30話 魔法の威力
《カナト様も私達、魔素に命じてくだされば、上級魔法も最上級魔法も使えるのですよ。カナト様……時々、私達の存在を忘れてますよね……お願いしますから忘れないでください》
魔素の言っていることは正しい。カナトは剣術が強くなってきてから、剣で戦っている時は、剣での戦いに集中しすぎて、魔素の存在を忘れてしまう癖があった。
「これからの魔獣は剣よりも魔法のほうが重要になるかもしれないな。魔素よ、上級魔法にはどんな魔法があるんだ?」
《まずは攻撃系では上級で『爆発』『破裂』『爆裂』『氷結』、最上級で『分解』『太陽フレア』『絶対零度』『ヒート線』などですね。防御系では上級が『二重障壁』、『六四方障壁』、最上級が『絶対障壁』です》
「それなら今度からナナとミディには『二重障壁』をかけておいてくれ」
《わかりました》
久しぶり魔素と長く話したと思う。これからはもっと話しかけてやろう。寂しがっていたようだからな。
3匹のミノタウロスが天然の斧を持って現れた。3匹ともカナトに向かって襲いかかってくる。
ミノタウロスは牛の顔と角を持つ魔獣で、筋肉と筋は引き締まっていて、オーガより頑強だ。
『魔素よ。二重障壁を展開』
さすがのカナトも3匹同時のミノタウロスの攻撃を無傷で躱せる技量はない。すぐさま二重障壁でミノタウロスの攻撃をはじき返す。
ミノタウロスは斧で障壁を破ろうとし、角で障壁を突き破ろうとする。通常の障壁では危なかったかもしれない。
3匹のミノタウロスの攻撃には隙がなく、なかなか攻撃に移ることができない。
防戦一方だ。
『魔素よ。フレアを放て』
カナトはたまらず、左手を前にして『フレア』を放つ。すると2匹のミノタウロスが『フレア』に巻き込まれて消し炭となった。
残るミノタウロス1匹を剣で断裂する。
「確かに『フレア』の魔法は強力だが、全てを消滅させてしまうのはダメだな。死体も魔石も残らない。せめて魔石だけでも手にいれたいな」
「何を言ってるのですか? ミノタウロス3匹からの攻撃ですよ。普通ならB級冒険者達もパーティを組みます。カナト1人でミノタウロス3匹を倒したのですよ……それも上級魔法を使って、信じられない光景です」
ミディは興奮して耳をピンと立てて、褒めているのか、怒っているのかわからない。
通常なら、あり得ない情景を見て、ミディも混乱しているようだ。
「ナナは上級魔法まで使える回復師、カナトは上級魔法まで使える魔法剣士……こんな最強な組み合わせを今までに見たことはありません。最高の冒険者パーティじゃないですか」
本当にホビットの英雄神クッカや魔巣の森の守り神のターヤン、それに剣神ジブリルのほうがもっと強いのだけど、そのことは言わないでおこう。神のことは人には秘密にしていいることだから。
通路の奥から沢山の咆哮が聞こえてきた。オーガとミノタウロスの集団がカナト達を発見して、駆け走ってくる。
オーガもミノタウロスも目の色が真紅に燃え上がっている。
「これは危険です。モンスターパレードです。異常事態です。これだけの集団では勝てません。早く上の階層へ逃げましょう」
ミディは逃げようとするが、その手をナナがつなぎ止める。
カナトは剣を鞘に入れて、両手を前に出して、魔法を詠唱する。
『魔素よ。全敵に向かって太陽フレアを放て』
カナトの両手から、太陽フレアの熱線爆発が前方へ放たれる。
すると集団でいたオーガとミノタウロス達の姿はなく、その場に黒い影だけが残っているだけだ。
そしてダンジョンの天井と床が溶けてなくなっていた。
「こんなのあり得ない。最上級魔法を使える魔法剣士なんて聞いたことない」
「目の前にいるんだから仕方ないだろう。現実を認めろよ。それにしても予想をはるかに上回る威力だな」
そう言いながら、カナトは床の穴を見下ろす。床は蒸発してどこまでも深く穴は続いている。
このまま階層を歩いて地下階層へ降りていくよりも、この穴を利用したほうが近道になりそうだ。
カナトはナナとミディの腰に両手で抱いて、一気に穴の中へと飛びこだ。
「キャ―――」
「そういうことは相談するのじゃ―――」
『魔素よ。3人を浮遊させろ』
自由落下が急に減速して、穴の中をゆっくりと3人は落ちていく。
穴は何階層も蒸発していた。穴の上部を見ると、上の階層も蒸発している。
やっと床に着陸すると、ナナとミディは腰を抜かしている。
この階層には、洞窟のように光る苔や花などが咲いていない。本当の暗闇だ。
ミディが怯えて、ナナにしがみついている。
「ここは階層主の階層です。地下階層6階です。私も来たことがありません」
カナトは身体強化をして、目に魔力を集中させる。
すると今まで見えなかった暗闇が、昼間のように見える。
夜目が効くようになった。
「ゴァァアア―――」
近くで地響きのような咆哮が聞こえる。
ドスン、ドスンと地面が揺れる。
目の前に10mを超える単眼の巨人サイクロプスが姿を現した。
「これは倒しがいがありそうだ」
カナトは柄を握ってヒート剣を構えて、ニヤリと笑った。




