すれ違う想い
「……お似合いね」
「年のころも、ちょうどよいのではなくて?」
「学園長様は独り身よね。大人は大人同士で結婚すればよろしいのに」
「セドリック様、お可哀想……。あんな年上の方と」
遠巻きにひそひそ話す女子生徒たちの声が聞こえた。
ささやきは、王立高等学園の理事長室から連れ立って出てきた、わたしとエドワードの背中に対して向けられている。
時刻は昼近くなっていて、わたしたちは並んで、学園の廊下を教員用の食堂へと歩いていた。
わたしはあとから行くと主張したのに、エドワードにエスコートすると言われて断りきれなくて……。
上気した頬を、誰かに気づかれてしまわないだろうか。
「……妃殿下」とエドワードが、わたしの耳もとに唇を寄せて、低い声でささやいた。
「あなたのあでやかさへの賞賛と妬みのようなものです。お気になさらず」
少女たちに年上すぎると貶められたわたしを慰めてくれたんだろうけど……それ、逆効果だから!
「きゃっ」
「いやらしいわ、不潔……」
と、女子生徒の抑えた叫び声がした。男子生徒たちも息を呑んで、わたしとエドワードを見ている。
エドワードがさらに何かを言おうとした時、背後からざわめきが近づいてきた。
六、七人ほどの男子生徒の集団……美しい金髪の少年と、彼を取りまく同年代の男の子たち。乙女ゲームの追加ディスクかというくらい、タイプの違う美少年が勢ぞろい。
女子生徒のテンションが上がる。
「セドリック様よ……」
「素敵ですわ」
「ご学友の皆様も麗しいわね」
美少年の集団の中でもひときわ整った顔立ちの金髪の少年――セドリックが早足に歩いてきて、わたしの前に立った。
細いけれども、華奢には見えない。剣や体術の稽古に打ちこんでいるセドリックの体は、しなやかな筋肉がついていて美しかった。
「アーリア」
「セドリック様、ごきげんよう」
「…………」
セドリックは周囲を軽く見まわし、先ほど黄色い声を上げていた女子生徒や、わたしを変な目で見ていた男子生徒を確認するような仕草を見せる。
すっかり野次馬になっていた生徒たちは、さーっと四方に散っていった。
そんなセドリックに、エドワードが穏やかな声をかけた。
「殿下、よろしければ私たちと食堂へいらっしゃいませんか」
「教員用の食堂ですよね。今日は遠慮しておきます。友人たちと食事をする約束ですので」
「そうですか。では、次の機会に。妃殿下、昼休憩が過ぎてしまいます。そろそろ」
「は、はい。セドリック様、またのちほど……」
わたしが挨拶をすると、セドリックは片手を上げただけで、無言のまま去ってしまった。
もしかして、何か察してしまったのかしら……。
理事長室でのあれは単なる事故で、浮気をしたわけでもないのに後ろめたさが襲ってくる。
その時、明るいオレンジ色の髪の女子生徒がセドリックたちを追って、小走りで駆けていった。セドリックよりは年上に見えるが、華奢で可憐な雰囲気の少女だ。
少女はセドリックに話しかけると、その取りまきの集団の中にまざってしまい、姿が見えなくなった。黒い制服を来た少年たちの中に、溶けこむように入っていったオレンジ色の髪……。
どうということはない光景なのに、なぜかいやな予感がした。
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