表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています  作者: 月夜野繭
学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/24

理事長室の秘密



 翌日から、学園内の雰囲気が変わった。

 雰囲気、というよりも、わたしに対する風当たりが変わったというか……。


「アーリア様、今日もお綺麗ですね!」


「おはようございます! 朝から妃殿下にお目にかかれるなんて幸せです」


 男子生徒がみんな、やけにチヤホヤしてくる。

 なに? 一体どうしたのかしら?


 たまにあの待合室のテラスにいた子たちも見かけるけれど、わたしとすれ違うと真っ赤になって熱い瞳で見つめてくるので、ちょっと怖い。

 セドリックに何やら言い含められているようで、手を出してくることはないけれど。


「アーリア、人気者になってしまったね?」


 少し不安そうにわたしをのぞきこむセドリックに、わたしは微笑みかけた。そんな顔をしなくても、わたしの夫はセドリックだけなのに。




 あの日――。


 セドリックがあとで話してくれたことによると、わたしとエドワードの並んだ様子を見て、セドリックは落ちこんでしまったらしい。自分が、わたしにふさわしくない子供に思えて。


 そして、上級生の女の子、あのオレンジ色の髪の少女に慰められたのだそうだ。

 彼女は可憐な見かけのわりに押しの強い娘だったようで、セドリックが内心弱っていると見るや、強引なアプローチをしかけてきた。わたしになりかわろうとして……。




 彼女はあれきり休んでいるらしく、いろんな噂が飛び交っている。

 学園はある意味、社交界の縮図だ。怖い怖い。


「セドリックこそ、想いを寄せられることが多いのだから、気をつけてくださいね」


「僕が興味を持たれているとしたら、学園で数少ない既婚者だからさ。みんなから見たら、大人に思えるんだろう」


 セドリックがそれこそ大人びた顔で苦笑した。

 セドリックの魅力はそれだけではないと思うけど。それを主張しようとしたら、女子生徒から挨拶をされ、会話は途切れた。


「……おはようございます」


「おはよう」


「ごきげんよう」


 女子生徒たちは、あからさまにわたしをおとしめることはしなくなった。


 おしとやかに礼をする少女たちの目は、一瞬ギョッとするほど、一律にギラギラとしている。わたしの一挙手一投足に注目しているようなのだ。

 大人っぽい女性がモテる、という学園内の流行りのせいで、わたしは格好の研究対象になってしまったらしい……。


 セドリックがくすっと笑った。


「女子生徒の憧れの的だね。アーリアの崇拝者が増えてしまった」


 それは、ちょっと違うと思うけどね……?






 * * * * *






 セドリックにエスコートされて、理事長室に着くと、タイミングよくエドワードがやってきた。いや、タイミングがよいかどうかは、微妙かしら。


「妃殿下、おはようございます。まだ早いのですが、本日の理事会の予定を……。おや、セドリック殿下もいらしたのですか」


「ええ。学園長も朝から熱心ですね」


 セドリックとエドワードの視線が合う。セドリックの射るような瞳と、エドワードの余裕綽々な態度。

 な、なんだか、火花が散ってる……?


「あの、エドワード様、わざわざありがとうございます。先日いただいた資料も大変参考になりました」


 エドワードに会釈すると、エドワードも親密な微笑みを浮かべた。


「妃殿下のお役に立てたのなら、よかった。今日も理事会の前に、打ち合わせをしておきましょうか」


「そうですわね。そのほうが安心かしら……」


 以前、エドワードに口説かれて――でも、自制してくれた彼に、わたしはわりと好感を持っていた。信頼感とも言えるかしら。

 わたし、ちょろい? 自覚はちょっとあるけど。


「では、これからよろしいですか?」


 エドワードがわたしの背を押し、ソファーに座らせようとしたところで、セドリックが話しかけてきた。


「そういえば、アーリア、話し忘れていたことがあるのだけど……。学園長、打ち合わせの前に申し訳ないのですが、少しお待ちいただけますか?」


「かしこまりました」


 エドワードはわたしから手を引き、セドリックに対して丁寧に頭を下げる。


「セドリック様、お話していない件って、何かございましたかしら?」


「うん。ちょっと内密の話なんだけど……いいかな?」


 わたしを横目で見ながら、理事長室の奥の扉を指さすセドリック。


 理事長室の隣には、私的な休憩室がしつらえられている。大きめの長椅子があり、茶器などもそろっていて、執務の合間に軽く休憩できるようになっていた。


「はい。メイドを呼びますか?」


「いや、そんなに時間はかからないから」


「わかりました。こちらへどうぞ。エドワード様、ごめんなさい。セドリック様とのお話が終わったら、また改めてご連絡させていただきますわね」


 エドワードに謝ると、彼はにこりと笑って、ソファーに一人で腰かけた。


「大丈夫です。このまま待たせていただきます」


 わたしはセドリックと一緒に、休憩室へと入っていった。

 セドリックが後ろ手に扉の鍵をかける。そして、窓まで歩を進め、厚手のカーテンを引いた。


「セドリック様?」


 すぐに終わる話だと言っていたのに、なぜ鍵を? それに、カーテン……?


 セドリックは無言のままわたしの前に立った。そして、背後を振り返り、壁の一点を指し示した。


「……鏡?」


 そこには、一枚の大きめの鏡があった。

 ……そのはずだった。


 でも……、あれ?

 おかしい。違う。鏡じゃ、ない。


 これまでずっと鏡だと思っていたのだけれど、カーテンを閉めて暗くなった休憩室で、その鏡はまるで窓のように、隣の理事長室の中の光景を映し出していた。

 確か、理事長室側の壁にも、同じ位置に嵌めこみ式の鏡があったはず……。


 表裏が一体になった、鏡。

 鏡のように擬態した、窓。


 もしかして。

 これって、いわゆる――マジックミラー!?





ブックマークや、このページの下にある☆マークで応援していただけると、とてもうれしいです!


学園編はあと二話になります。どうぞよろしくお願いします♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お読みいただき、ありがとうございました!
匿名でのご感想もこちらで受け付けています。

作者の励みになりますので、
お気軽にお送りいただけるとうれしいです!


▶︎▷▶︎ Xプロフィール既刊リスト ◀◁◀

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ