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【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています  作者: 月夜野繭
婚約編

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11/24

晴れ時々ざまぁ



 セドリックがまた頻繁に我が家を訪れるようになり、わたしの毎日は充実感に満たされていた。


 前世の人生を合わせても、これまでにないくらいに浮かれているかもしれない。


 だって、セドリックが可愛いし、かっこいい。大好きなひとの背が伸びて、成長していく様子をそばで眺めていられるなんて、幸せしかない。


 つまるところ、わたしたちは砂糖菓子みたいに甘い婚約ライフを堪能していた。


 しばらくセドリックが忙しかったのは、ヒューバートにエマの本性を知らしめるために、いろいろ仕込んでいたかららしい。しかし、二人の仲は変わることなく、東屋の件は不発に終わったように見えた。


 ところが、火種はずっとくすぶっていたようだ。


「えっ、エマニュエル様に?」


「兄上が?」


 同時につぶやいて、わたしとセドリックはふと見つめあった。

 不穏な話題と関係なく、思わずお互いに微笑んでしまう。甘い瞳が愛らしくて素敵。


「やれやれ、別の場所でやってくれたまえ。胸焼けしてしまうよ」


 わたしたちに冷たい目を向けたのは、セドリックの上の兄、第一王子のハロルドだ。


 今朝はハロルドに招かれ、セドリックと二人、例の客間を訪れている。


「あー、話を戻すよ」


「あ、はい、申し訳ごさいません」


「彼女、エマニュエルが変わった女だとセドリックから聞いてね、軽く声をかけてみたのだ」


「兄上みずから、あの女に声をかけたのですか?」


 セドリックも真面目に聞きはじめる。


「うむ。先日ヒューバートから紹介されたのだが、その後、なぜかよく見かけるようになってね」


 ああ、もしかしたらエマはハロルドに会うため、彼の通りそうな場所に出没していたのかもしれない。

 逆ハールートは潰れたのに、ハロルド攻略をやめていなかったのかしら?


 ……まだ逆ハーもあきらめていない、とか。

 少し胸がざわつく。


「エマニュエルは一人でこの部屋まで付いてきて、逆に私を誘惑したのだよ。ふふ、私もまさかそんなことになるとは思わなかったので、さすがに驚いたが、なかなかおもしろかったよ」


 ハロルドは何かを思い出したように微笑んだ。


「セドリックには礼を言わねば。またおまえに借りができたね」


 ハロルドは満足げな猫のような顔をしている。

 セドリックは無邪気な弟の顔で、「いいえ、兄上のお役に立てたならうれしいです」と答えた。


 ……ん? 今、ハロルドが「セドリックに借りができた」って言わなかった?

 この件にも、セドリックが絡んでいたということ……?






「それにしても、ヒューバート殿下が……」


「うん、ここまで見す見す乗せられてしまうとは思いませんでした」


 計略に乗せた本人が、とぼけた風情でそう言った。


 次の予定は、王妃殿下からのご招待だ。

 わたしとセドリックは王妃殿下の応接室に向かいながら、小声で語らいながら歩いていた。


「衝撃だったでしょうね」


「自業自得ですけどね」


 ヒューバートに対するセドリックの評価は辛い。


 エマがハロルドを『誘惑』した日。

 ヒューバートはひそかにハロルドに呼び出され、その一部始終を陰から見せつけられたらしい。


 ハロルドの部屋の壁にはのぞき穴があり、隣の隠し部屋から丸見えなのだそうだ。




 ヒューバートはすべてを知ってしまった。

 自分の婚約者が、見た目どおりの一途な娘ではないということを。




 ああ、もしかして、これも一つの『ざまぁ』の形なのだろうか。ぼんやりと、前世で読んだ悪役令嬢の逆転劇を思い出す。


 ちょっとだけ、元婚約者が哀れになった。






 * * * * *






 王妃殿下の応接室に着くと、そこには話題にしていた当の二人がいた。


 豪奢なソファーに座る王妃殿下の前に、憔悴したヒューバートと、怒りに顔を真っ赤にしたエマが立っている。


 エマはわたしたちが入ってきたことに気づくと、わたしに向かって大きな声を上げた。


「なんでみんな、あんたを信じるの!? 悪役令嬢のくせに!」


「エマニュエル!」


 激したエマの腕をヒューバートがつかむ。


 ええ!? 何があったの?




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