表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/43

8話 魔力と身体強化

 窓から差し込む朝日で目が覚める。

ナナはカナトにしがみついたまま、気持ちよさそうに寝息を立てている。

とても安心した寝顔が愛らしい。


 同じ姿勢をのまま寝ていたので、体が少し痛い。

朝に神殿で、クッカと会うことになっている。

そろそろ出かける準備をしたほうがいいだろう。



「ナナ……起きろ。クッカとの約束の時間に遅れるぞ」


「んー……もう朝なのかえ? 我はもう少し眠っていたい」


「そんなワガママを言わずに起きるんだ。出かける準備も必要だろう」



 ナナは目をこすりながら、上半身を起こしてカナトを見る。

すくっと立ち上がって、ナナは自分の服をカナトに見せる。



「我はこの服装しか持っていないのじゃ。だから、もう準備はできておる」



 そういえば、カナトも服を1着しか持っていない。体は湯浴みできれいにしたが、服の汚れは取れていない。



「今、気づいたんだが、替えの服を用意していなかったな……村の服屋で着替えを用意するか」


「その必要はないのじゃ」



 ナナは口の中で何かの呪文を唱えると、ナナの服の汚れが取れて、良い香りを放ち始める。

そして、カナトの服も、まるで洗い立てのように汚れが落とされていく。



「神界では湯浴みは使わぬ。大浴場はあるが、皆の遊び場所じゃ。普通は魔法で体も衣装もきれいにしておる」



 それでは、昨日の湯浴みは必要なかったのでは……という言葉をカナトはのみ込む。

 カナトは何も聞かなかったフリをして、武具をつけて出かける準備を整える。

革鎧にも魔獣の血と、カナトの血がこびりついている。



「ナナ……頼みがあるんだが、武具と防具もきれいにしてほしい」


「簡単なことなのじゃ」



 ナナが口の中で詠唱すると、たちまちのうちに武具も防具も新品のようにきれいになった。



「生活魔法というのは便利だな」


「そのうち、カナトも使えるようになる。クッカに魔力と魔法の使い方を聞けば、すぐに覚えるじゃろう」



 それは助かる。

服や体をきれいにする度に、ナナに頼む必要がなくなる。

服をきれいにしてもらう度にナナに頼むのも面倒だし、申し訳ない。


 ナナと2人で1階へ降りて、軽く朝食を食べてから、宿を出て大通りを歩いていく。

ナナは嬉しそうに村の街並みを見ながら、カナトと手をつないで歩いている。

神殿に着くと、すでにクッカが笑顔で待っていてくれた。



「いつも朝寝坊のナナが早起きするなんて珍しいね」


「失礼なことを言うでない。私はいつも早起きじゃ」



 ナナの寝起き姿を知っているだけに、ナナが早起きが苦手なことがわかる。

クッカは革鎧に、クロスの短剣ホルダーをつけ、短剣を数本、体につけている。

そして腰にも短剣を多く備えている。これがクッカの戦闘のスタイルなのだろう。



「さあー草原へ行こう。おいらがみっちりと教えるから、安心してね」



 3人で村の出入り口を通って、草原へ向かう。

歩いて30分ほどすると、周囲の草原がガサガサと音が鳴り、魔獣の気配がする。

この気配はゴブリンだろう。



「まずはおいらがお手本を見せるから」



 草原から現れたのは5匹のゴブリンだ。

それを見て、ニッカは嬉しそうに笑って、両手に短剣を構えると、同時に2本の短剣をとうてきする。

2本の短剣は見事にゴブリンの額に刺さって、絶命させる。

早業すぎて、短剣を目で追うことができなかった。



「このままだと面白くないね」



 そういうとクッカは素早く動いて、ゴブリン3匹の周囲を駆け始める。

すると、クッカの残像が3人に見えてくる。

まるで分身の術のようだ。

そして、3人のクッカが素早くゴブリンの懐に飛び込み、一瞬のうちに首を半分断ち切る。

首から血を吹き出して、3体のゴブリンが同時に倒れる。



「ゴブリン相手だと運動にもならなかったけど……・面白かった」



 クッカは短剣をホルダーに戻して、いつの間にかカナトの隣で笑っている。

行動が素早すぎて、目が追い付かない。

クッカにとっては遊びのような感覚なのだろう。


 5匹のゴブリンを倒すのに5分もかかっていない。

もしカナトが5匹のゴブリンと戦えば、確実にカナトは傷を負わされていたことだろう。

クッカとカナトの戦闘能力の差を、まざまざと感じる。



「クッカがいれば俺は戦う必要はないんじゃないか?」


「それはダメだよ。ズルはいけないんだから。きっちりとカナトも戦えるようにならないと」



 クッカは笑顔でカナトの手を握るが、目が笑っていない。

握られている手に力が入れられる。

軽く握っているだけなのに、カナトの手が潰れるぐらいに力が強い。

クッカには逆らわないほうが良さそうだ。



「今のは体全身に魔力を流して、身体強化をして、早さを補正しているんだ。まずはカナトも魔力を使えるようにならないといけないね」


「俺でも魔力を使えるのか?」


「カナトは半神だから、、簡単にできるはずだよ」


「まずは体に流れている魔力を感じる所から始めよう。カナト座ろうよ」



 草原の真ん中であぐらをかいてカナトが座る。その背中にクッカが小さな両手の平を当てる。



「今からおいらが魔力を流しこむから、カナトは体の中に流れている魔力が感じてね」



 クッカの両手から温かい波動のようなものが、カナトの体に流れてくる。

その波動は血管を流れるように、カナトの体中を流れる。

魔力は体の中を血液のように流れていることがカナトにも理解できる。

へその下の下腹部に魔力のタンクのようなものがあり、そこから魔力が全身に駆け巡っている。



「なるほど……確かに魔力の流れを感じる」


「今度はカナトが自分の力で魔力を全身に流してみよう」



 そう言って、クッカは背中に当てていた両手を離す。

カナトは目をつむり、下腹部に意識を集中させて、魔力を全身へとゆっくりと流していく。

下腹部の魔力のタンクから徐々に魔力が全身へと流れていく。

体温が少しあがったような気がする。



「良い感じ……カナトは半神だから魔力は無尽蔵にある。だから魔力が流れやすいね」


「魔力を常に体に流しておくと、クッカのように身体強化ができるのじゃ」



 ナナの満足気な声が聞こえてくる。

これが魔力か。

今までにない体内の感覚にカナトは感動する。

以前の世界では感じることのできなかった感覚だ。



「今から常に魔力を全身に流したままで、魔獣狩りを続けよう」



 静かに目を開けて、カナトは立ち上がった。

全身が軽い。体がとても軽い。

これなら少しは戦えるかもしれない。

少しだけ自分が強くなったように感じる。

カナトは密かに拳を握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ