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41話 聖女の逃亡

 『トロールの胃袋亭』に帰って、自室に戻って、武具と防具を取り外して、ベッドに横たわる。

今日はベルナンドに勝つことができなかった。

ボーンドラゴンも自分だけの力で倒すことができかなかった。

そのことが心にひっかかる。

自分にはまだまだ力が足りないと再認識させられた1日だった。


 疲れているので、すぐに微睡の中へと入っていく。

部屋が開く音が鳴り、ベッドに潜り込んでくる気配がする。

ナナが1人で寝られないと、またカナトのベッドに潜り込んできたのだろう。

いつものように服にしがみついているナナの髪を優しく梳く。


 ナナの寝息が胸の近くで規則正しく聞こえる。

カナトはナナが近くにいることを感じて、自分も睡魔の負けて眠りの中へ落ちていく。







「ナナ様、カナト様、起きてくださいませ。もうすぐカールストン伯爵の私兵がこの宿にやって参ります」


「んん……まだ眠いのじゃ」


「俺もまだ眠いんだけどな」


「そんなことを言っている場合ではございません」



 ヘルガとアーネが慌てたようにカナトとナナを起こす。

何が起こっているのか、カナト達にはわからない。

外では何が起こっているのだろうか。



「外壁の上でナナ様が『神威』を解放しました。そのことは街の者達にも私兵や冒険者の記憶から消えています。しかし、聖女からのお告げがあり、勝利したと民衆が騒いでおります」


「そこでカールストン伯爵が動いて、聖女を迎えに行くことになったというわけです。もうすぐ私兵がこの宿を取り囲むことになるでしょう。そうなれば逃げ出すことは困難になります。その前に逃げなければなりません。逃げる準備は整えております」



 すでにアーネとヘルガが街を出る手配をしてくれているという。


 確かに神々の戦いのことは民衆、私兵、冒険者の記憶の中からは消し去った。

しかし、ナナが聖女として神々の信託を告げたことについては記憶に残っている。

神々の信託を告げられる聖女は、王国からしても貴重な価値となる。

このままカールストン伯爵につかまれば、今までのような気ままな旅はできない。


 すぐにカナトは外出する準備を進める。

ナナも隣の部屋へ行って荷物を片付けている。

準備を終えたナナとカナトは1階へ向かう。

1階にはマルタが何事かと驚いた顔をしている。



「マルタすまない。もうすぐここにカールストン伯爵の私兵がやってくる。その前に宿を発つ。できれば、俺とナナのことは全く知らない客と説明してほしい。頼む」


「意味はよくわからないけど、お客の個人情報を言わないのは宿屋のルールさ。カナト達がそう望むのなら、私兵達には上手く言って、何も知らないと言っておくわ」


「ありがとう」



 マルタと別れて宿屋の玄関を開けると、『トロールの胃袋亭』の前には大きな馬車が止まっていた。



「これは私共が乗ってきた馬車です。私はローグライク王国の貴族の娘を演じておりますので、この街まで馬車で王都から走ってきたのです。さあ、お早く、お乗りください」



 ヘルガとアーネが先に馬車に入り、その後からカナトとナナが馬車に乗り込む。



「街を出る前に神殿へ頼む」


「わかりました」



 ヘルガが街の北側にある神殿へ向かうよう御者に指示を出す。

馬車は揺れながら神殿へ向かう。


 神殿には剣神ジブリルが悠然と立っていた。

馬車から降りて、カナトとナナはジブリルの元へ向かう。

その後ろをフードを目深に被ったヘルガとアーネが続く。



「魔族の匂いが街にしているので、眺めていたのさ。ナナ、カナト、急いでいるようだがどうした?」


「ああ……ナナが聖女としてカールストン伯爵に捕まりそうなんだ。そうなれば気ままな旅もできなくなる。だから、この街を離れることになった」


「後ろに控えている女2人から魔族の匂いがする。お前達は魔族か。ナナとカナトを騙そうというのか」


「そのようなことはございません。私達は魔族ですが、魔神マモンを裏切った者です。私達は魔族ですが人族の中で密かに暮らしていきたいと考えています。無粋な争いは望みません」



 ジブリルは鼻をフンと鳴らす。



「それを私に信じろというのか。魔族は信じられない。騙し、裏切りは魔族の本性だからな」


「剣神の言われる通りです。魔族はそういう生き物です。ですが魔族の中でも人族に好意を持つ魔族がいても不思議はないでしょう。創造神を崇める魔族がいてもいいじゃないですか」


「なぜ、お前達、魔族が創造神を崇めるのだ。冥界へ封印したのは創造神を中心とした神々だぞ」


「我々は封印を逃れ、人族の中で情報収集をしていた一族であり、人族との関わりも深く、魔族の支配など、絶対に嫌なのです。今の世界が好きなのです。どうか信じてくださいませ」



 ヘルガは必至でジブリルに訴える。

アーネも必死に平伏している。

ジブリルはジッとそんなヘルガの様子を観察する。



「わかった。今回は信じよう。しかし、ナナとカナトに異変が起これば、どこに隠れていようと私がお前達を倒す。そのことだけは忘れるな」


「信じていただき、ありがとうございます。剣神の御心に叶う働きをしてみせます」



 ヘルガは深々を剣神ジブリルに平伏した。



「そういう訳だから、俺達はカールストンの街を去る。今日までありがとう。毎日の修練を忘れないようにするよ」


「ジブリル……カナトが世話になったのじゃ。何かあれば神気のネットワークで、お主にもすぐに伝わるであろう。そのように心配せずともよい。我にはカナトがついておる」


「カナトよ。必ずナナ様を守るのだぞ」


「ああ……ジブリルの代わりに俺が守るさ」



 ジブリルとカナトは握手をして別れた。

4人で馬車に乗ってカールストンの街の大門へ向かう。

神殿ではジブリルがいつまでも、去っていく馬車を見送っていた。

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