カニバリズム
※相変わらず閲覧注意です。
「馬鹿な女、こんなクソみたいな場所で役にも立たない子供を産むなんて」
「どうせすぐ死ぬさ」
「どっちが先に死ぬか楽しみだな」
「子供の方が死ぬだろ。どうせ捨てるに決まってる」
美味しい、空いていたお腹が満たされる。だが、涙が止まらない……吐き戻してしまいたい。
『レア……私が死んだら……私を喰べなさい。私の可愛いレア……貴女は生き残るのよ……何があっても』
ゴミの掃き溜めのような場所で、死に向かう母は私に言った。私は母が言った通り、まともな食べ物の無い場所でも、誰もがしなかった禁忌を幼い私は犯す。
「……お母さん……うぅ……お母さん……」
「お前の母は禁忌を犯してでも、お前に生きて欲しかったみたいだな」
泣きじゃくりながら母の死体を貪り喰べる私に、ローブを脱いだ藍色の髪をした金色の瞳をもつ男が声をかけてきた。
「……生きなきゃ……生きなきゃ……」
私は男の言葉を無視し、一心不乱に母の内臓をぐちゃぐちゃと喰べる。そんな私に脱いだローブを被せ、無理矢理母の死体から引き離して暴れる力もない私はそのまま男に抱えられ、城へと連れられていった。
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「陛下!!何処へ行かれていたのです!!……その薄汚い子供は?」
「お前らの職務怠慢か能力不足だろう。今すぐ首を刎ねてもいいが、此奴が先だ。此奴は今日から俺の娘として育てる」
「陛下!?何を言っているのです!!今すぐに裏街外にでも捨てて……」
私を抱える男は私に被せていたローブを取り、剣を何かを喚いている男の首にあてた。ローブを取りさられた私の姿は痩せ細り、血塗れなボロ切れのワンピースに手と口が血塗れで、口の端からは母の内臓がへばり付いている。その光景を見た男と周囲の人間達は青ざめ息を呑み、両手を口に当てた。中には吐いている人もいる。
「その裏街外から拾ってきたのだ。此奴は俺に相応しい娘になるだろう」
「……全ては陛下の御心のままに」
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それから十年、私は十七歳まで生き残っている。私を拾った陛下と呼ばれている男はレオンといい、苗字は長かったので覚えていない。私には必要ないからだ。レオンは妃を何人迎えても、私を卑しいと罵倒したり、妃が子を宿すと知ると次々と殺してしまい、結局血の繋がらない私を一人娘として育てた。理由はどうでもいい。だがこの狂王と呼ばれるレオンと私は似ているのかもしれない。
嗤いながら戦争でも、身内ですら次々と簡単に人を殺すレオン。私はレオンに連れられ、戦争で気に入った人間を殺して体の一部を喰べ歩く、私。私達はどこか壊れ、狂っている。だから誰よりも強く惹かれあい、私は今もレオンの側で生き続けられるのだ。
「ねぇレオン。レオンが死んだら喰べても良い?」
「母親だけではなく、育ての父まで喰うのか?」
「うん。人間は命を食べているのに、人間の命は喰べちゃいけないの?」
「愚問だったな。俺が死ぬ様な事があったら好きなだけ俺を喰え、レア」
「きっと、レオンはきっとお母さんより美味しいだろなあ」
ケラケラと笑う私を昔のように片手で抱え、レオンの膝へと座らせられる。レオンは壊れ狂っている私の赤い髪を優しく梳く。まるで昔、母がしてくれていた様に。
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ゴクリと唾飲んで、まずは前菜からと私は今し方殺した瞳の綺麗な敵兵の目玉をくり抜きもぐもぐと味わいながら喰べている。
大丈夫、焦らなくていい。誰も横取りしないから。これは私だけの食事。もっと喰べて、もっと啜って、もっと 、もっと 、もっと、裂いて、刺して、切り刻んで、噛み砕いてグチャグチャにして生きる糧にするのだ。
「……異常者が。死人を喰らうなど、神への冒涜……もはや人間では無い」
グチャグチャと味わいながら喰べていると、レオンと同じ歳くらいのオジさんが顔を顰め大剣を私に向けてきた。
私は首を傾げ、味わっていた目玉を飲み込む。
「どうして?餓死寸前の私にお母さんは自分を喰べなさいって、喰べて生き残りなさいって言ってくれたのに……そんなお母さんも異常者?」
「それは……」
「オジさんの腕、美味しそうだね。喰べたいけど、私じゃオジさんに勝てそうにないから逃げるね?私はお母さんの言う通り、喰べて生き残らなきゃいけないの」
「せめて楽に殺してやる」
オジさんに暗器を使って抵抗するが、力の差は歴然だった。私はここで死ぬのかなと薄々感じ始めたとき、レオンがどこからともなく現れてオジさんと剣を合わせていた。
「俺の娘に手を出すとはいい度胸だな」
「娘というのなら何故止めない!!禁忌を犯し続ける事を何故止めないのだ!!」
「俺の娘はありのままを生きているだけだ」
「そんな生き方など狂ってる!!」
「人の生き方など他人が口を挟む方がおかしいのだ」
レオンとオジさんは熱烈な攻防を続けている。私はそれをただ眺めていた。どちらが死のうが、私のお腹は満たされるだろうと涎が垂れる。私はそれを拭う事もせず、興奮気味に早くどちらかが死なないかとワクワクしていたが、どうやらオジさんはレオンと渡り合える程強かったらしい。
だけど、レオンが劣勢になりレオンの首が跳ねられそうになった瞬間、私の体は勝手に動いていた。レオンの事は喰べたいはずなのに……喰べたくない。
オジさんの大剣を短剣で受け止め、レオンの首は守れたが、私の短剣は折れて私の体は斬りつけられ、吹っ飛ばされて死体の山にぶつかり、骨も何本か折れる。その一瞬の隙にレオンはオジさんの首を跳ねていた。そして涎を垂らしながら笑う私の元へ、レオンは何か怒ったようにゆっくりと近づいてくる。そしてレオンが多くの人を殺してきた大剣を私の首に向けた。
「何故俺を守った!!生き残りたかったのではないのか!!」
「……さあ?どうしてだろう……体が勝手に動いてた」
力無くクスクスと笑うと斬られた傷と折れた骨が痛む。血が流れ出すほど体温が下がっていく。でも、私は後悔なんてしていなかった。お母さんとの約束は守れそうにないけど、私はレオンに生きていて欲しかった。私は……レオンを喰べたくなんかなかった。死の間際で私はレオンに満足そうに微笑む。そんなレオンは大剣を背中に背負い、私を抱き上げ本陣へと馬に乗り引き返す。
「生きろ、死ぬな。お前には母親の約束があるんだろ……生きぬけ、生きる事を諦めるな」
「ねぇ……レオン。……私が貴方に愛を語ったら、貴方の心にはどう映る?」
あたしは知ってる。この温かい場所はいつでもレオンに守られてきた事。私はレオンの心臓に手を当て、頭をレオンにあずける。
あのレオンが何も言わずに涙を堪えてるのが堪らなく愛おしい。
私が死んだ後、残されたあなたが心配だ。貴方はいつも独りだったから。だから私はレオンに寄り添った、貴方が寂しく無いようにと。レオンもまた私と同じだって事。
この間違いだらけの世界の中でレオンには笑ってて欲しい。答えなんかない世界の中で貴方と笑っていたかった。
究極の愛はカニバリズムだって思ってたけど、違うみたい。
ねえ?聞こえてるレオン。拾われたあの日からずっと、ずっとレオンの事を父親だなんて思ったことないんだよ……ずっと、ずっと……
だれもしらない、くるったあいのものがたり
ありがとうございました!