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20話 リグル村、最後の夜

 行商人とカールストンの街へ向かうのは明日の朝と決まった。

その間に服屋に行って、カナトは新しいシャツのズボンを買う。



「カナトに選んでほしい」


「俺には美的センスはないんだけど……ナナは美少女だから何でも可愛く着こなしてしまうだろう。わかった……俺が選ぶよ」



 そしてカナトが選び、ナナは普段着ように薄ピンク色のワンピースを買い、髪を束ねるのに髪留めのアクセサリーを買った。

試着室で着替えたナナはまるで妖精のように美しくてきれいで可愛かった。

やはり美少女は何を着て様になる。

改めて、カナトは美少女の希少価値を知った。


 そして、防具屋へ行って、フード付きの外套をカナトとナナの2人分を購入する。

毎回、戦いの後に『修復』の魔法を使っていたので、ナナの神官のような服もカナトの防具も新品同様だ。

よって防具を買いなおす必要はなかった。


 しかし、ナナの白髪は目立つし、カナトの黒髪も目立つ。

ローグライク王国では白髪の人も黒髪の人も少ない。

それにナナは絶世の美少女だ。

誰かに狙われる可能性もある。

これからリグルの村よりも大きな街へ行く。

どんな者達がいるかわからない。

用心をしていたほうが良いだろう。


 武器屋へ行って、折れた剣のかわりになる鋼鉄の剣を購入する。

腰に折れた2つも剣も帯びているので、一見すると二刀流使いのように見える。

折れた剣は柄だけが残っているだけで、普通には役に立たないが、『ヒート剣』を使うことができる。

だからそのまま柄だけを鞘に差している。


 ナナは今まで何も武器らしいものを持っていなかった。

一応、人間の世界では回復師と名乗っている。

魔法の杖だけでも持っておいたほうが、それらしく見える。

ナナは魔石が大きくてキラキラと輝いている、魔法の杖を選んだ。

少し高額だったが、今のカナト達なら余裕で買える額だ。

支払いを済ませて、魔法の杖を持ってナナは上機嫌だ。

神殿へ行き、クッカにリグルの村を出ることを伝える。



「おいらも行きたいけど……おいらはこの村の守り神だから、一緒には行けない。カナト、創造神様、ナナのことをよろしく頼むね。時々は遊びに来てね」



 クッカはいつものように笑顔で握手をして、いつものように神殿で別れた。


 神殿から戻って、『水熊の宿』のルーナにリグル村を出ることを伝える。

ルーナは少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐにいつもの笑顔で見送ってくれるという。

冒険者がどこかへ出発するのは仕方のないことだと自覚しているようだ。



「冒険者って1つの村や街でジッとしていられない人種なのよね」



 呆れたような、諦めているような顔でルーナは言う。



「カナト…ナナ…リグル村のことは忘れないでね。まだ魔峰の頂にも行っていないんだから。またリグル村に遊びに来て。その時は『水熊の宿』をよろしくね」


「ああ……必ず、また来るよ。その時はよろしく頼む」



 簡単な挨拶だが、ルーナとの挨拶はこれで十分に通じる。


 自室の部屋へ戻って、武具と防具を外して、ベッドに横たわる。

これからの行動について考える。

リグル村にいて、魔巣の森や草原で冒険者として狩りをしていても良かった。

しかし、この村に来てから、クッカの協力もあり、剣術も少しだけ磨きが入り、魔法もそれなりに使えるようになった。

リグル村の人々はとても暖かく、良い人達ばかりだった。


 カナトがナナを守るための守護神だ。

守護神の務めを率先して果たそうと思っているわけではない。

しかし、超絶美少女で人間の世界に無知なナナを、このまま放置できない。

ナナも懐いてくれているし、とても愛らしい。

そんなナナを放っておくことなどできない。


 あまり深刻に考えないようにしている。

考えても答えは出ないから。

リグル村を出たら、カールストンの街だ。

カールストンの街は辺境の中でも大きな城壁都市だと聞いている。

カールストンで、どのようなことが起こるかわからないが、この世界の大きな都市には興味がある。

先のことはわからないが。

ナナと2人で仲良く旅していけば、何か見つかるかもしれない。

目を閉じて、少しウツラウツラしながら、そんなことを考える。


 部屋の扉が開いて、ナナがベッドの中へもぐりこんでくる。

そして、カナトのシャツにしがみつくようにして、カナトの体をギュッと抱いてくる。

カナトはナナの背中を優しくなでる。

こんな可愛い子を1人にできないなと思う。



「カナト…もうすぐ夕飯なのじゃ。1階へ行こう。我は人族の料理が大好きなのじゃ」


「ああ……今日の料理は何かな? ルーナのお母さんの料理は美味いからな」



 2人はベッドから起きると、手をつないで1階へ向かう。

1階の食堂には『疾風の刃』の3人がテーブルに座ってカナトとナナを呼ぶ。

既に『疾風の風』の3人はエール酒を飲んで、ほろ酔い状態だ。

テーブルに座ると、ルーナが夕飯を運んできてくれる。

今日の料理はハンバーグとソウセイジだ

ナナとカナトの前にもエール酒が置かれる。



『魔素よ。エール酒を冷やせ』



 いつもの調子でカナトがエール酒を魔法でキンキンに冷やす。

そして、カナトとナナは樽を持って一気にエール酒を飲む。



「カナト? なぜエール酒に魔法をかけてるのさ?」


「ああ……エール酒は冷やしてあるほうが美味しいんだ」


「そんなこと、あたい達はカナトから聞いてないよ」


「エール酒について話したのは初めてだからな」


「私達のエール酒にも魔法をかけてよ。本当に美味しいか、飲み比べるから」



 リアンナが強引にカナトへ魔法をかけるように強要する。

別に隠しているつもりもなかったので、カナトは魔法でエール酒をキンキンに冷やす。

リアンナ、メリッサ、エルスの3人はエール酒を一気に飲む。



「プハー……本当に美味しいわ。ぬるい時と全然、味が違う。カナトとナナだけズルいよ」


「我はズルくないのじゃ。知っていたのはカナトだからのう」



 ナナは自然な感じで、カナトに全ての責任を負わせた。

『疾風の刃』の3人は、もっと早くに教えてほしかったと文句をいう。

『疾風の刃』の3人と一緒の時は、魔巣の森まで旅していたからエール酒を飲んでいない。

だから説明していなかっただけだ。



「あたいにも魔力はあるんだ。魔法の修行をして初歩魔法だけでも使えるようになって、美味しいエール酒を毎日、飲んでやる」



 魔法の修行をする目的が、冷えて美味しいエール酒を飲むためとは……魔法に謝れと言いたい。

しかしリアンナの目は真剣だ。

リアンナが本気を出せば初級魔法ぐらいなら習得するかもしれない。



「リアンナには負けないわ。魔法のことだったら私のほうが得意なはずよ。私も修行をしてみるわ」



 エルスまでやる気になっている。



「美味い酒のためだ。私も修行するしかあるまい」



 メリッサも酒のためなら修行をすると言い出す……そういえばメリッサはドワーフだった。

明日から魔法の修行を始めると『疾風の刃』の3人は心に誓っていた。

美味しく冷えたエール酒の魅力に、3人の心が1つになっている。



「今日は俺が全員のエール酒を冷やしてやるから、楽しく飲んでくれ」


「「「やったー」」」



 リアンナ、メリッサ、エルスの3人はテーブルに座ったまま眠るまでエール酒を飲んでいた。

ルーナが呆れた顔で3人を見ている。

リグル村での最後の夜は、印象に残る夜となった。

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