37話 開戦
カールストンの街の西側を覆う土雲。
草原の中を大量の魔獣達が集団でスタンピードを起こしている。
オーク、オーガ、トロール、キラーアントなどの中級魔獣を中心とした地上の魔獣達。
グリフォン、ワイバーンを中心とした空中の魔者達。
狂ったような勢いでカールストンの街を目指して歩んでくる。
既にカールストン伯爵の私兵達は城壁の上に待機して、魔獣達を待ち受ける。
冒険者達も西側の大門近くに集合して、街の中に入られないように魔獣達を待ち構える。
剣神ジブリル、鍛冶神ギオルギ、森の守護神ターヤン、ホビットの英雄クッカも冒険者になりすまして、その中に紛れ込む。
クッカの隣に立って、ナナとカナトも戦闘準備に入る。
クッカがターヤンに嬉しそうにニッコリと微笑む。
魔獣のスタンピードが迫っているというのに、そんなことを微塵も感じさせない笑顔だ。
クッカの短剣のホルダーには鍛冶神ギオルギから贈られたアダマンタイトの短剣が赤く光輝いている。
「ターヤン、初めて一緒に地上で戦うね……まるでお祭り騒ぎで……おいら、とても楽しくなってきた」
「ターヤンもクッカと一緒に戦えて嬉しい。スタンピードは許せない。森の掟を破った。ターヤンが倒す」
ターヤンの筋肉は見る間に膨張して、来ていた衣類を破ってしまった。
そして足と手の爪が鋭利な刃物のように伸びる。
剣神ジブリルは黄金色に光る聖剣を抜いて、不敵に笑う。
鍛冶神ギオルギの自分の体格よりも大きい大戦斧を持って、片手に持っている酒を口につけて一気にあおる。
「この剣神ジブリルが守る街をスタンピードごときで倒せると思っているのか。私も侮られたものだ」
「あんなにも魔獣がおる。腕がなるわい。わしの大戦斧の餌食にしてくれよう」
カナトは両手剣を背中から抜いて、ナナの肩に優しく手を置く。
ナナは悲しい目で魔獣達のスタンピードを見守っている。
「何もナナは心配しなくていい。クッカやジブリル達もいる。街は守り通してみせる」
「哀れな魔獣達よ。操られていることもわからずに猛り狂っておる。我は空への防備に参加したい。カナトよ我を城壁の上にあげよ」
魔獣との戦いでは地上は乱戦となるだろう。
地上よりも城壁の上のほうがナナには安全かもしれない。
ナナの周りには魔素が『六四方障壁』を展開してくれているので、攻撃を受けても大丈夫だ。
しかし乱戦の中に置いておくよりも、私兵達に囲まれている城壁のほうがいいだろう。
カナトは全身に魔力を駆け巡らせ身体強化して、膝に力を入れる。
ナナを抱いて、一気に空中へジャンプして、城壁の頂上に着地する。
私兵達が何事かと剣を抜いて、身構える。
「俺は冒険者だ。これから私兵の援護として、回復魔法師を1人置いていく。存分に戦ってくれ」
「それはありがたい。空への攻撃には弓矢とバリスタしかなかったのだ。魔法師も配置ていているが、あれだけのグリフォンとワイバーンを相手にできるかわからない。回復魔法師は助かる」
私兵の1人はそういってナナの合流を喜んでいる。
私兵達はナナのことを冒険者の回復魔法師と聞いて、何の疑いもなく受け入れて歓迎してくれた。
「カナトも地上はジブリル達に任せて、空の魔獣達を迎撃してほしいのじゃ。カナトならできるであろう」
「魔素よ。俺は空を飛ぶことができるか?」
《はい。私達、魔素がカナト様を空へ飛翔させます。飛翔と唱えていただいくだけで大丈夫です。私達に任せてください。鳥のように自由自在にカナト様を飛翔させてみせましょう》
魔素から飛翔できると聞いた、カナトはナナに優しく微笑みかける。
空の魔獣達は地上の魔獣達よりも先行してカールストンの街へと進行してきている。
カナトは両手剣を持って、空を魔獣達を睨んで、戦いの時を待つ。
「おいら、もう我慢できない。ジブリル、ギオルギ、後のことは頼んだよ。ターヤン、おいら達は先に行って魔獣達を驚かせてやろう。そのほうが楽しいじゃん」
「ターヤン、クッカに付いていく。クッカはターヤンの友達」
我慢できなくなった、クッカとターヤンの2人が冒険者の集団を離れて、2人で魔獣達の元へと走りだした。
それが集団スタンピードの魔獣達との開戦の火ぶたとなる。
クッカは短剣を両手に持って疾風のごとく魔獣達の中へ突っ込んでいき、魔獣達の間を抜けていく。
するとクッカの通った後には魔獣達が血を噴いて倒れていく。
ターヤンも負けていない。クッカの疾風のような速さについていき、ターヤンは手足の鋭い爪で魔獣達を斬り裂いていく。
「俺達も進め―――」
冒険者達が咆哮をあげて魔獣達に突進していく。それと同時に剣神ジブリルと鍛冶神ギオルギも行動を共にする。
その光景を見たカナトは飛翔の魔法を使って、大空へと舞い上がり、グリフォンの群れへと突っ込んでいく。
カナトとグリフォン達との激しい空中戦が始まった。




