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7話 水熊の宿

 1階へ降りていくと、夕食を食べている客が数名いる。

皆、樽酒を飲んで楽しそうに酔っている。

カナトも酒は好きなほうだ。早く酒が飲みたくなった。

とにかく冷たい酒で喉を潤したい。



「カナトさーん、ナナさーん、お二人の席はこちらでーす」



 2人を見つけたルーナは元気よく、席へと案内してくれる。



「今日はお母さんの愛情がこもった、あったかいシチューですから。とっても美味しいですよ」


「それは美味しそうだ。それと俺には皆が飲んでる樽酒を頼むよ」


「はーい。エール酒1つですね。別注文になりますから後で銅貨3枚でーす」



 2人が席に着くと、ルーナは急いでエール酒の樽を持ってきてくれた。

木の樽なので、エールが冷えているかどうかわからない。

カナトは樽を持って、一気にエールを喉に流し込む。



「うーん。ぬるい。味はビールに似て美味いが、ぬるすぎる」


「カナト、我もそれを飲みたいのじゃ」


「ぬるいから、あまり美味くないぞ」



 そう言いながら、カナトはナナにエール酒の樽を渡す。



「冷えているほうが美味しいのか?」


「ああ……そうだ」



 ナナは樽を持って、じっとエールを見つめながら、口の中でモゴモゴと何かを唱える。

そして、樽に小さな口をつけて、グイっと一気に飲む。

飲んだ後、花が咲いたように嬉しそうにカナトに微笑む。



「美味しい。これは良い飲み物じゃ。気に入った。カナトも飲め」



 ぬるいエールなだけに、そんなに美味いはずはないのだけど。

頭の中で考えながら樽を受け取って、カナトもグイっと飲む。

すると、先ほどとは違い、エールがキンキンに冷えている。これは美味い。



「美味いな。ナナ……これはお前がしたのか?」


「私も生活魔法と初級魔法ぐらいは使えるのじゃ」



 ナナは全く魔法が使えないと思っていたが勘違いだったらしい。

よく考えると、魔法が使えたなら、草原のゴブリンぐらいは倒せたのではないか。



「なぜ、草原でゴブリンに襲われている時に魔法を使わなかったんだ? 魔法を使えば倒せただろう」


「それではカナトの修行にならんからな。我は見守っておったのじゃ」


「そのおかげで何回も死ぬ目にあったんだぞ」


「『ヒール』で治してやったのだから文句はないだろう。これも修行じゃ」



 明日は魔素に言って、ナナの結界を外してやろうか。

一瞬だが、カナトの心の中に黒いモヤモヤが沸く。

しかし、嬉しそうにカナトから奪い取ったエール酒を飲んでいるナナの姿を見て、その考えを捨てた。

とても可愛い美少女を魔獣の前で無防備にはできない。


 シチューは濃厚な味で、肉はとても柔らかいが癖のある味だった。

パンは茶色をしていて、とても固く、シチューに浸して、柔らかくして食べる。



「お母さんの料理、とても美味しいでしょう。今日はオークの肉を使っていまーす」



 その言葉を聞いてカナトは口からシチューを噴き出しそうになった。

オークといえばファンタジー世界で有名な豚の魔獣だ。

それぐらいの知識はカナトでも知っている。

この世界では魔獣も食べるのかと、改めて実感する。


 夕食を食べ終わったカナトとナナは3階の自室へ戻る。

部屋には桶いっぱいに満たされたお湯と、人が入れそうなタライとタオルが置いてあった。

これが湯浴みの用意らしい。

さっそく服を脱いで、タライの中に座って、タオルをお湯に浸して、体を拭いていく。

汗でベタついて気持ち悪かった体も、湯浴みによって段々と汚れが落ちていくのが気持ちいい。


 湯浴みが終わって、服を着てベッドに寝転んでいると、ルーネがやってきて、湯浴みの

道具を運び出す。

次はナナが湯浴みをする番のようだ。


 これから異世界であるカルデナ世界でやっていけるのだろうかと悩む。

肉体年齢は15歳であっても、精神年齢は35歳のままだ。

10代のようにファンタジーの異世界へ転移できたと素直に喜ぶことができない。

先々を考えると不安要素しか出てこない。

これからどうして行けばよいのか迷う。


 部屋の扉が番と開き、全裸のナナが部屋の中へ入ってきた。

ナナは着やせするタイプらしく、形の良い胸の膨らみやお尻まで、何も隠していない。

そのスタイルの良さと、ナナの美しさに一瞬だけ心を奪われる。

理性を取り戻して目を逸らす。



「ちょっと、待った! ナナ、全裸だ! 全裸で人の部屋に入って来るな!」


「カナト……我は湯浴みの方法がわからん。助けてほしいのじゃ」


「男の俺では無理だ。お湯をタオルに浸して、体を拭くだけだ。それぐらい自分でできるだろう」



 焦っているカナトの心などナナには理解できない。

全裸のまま近づいてきて、ナナはカナトの手を握る。

慌てて、目をつむって、ナナの裸を見ないようにするだけで精いっぱいだ。



「部屋で1人でいるのは嫌なのじゃ」


「わかった。助けを呼んでくるから……しばらく部屋で待っていろ」



 ナナは頷くと自分の部屋へと戻っていった。

カナトは急いで1階まで階段を降りていき、ルーナを見つける。

ナナが湯浴みの方法を知らないことを伝え、湯浴みを手伝ってほしいと頼み込む。

ルーナは気軽に引き受けてくれて、ルーナの部屋へ向かう。


 自分の部屋へ戻ってきたカナトはベッドに倒れこんだ。

まだナナの全裸姿が目に焼き付いて離れない。

神々しいまでの美しさと愛らしさだった。

自分は何を考えているんだと、枕を抱いて悶え苦しむ。



「俺の実年齢は35歳だぞ。15歳の少女に見惚れているなんて危ないだろう」



 そう声に出して自分の心をいさめる。

しかし、まだ心臓はドキドキと大きな鼓動を打ったままだ。

ナナは創造神なので、人間の道徳を知らなくても仕方がない。

神界でナナがどんな暮らしをしてきたのかカナトも知らないので、何とも言えないけど。


 衣服に着替えたナナが枕を持って入ってきた。

顔が少し赤く染まっている。



「ルーナに怒られたのじゃ。男性に裸を見せてはいけないと言われたのじゃ。すまぬことをした」


「別に何も考えていないし、さっきのことは忘れた。何も覚えていない。だからナナも気にするな」


「それはありがたい。カナトよ、一緒のベッドで寝ても良いか? 神界にいる時はいつもフォルナと一緒に寝ていたのじゃ。1人は嫌なのじゃ」



 そうか……神界では幸運の女神フォルナが創造神のナナの世話をしていたのか。

創造神は最高神だから、甘やかされて生活してきたのだろう。



 ナナは何も言わずにカナトのベッドの中へ入ってくる。

服をつかんで、しがみついた状態で目をつむる。

その愛らしい姿を見て、カナトは抵抗することを諦めた。

とてもベッドから出ていけなどとナナに言えない。



「今日は長い夜になりそうだ……」



 カナトは緊張が取れず、ゆくっりと休むこともできない。

ベッドに横たわったまま目をつむった。

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