕たちって一体なんだと思う?」

いつもならば言うはずもない言葉にノブタカは淡々と返した。

「仲間ですね。」

「仲間ねぇ。なら何で、僕たちよりも‘‘あっち’’を選んだんだろうね。」

「それは、あのジョーカー達を倒すため「‘‘そっち’’じゃないよ。」

ミカドはノブタカの言葉を遮った。それにノブタカは口を噤んだ。横目で見たザクロの顔は悔しそうに歪んでいた。

「何で。仲間だって言うなら、何で僕たちじゃなくてあっちを、他のA達を選んだんだよ

僕たちのこと信じてないんじゃないか。」

そう言ったミカドを見たノブタカはザクロ達の戦いを見た。背中を預けて戦うザクロ達を見てノブタカは言った。

「ザクロ様はあの時‘‘頼む’’と言われました。それは信じているからではないのですか。」

ハッと顔を上げたミカドは、数秒固まった後口元に不敵な笑みを浮かべ小さな声でそっかと呟いた。

「そんじゃ、A様の期待に答えないとねぇ。」

そう言ってジョーカーを倒して行くミカドはいつもの様子に戻っていた。それを見たノブタカは他の者のフォローのため、また新たなジョーカーを倒して行った。


同じように、アキノリはハヅキの行動に戸惑い、ジョーカーに防戦一方でいた。

(何で、何で何でなんで。何でだよ!)

ジョーカーの蹴りを受けてアキノリは数回転がった。ジョーカーが倒れたアキノリに近づいたがアキノリは倒れたままでいた。

「何で、だよ。…ハヅキ。」

ジョーカーが爪を振り下ろした時、誰かが爪を止めた。いつまでたっても訪れない痛みにアキノリは顔を上げた。

「何を呑気に寝ているんだ。」

「タイコウさん。」

アキノリを助けたのはタイコウだった。タイコウは受け止めた爪を弾き、ジョーカーを斬り倒した。ジョーカーは消滅した。

ジョーカーを倒したタイコウは周りを注意しながらもアキノリの方を体ごと向いた。アキノリはゆっくりとした動きで上体を起こし、その場に座り込んだ。落ち込んだ様子のアキノリにタイコウはため息をついた。

「いつまでそうやってうじうじしているつもりだ。ここは戦場だ。戦う意志がないのなら帰れ。」

いつまでも動かないアキノリにじれたタイコウはそう言った。アキノリは叫ぶように自分の思いを口にした。

「何でハヅキはあんなことしたんだよ。アイツはクラーバ王国のAだ!それなのに国を、俺たちを裏切ったのは何でなんだよ!」

アキノリの思いにタイコウは一度目を伏せた。

「アキノリ。確かにハヅキは国にとって裏切り者だ。だがそれは以前までの事だ。」

タイコウのその言葉にアキノリはハッと勢いよく顔を上げた。そこには微笑を浮かべたタイコウがいた。それを見たアキノリは震える声で言った。

「それってつまり、ハヅキは俺たちの事、裏切ってない?」

「逆に今アイツを裏切り者にすれば、せっかく四大王国が纏まろうとしている意味がなくなるだろ。」

その言葉を聞いて、アキノリは立ち上がった。そこにはもう迷いはかけらもなかった。

「ありがとなタイコウさん。それと、迷惑かけてすんません。」

「迷惑じゃなくて心配だ。さて、とっととこいつら倒すぞ。」

「あぁ。」

アキノリは軽快な動きでジョーカーを翻弄しに行った。それを見たタイコウはいつもの様子に戻ったアキノリに続くように駆け出した。

凶々しくなったジョーカー達と戦いながらも、ミツルギ達は仲間の様子が気にかかっていた。だが、事情を知るオウガ達の言葉もあり、信じてくれる仲間達の様子にミツルギ達は安心した。

「どうやら、僕たちの心配は杞憂だったみたいだね。」

ミカドとシュウトがいつもの様子でジョーカーを倒して行くのを見たザクロの言葉に、ミツルギ達も頷いた。

「あぁ、そのようだ。」

シンラが振り下ろされた腕を弾き、横に降られた腕を飛んでかわしながらそう言った。その顔はどこか誇らしげだ。

「どうやら俺たちは、アイツらのことを少し舐めていたようだな。」

二体のジョーカーの腕を流し、それぞれに一太刀ずつ入れながら、ミツルギが言った。そこには嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

「不謹慎ですけど、僕たちのことでああやって悩んでくれて、仲間だって言ってくれるのってすごく嬉しいです。」

振り下ろされた腕をしゃがんで避け、懐に入り込んで斜め下から切り上げながらハヅキが言った。その様子は今すぐにでも飛び跳ねたいとでも言いたげなほどだった。

四人の攻撃に防戦一方になって行くジョーカー達。四人の強烈な一撃に大きく後退すると、彼らは利き足を引いて剣を斜め上に構えた。

『ストレートフラッシュ』

余人の剣は薄い赤色を纏った。まだ動けないでいるジョーカーに、ハヅキが上から、ザクロがしたから剣を降り斬撃を飛ばした。ミツルギとシンラは左右からそれぞれ斬った。四人の攻撃を受けジョーカー達は赤い光に包まれて消滅した。

同じようにオウガ達の方も役を使いジョーカーを倒した。そして最後の一体が倒され戦闘は終了した。

          ***

ミツルギ達は剣を納め、それぞれ仲間の元へ戻った。

ミツルギは大きく息をついていたオウガに声をかけた。

「怪我はないか。」

「ねぇよ。」

オウガの返しにミコトも後ろで頷いた。入れ替わるようにミツルが駆け寄ってきた。

「ミツルギさんこそお怪我はないんですか?」

「あぁ。大丈夫だ。」

その言葉にミコトとツカサは安堵の息を吐いた。

同じようにシンラはマサミヤに声をかけた。

「無事か。」

「あぁ。」

声をかけられ振り返ったマサミヤはそう言った。その横でコウキとタケルが心配そうな顔をしていた。

「シンラさんは大丈夫なんですか?」

「そうだぞ。あのジョーカーどもを相手に怪我とかしてないか?」

「問題ない。」

『良かったぁ。』

シンラが微笑んで返すと、後期は笑みを浮かべ、ヒロキとタケルは肩の力を抜いてそう言った。

戦いを終えて休憩していたオウキ達の元にザクロの気の抜けた声が届いた。

「お疲れさ〜ん。」

「よっ。怪我はねぇか。」

「ぜ〜ん然。かすり傷一つないよ。」

振り返ったオウキの言葉に軽く肩をすくめながらザクロが答えた。それに皮肉の様にミカドが言った。

「さっすが、天下のA様ってか。」

「あったりまえでしょ。それよりそっちこそ怪我ないの?」

「大丈夫です。」

ふざけた様なミカドとザクロの応酬の中で言われた言葉にシュウトが元気よく返した。それにザクロは小さく呟いた。

「そっか、良かった。」

ザクロはミカド達に分からない様に小さく微笑んだ。

戻ってきたハヅキの元にアキノリは駆け寄った。

「大丈夫かハヅキ。怪我とかしてないか?」

ハヅキの体を隅から隅まで確認するアキノリに嬉しそうに返した。

「はい、大丈夫です。」

「良かったぁ。」

ハヅキの言葉に安堵したアキノリは脱力した。そんなアキノリにトウヤが近づいた。

「馬鹿か。ハヅキはAなんだから、お前みたいなドジなしねぇよ。」

「なんだと!」

トウヤの言葉にアキノリは食ってかかった。言い合いを始めた二人にタイコウはため息をつき、マサトは苦笑していた。

そんな彼らを見て、ハヅキもまた笑った。

全員の無事を確認し終え城へ戻ろうとした時、森の奥から足音が聞こえた。

全員すぐさまそちらを向き、剣を構えて警戒した。

「まだ残ってたのか。」

「その様だ。油断するなよ。」

全員が剣を構える中、そいつは彼らの前に出た。そいつを見た全員が驚愕した。

『なっ⁉︎』

「ジョーカー・王」

誰かがそう呟いた。

現れた青いジョーカー・王はその場で大きく吠えた。

『グオオオォォォ』

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