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35話 使者の正体

 黒髪のミディアムヘアーの女性は瞳が真紅に輝いている魔族の証拠だ。

カナト達の前で変装をするつもりはなさそうだ。

涼やかな目元、きれいな鼻筋、薄い唇、どこから見ても真紅の瞳以外は美女である。

女性はカナトとナナに深々と礼をする。



「私は吸血鬼のヘルガと申します。吸血鬼の始祖に連なる者です。今まで悠久の時を人族の貴族として暮らしてきました。ローグライク王国の貴族の娘になっています」



 もう1人の女性は紫色のロングヘアーを軽くカールした髪をしている。

頭からはヤギの角のようなものが2本生えている。

くりくりとした優し気な瞳、すこし低い鼻、ぽってりとした唇が色っぽい。

やはり瞳は真紅に染まっている。



「私はサキュバスのアーネと言います。常にヘルガ様と行動を共にしてきました。今はメイドとしてヘルガ様に仕えています」


「その2人が辺境まで我に会いにきたというわけか……我に何の用じゃ?」


「魔神マモン様は神界にいた神達を恨んでいます。自分だけ冥界に閉じ込められたのですから。神界の神威がなくなったので創造神様や他の神々に復讐しようとしています」


「そうかもしれぬな」



 魔神マモンは神の中でも、最強に近い力を持っていた。

そして、神の中では欲望が一番大きく、他の神々と相いれなかった。

神界にいた神々は、魔神マモンを冥界へ閉じ込め、神界の神威で冥界を封印した。

魔神マモンが復活すれば、創造神のナナが狙われるのも頷ける。



「創造神様が狙われています……もうすぐ、この街に魔獣のスタンピードが襲ってきます。お早くお逃げください」


「なぜ、お主達は魔神マモン、魔族を裏切って、我を助けようとしてくれるのじゃ?」


「私達は長年、人族の中で隠れて暮らしてきました。私達は人族の中で暮らすことが好きなのです。魔神マモン様に申し訳ないですが、私達は自分達の暮らしを変えたくありません。創造神様に勝っていただきたいのです」


「神界が崩壊した今、我に忠誠を誓ってくれる仲間は少ない……以前のように神威で魔神マモンを封印するには多くの神々の協力が必要じゃ……我も動いておるが、まだ足りぬのじゃ」



 なるほど……村や街へ行く度に神々と仲間になっていた、ナナ行動の意味が何となく伝わってきた。

ナナは魔神マモンが復活することを知っていたのだろう。

そして、他の神々に仲間になってもらおうとしていたに違いない。

ナナは少し寂し気な顔で、顔をうつむかせる。



「我はこの街から逃げぬ……この街の人々を見殺しにはできぬ……スタンピードの原因が我だというなら、よけいに逃げられぬ」


「ナナが逃げないとすれば、俺も戦うしかないな……どれだけ頑張れるかわからないが協力する……俺はナナの守護神だからな」



 カナトはナナの肩の上に優しく手を乗せて、微笑む。

カナトに魔獣達を退けられるという自信はない。

それでも、カールストンの街を見殺しにするわけにはいかない。

顔をあげて、カナトの顔を見たナナは嬉しそうに微笑する。



「そうじゃな……この街には剣神ジブリルと鍛冶神グオルギもいる。それにカナトもいる。人々の力も借りることができれば街を守れるかもしれん……最後まで望みはあるのう」



 ヘルガとアーネの2人が片膝をついて、首を垂れる。

2人はナナに対して忠誠の近いのポーズを取る。



「私はローグライク王国の高位の貴族の娘をしております。私とアーネでカールストの街の領主を説得いたしましょう。どうかお任せください」


「それは良い考えじゃ。是非にそうしてほしい……それとじゃ、リグル村に至急で行ってもらいたい……リグル村の英雄神クッカにカールストンの街まできてもらうのじゃ。至急で頼むのじゃ」


「私とアーネは転移の魔法を使えます。リグル村へも行ってまいりましょう。私達には戦う力はございません。下働きは私とアーネにお任せください」



 転移の魔法が使えるとは便利だなとカナトは思った。

近日中にヘルガとアーネの2人から転移の魔法について教えてもらおうと考える。



《転移の魔法であれば、我々、魔素がお教えします》



 そういえば魔素に魔法を教えてもらうこともできた。

魔素に教えてもらえれば、近日中に転移の魔法も使えるようになるだろう。

転移の魔法があれば、後々に役に立ちそうだ。



「それでは私達2人は任務を遂行いたします。ナナ様、くれぐれも身辺にはお気をつけくださいませ」


「うむ……ありがとうなのじゃ。すぐに頼んだのじゃ」



 ヘルガとアーネは黒い外套のフードを目深に被って、部屋から出ていった。

どうやってカールストンの街の領主を動かすのかはわからないが、2人に任せることにした。

2人が本当にナナの味方をしてくれるというなら、必ずなんとかしてくれるだろう。



「カナト……神殿は向かうのじゃ。剣神ジブリルと相談せねばならぬ。剣神ジブリルは神界でも強者じゃ」



 剣神と言われているのだから、剣術についてジブリルは神界一だろう。

戦いの時に頼りになる神だ。

ナナと2人で部屋を出て、神殿へ向かう。

神殿の中へ入ると、剣神ジブリルが、ナナ達を迎えるように立っていた。



「魔族の匂いがしたので、監視をしていたのだが……カナトよ、何かあったのか?」


「魔神マモンが復活したらしい……もうすぐ、この街は魔獣のスタンピードに襲われる」


「魔神マモンか……あれは強い。俺の聖剣を折ったほどの力がある。マモンか……必ず俺が決着をつけてやる」



 イケメンの剣神はそういうと顔を険しくする。

剣神ジブリルと魔神マモンとは浅からぬ因縁があるようだ。



「私はこの街の守護神だ……この街を守るのは私だ……魔獣のスタンピードなど蹴散らしてあげましょう」



 剣神ジブリルが怒りに震えていることが、カナトとナナにも伝わってくる。

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