26話 剣神ジブリル
「ようこそ創造神様、隣の者は誰でしょうか?」
金髪のイケメン。細マッチョの体に高価な鎧が似合っている。
金髪に青い目、そして甘いマスク。
女性ならば誰でも惹きつけられるだろう端正な顔立ちだ。
「この者はカナト。我の守護神じゃ」
「いけませんね。創造神様に悪い虫がついてはいけません。私が排除いたしましょう」
まだ話してもいないのに、剣神ジブリルはいきなりカナトの排除を決定する。
剣神は全く負ける要素など考えてもいないらしく、余裕の表情で微笑んでいる。
「少し待ってくれないか。守護神になって、まだ1か月ほどしか経っていないんだ。剣術【j】も知らないんだよ」
「このカルデナ世界にいるのに剣術を知らないとは、どこの田舎神だ。それでは勝負にならないだろう」
「だから待ってくれと言っている。俺は戦いに来た訳じゃない。ナナのお供で一緒に来ただけだ」
「剣神を前にして、剣術を知らないと言った者は初めてだ……私が稽古をつけてやろう。強くなったら勝負だ」
剣術に強くなったところで剣術の神に勝てるわけがないだろう。
しかし、ジブリルの顔は爽やかに微笑んでいる。
全く人の話を聞かないタイプのように見える。
ナナも複雑そうな顔をして、ジブリルを見ている。
「さあ……私と一緒に剣術修行をして、いい汗をかいて、良い運動をして、腕を磨こうではないか」
カナトの肩に手を置いて、目をキラキラと輝かせている。
ジブリルは本気だ。
ナナは諦めたようにため息をついたまま、一言も話そうとはしない。
「ナナ、頼むから助けてくれ。俺の気持ちをジブリルに伝えてくれ」
「諦めよ。ジブリルはああなると人の話を全く聞かん。諦めて修行でしごかれてくるがよい」
「まずは剣の振り方から教える。剣神が一から教えることは珍しいことだぞ。嬉しく思え」
ジブリルは自慢気に剣を抜いて、大上段から剣を振り下ろす。
早すぎて、全く剣筋が見えない。
さすがは剣神だ。
仕方なくカナトも自分の剣を抜いて、大上段から剣を振るう。
「ダメだ。ダメだ。筋肉の使い方が全くできていない。流れるように筋肉が動かなければ、良い剣筋は生まれない」
そう言って、ジブリルはカナトの体の後ろに回って、カナトの体を包むようにしながら、カナトの剣を一緒につかんで、剣の振り下ろし方をゆっくりと教える。
男性に後ろから抱きしめられているようで気持ちが悪い。
しかし、ジブリルは何も気にしていないようだ。
ナナは口に手を当てて、必死に笑いを堪えている。
神界にいる時からナナはジブリルの性格を知っていたはずだ。
こうなることも予測して、カナトに何も説明しなかったのだろう。
この真っ白な空間には時間が流れている様子がない。
ジブリルが作り出した空間なのだろう。
カナトとジブリルは、まるで社交ダンスを踊っているように、体を密着させてカナトの剣を振るう。
ジブリルは実に楽しそうに颯爽と微笑んでいる。
初めは気持ち悪かったカナトも段々と慣れてきた。
今では剣を振ることに集中している。
ジブリルが体を操作してくれるので、剣を振るうのに迷いはない。
ジブリルは色々な動作や型で、カナトの体を通して剣を振っていく。
時間が止まっているのでわからないが、ジブリルのレッスンは何十時間にも及んだ。
半神の体のせいなのか、時間が止まっているからなのか、わからないが、体は全く疲れない。
ずいぶん動作も型も体に馴染んできた。
ナナは見飽きたらしく、体を丸くして寝息をたてている。
ジブリルと対戦しないといけないのに、安心しきっているようだ。
「これから組み手を始める。手加減して誘導してやるから、思い切りぶつかって来い。胸を貸してやる」
カナトは剣を握って、素早く、小振りに剣を振るう。
ジブリルはカナトの剣を誘導するように、剣を受け流していく。
ジブリルから教えてもらった技術で、あらゆる型でジブリルに挑むが、ジブリルは余裕で受け流す。
カナトが油断をしていると、ジブリルの拳や蹴りがカナトを襲う。
一瞬の油断もできない。
また何十時間も経ったような気がする。
正確にはどれだけの時間が経過しているのかわからない。
ナナが目覚めて、大きなあくびをして、体を伸ばしている。
「ジブリルよ。カナトは少しは強くなったか? ジブリルと対戦できるようになったか?」
「そうだな……確かにカナトは強くなった。しかし私と対戦するほど強くない。残念ながら今回は対戦はできない」
「ジブリルよ……楽しい時間であったか?」
「ああ……久しぶりに他人に剣を教えた。実に楽しかった。カナトを連れてきてくれたことに礼をいう」
初めに話していた方向と、話がズレている。
それなのにジブリルは気づいた様子もない。
カナトに稽古をつけられたことを喜んでいる。
「剣神の私が直々に剣を教えたのだ……カナトよ、強くなれ。私に挑むほどに強くなることを、私は望んでまっている」
「あ……ありがとうございました」
ジブリルに剣を教えてもらったのは事実。ここは平和的にお礼を言っておこう。
「用があれば、いつでも遊びに来い。カナトは私の弟子も同然だ。いつでも相手になってやる」
ジブリルは爽やかな笑みを浮かべて、髪をかきあげる。
そんなジブリにナナが問いかける。
「それは我の仲間になってくれるということか?」
「弟子が創造神様の守護神をしているのは、私の誉れだ。私は創造神様の味方になる。弟子を裏切ることはできない」
いつの間にかカナトはジブリルの直弟子になっていた。
最初の対決の話など、既になかったことになっている。
稽古をしている間にジブリルの気持ちが変わったようだ。
「アストールの街にいる間、稽古に来るんだぞ。もし稽古に来なければ私から、カナトを迎えにいくからな」
そういって、ジブリルは爽やかに手を振る。
すると目がぐるぐると回って、平衡感覚が失われて倒れかける。
気が付くと暗闇の神殿の中でナナと2人だけになっていた。
「ジブリルは気分屋なのじゃ。それに忘れっぽい癖を持っている。本当の剣術バカなのじゃ」
あれは確かに脳筋の剣術バカだ。
しかし、単純で気持ちの良い性格をしていると思う。
ジブリルのおかげで剣術にも少しは自信がついた。
また暇な時に会いにいこうとカナトは思った。




