9話 魔法修行
魔力を体に巡らせて、身体強化をして草原でゴブリンと対峙する。
クッカは見守っているだけで、手助けしてくれない。
ナナは魔素の結界に守ってもらっている。
ゴブリンの石斧がカナトの肩に突き刺さる。
革鎧に阻まれて怪我をすることはない。
昨日のカナトなら、この攻撃だけで骨折の傷を負っていたが、今は身体強化のおかげで傷もない。
カナトは剣を突いて、ゴブリンの体を貫き通す。
手にゴブリンの体の筋肉と骨を砕く感触が生々しく残る。
その間に他のゴブリンが石斧をとうてきする。
石斧は狙いどおり、カナトの額に当たるが、昨日のように頭に突き刺さることはない。
額に少し傷ができる程度だ。
カナトは素早くゴブリンの懐に飛び込んで、袈裟斬りにゴブリンの体を斬り裂く。
ゴブリンは青い血を吹き出して、その場に倒れこむ。
「オエ~……オエ~……」
戦いが終わって、カナトは体をくの字に曲げて、こみ上げてくる気持ち悪さを吐き出す。
クッカが手をパチパチと叩いて拍手をして、カナトに近寄る。
「ずいぶんとゴブリン相手なら戦えるようになったね。攻撃をもらいすぎているけど」
「仕方がないだろう……魔獣との戦いなんて、昨日が初めてなんだから」
「それに、戦い終わった後、吐く癖をなんとかしないとね」
「今まで動物も殺したことがなかったんだ……手に残る感触も、血も気持ちが悪い」
「それは慣れるしかないね。コーデリア大陸で生きていくためには、魔獣との戦いは避けられないから」
なんて野蛮な世界なんだ。
以前の日本の平和な暮らしが懐かしい。
ブラック企業に勤めていて、悲惨な人生だと思っていたが、命がけの戦いはなかった。
きれいな部屋、近代的な風景、美味しい外食、どれもが今では、良かったように思える。
「カナトは剣術が全くの素人だね……これから、おいらが剣術を教えてあげるよ」
「昨日、剣を持ったのが初めてだからな」
「剣全体に意識を集中して、本気で殺すつもりで、おいらに向かってくるといいよ。補正してあげる」
「怪我をしても知らないからな」
クッカは目を大きくして、驚いた顔をした後に、面白そうにニッコリと笑う。
ナナもおかしそうにお腹を抱えている。
「それは無理じゃ。クッカはホビット族の英雄神じゃぞ。カナトの敵う相手ではないわ」
そこまで言われると、カナトも多少は無理をしてでも、クッカに一太刀を浴びせたいと思う。
剣を握って、クッカへと向かっていく。
クッカは両手に短剣を持って構える。
袈裟斬りに斬りかかるが、クッカの短剣に上手く受け流される。
横なぎの一閃も、クッカは身軽にピョンと飛んで避けられてしまう。
「剣全体をもっと意識するんだよ。手の延長だと思って使わないと意味ないよ」
剣を振る度に、クッカからの注意が入る。
カナトはクッカからの注意事項を頭に入れて、真剣にクッカに挑む。
「剣先がブレているし、剣の振りが遅いよ。もっと早く、ズバッと振ってね」
クッカとの訓練は太陽が西に傾くまで続いた。
体力的には限界ではないが、相当に疲れる。
もう集中力が保てない。
とうとう、カナトはその場に座り込んでしまった。
それを見たクッカはニッコリと笑う。
「今日の訓練はここまでで終わりにしよう」
「そうしてくれると助かる。もう精神力がもたない」
「それじゃあ、カナトが休んでいる間に、魔獣を狩って、魔石を取ってきてあげるね」
そう言って、クッカは疾風のごとく駆け出して、草原の中へ姿を消した。
カナトがクタクタになって座っていると、その隣にナナも座って、カナトの背中にもたれてくる。
《カナト様、お疲れのご様子ですね。ここは私達、魔素が2人を結界で守りましょう》
「助かる。頼むわ」
1時間もしない間にクッカが風のごとく戻ってきた。
クッカの腰に帯びている革のホルダーから、魔石が100個以上取り出される。
中には少し多くて、色の濃い魔石も含まれている。
「これだけの魔獣を1時間も満たない間に倒したのか?」
「そうだよ。低級魔獣なんてこんなもんさ」
クッカは自慢気に胸を張る。笑顔が太陽のように眩しい。
クッカには陽気な笑顔が良く似合う。
「我は、少し疲れたのじゃ。村に戻って休むとせんか」
「ナナのいうこともわかるけど……まだカナトの魔法の練習が終わってないよ」
「そういえば、そうじゃった……カナトよ、早く魔法の練習を終わらせてしまえ」
「そうだな……初級魔法ぐらは覚えておいたほうがいいだろう……クッカ、教えてくれ」
クッカの説明では、人族は長い詠唱しないと魔法を発動することができない。
しかし、神は簡単な詠唱で魔法を簡単に使えるという。
神は個人個人が独特な詠唱方法を持っていて、決まった詠唱方法はないという。
魔法というのは体内の魔力を活性化させて体外へ放出することによって、外界へ影響を及ぼすことができる。
神の体内には無尽蔵の魔力があるので、魔法は使い放題なのだ。
「おいらの魔法の方法を教えるね」
「ああ……頼む」
『風よ。大いなる風よ。我の僕となって、敵を薙ぎ払え……風の刃』
クッカが前に出した両手から風が巻き起こり、風の刃が草原へと放出される。
風の刃が通った後の草原の草はきれいに同じ高さで刈り取られている。
風の刃……使用できるようになれば、強力な武器になりそうだ。
「イメージが大切なんだよ。風の刃をイメージして、斬り裂いて飛んでいくイメージをすることが必要なんだ」
なるほど、具体的なイメージをすれば、魔力はそれを具現化してくれるというわけか。
カナトも35歳だったが、ゲームで魔法を使ったことはある。
魔法のイメージを理解するのは容易い。
《やっと私達、魔素の出番です……カナトは体内の魔力を使用する必要はありません。私達、魔素へイメージを命令くださるだけで、私達はどんな魔法にでも変化いたしましょう》
魔素から申し出を受ける。
そういえば、カナトは魔素と話せるんだった。
これは便利なことを聞いた。
カナトは両手を前にして、魔素に言われたとおりに命令する。
『魔素に命令する。風の刃で前方を薙ぎ払え』
両手の平から風が発生し、特大の風の刃となって、草原の草を斬り飛ばしながら飛んでいく。
風の刃は視界から消えるまで、草原の草を斬り飛ばして飛んで行った。
その威力はクッカの放った魔法を軽く超えている。
それを見ていたクッカとナナも口を開けたまま、放心状態になっている。
少しやりすぎたかもしれない……しかし、カナトは軽く魔素に命じただけだ。
「すごいよ……初級魔法なのに、中級以上の威力があるなんて。カナトには魔法の才能があったんだね」
「いや……あれは俺の力じゃない。大気中にいる魔素が俺に力を貸してくれたんだ」
「カナトは大気中の魔素を自由に操れるのか……それは変わった権能だね……でもすごいよ」
「操っているわけじゃないんだけどな……魔素と話ができるだけだ」
「それでもすごいよ」
クッカはカナトの両手を握って飛び跳ねる。
ナナは満足な頷いて、手を叩いて拍手している。
《魔法をご使用の時はイメージして命じていただけるだけで成果をあげてみせます》
魔素からも自慢気な声が聞こえてくる。
まだ剣術は素人同然だが、魔法については少し自信を持っても良さそうだ。
今日の訓練は早めに切り上げることになって、夕暮れ前には村に戻ることができた。
冒険者ギルドへ寄って、魔石を硬貨に交換する。今日の成果は金貨5枚だった。
セリルもゴブリンとガルムの群れだけで魔石を100個以上持ち込まれるとは予想外だったのだろう。
カナト達の成果を聞いて、小さく拍手をしている。
冒険者達からはゴブリン達ばかり狩っても腕は上がらないと野次が飛んだが、カナトは無視した。
クッカとは冒険者ギルドの前で別れる。
明日からもカナトの訓練に付き合ってくれるそうだ。
「昨日よりは、少しは自信のついた顔付きになっておるな。良いことじゃ」
「ああ……今日は死にかけなかったからな……それに魔法を少し使えるようになった」
「そうじゃな……あれは大成果じゃ。カナトの良い武器となろう」
カナトとナナは上機嫌で『水熊の宿』へと大通を歩いて行く。
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