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16話 迷い人

 10体以上のオークを倒したので、その中から1体を取り出して、クッカと一緒に解体をする。

魔獣の解体作業は、何度しても慣れない。

気持ちが悪い。

しかし、この世界で生きていく以上、解体作業を覚えておくことは必要だとクッカは言う。


 テントを設営して、ナナが生活魔法を使って炎を起こして枯れ枝を積んで焚き木積んでいく。

解体した肉塊は、一口サイズに切り分けて、香辛料をかけて、こうばしく焼き上げていく。

水はナナが生活魔法から水を出して、それぞれの水筒に水を入れて、皆は嬉しそうに喉を潤す。

その間もテントと焚き木の周辺は魔素によって結界を張ってもらっている。


 オークの肉を食べると、肉汁が口の中に広がり、肉が蕩けるように口の中でなくなっていく。

今までの草原で食べていた魔獣の肉と大違いだ。

皆の食欲も旺盛で、食事はあっという間に終わった。


「やっと魔巣の森に来たのね。この森での狩りの証拠を持って、冒険者ギルドへ行けばDランク冒険者へ昇格ね。やっと二流冒険者と認められるわ」


 リアンナが嬉しそうに水筒から水を飲みながら話す。


「私はリグルの村よりも、もっと小さくて貧しい村の出身なの。今は魔獣達に襲われてもうその村はないわ」


 リアンナが早く冒険者ランクを上げたかったのには、そういう訳があったのか。


「小さい頃から魔獣達に追われる毎日だった。いつか冒険者になって魔獣達を倒す側になろうって心に決めて生きてきたわ。やっとこれで前に進めるわ。カナト達皆、ありがとう」


 お礼を言われてもカナトは何と言っていいのかわからなかった。

クッカは気配を消して、いないフリをしている。


「私の村も同じようなものだ。鍛冶師が多いドワーフの村で暮らしておったが、鍛冶をするよりも魔獣退治をしている時間のほうが長かったような気がする。早く一流の冒険者になって、街で鍛冶工房を持つのが夢だ」


 メリッサも少しの過去と、自分の夢を語り始めた。


「私は魔峰の頂にある世界樹の近くの里が出身なの。大人のエルフになるには魔獣討伐を成功させなければ認めてもらえない。だから私は冒険者になった。魔獣討伐ができるようになったら里に帰るわ」


 あまり話さないエルスも、自分の未来について語る。

そして3人は同時にカナトを見る。

カナトは自分の夢とは何かと考える。


 異世界に来てから必死で毎日を暮らしてきた。

必死でこの世界に馴染もうと頑張っている。

しかし夢と言われると、自分には将来に対する夢がないことを実感する。

まだ夢を見られるほど、心に余裕がない。

そんなカナトの心を見透かしたのか、ナナが語り始めた。


「カナトは迷い人なんじゃよ」


「「「迷い人」」」


「そうじゃ。異世界からの迷い人なのじゃ。だからカルデナ世界のことも、コーデリア大陸ことも、ローグライク王国のことも知らん。魔法を使えるようになったのも最近なのじゃ」


「伝説や噂では聞いたことはあったけど……本物の迷い人に会ったのは初めてだわ」


「我が草原で倒れている所を偶然にカナトが通りがかってな。それから我と2人で宿で暮らしていたというわけじゃ」


「どうしてナナは草原なんかで倒れていたの?」


「それが我にも、よくわからんのじゃ。我は昔からの知り合いのクッカに会いに行く途中じゃった。草原で魔獣に襲われかけている時にカナトに救われたのじゃ」


 ナナはなるべくリアンナ達に理解してもらえるように、嘘の話を続けていく。

しかし、リアンナ達は気づかずにナナの話を真剣に聞き入っている。


「我には多くの知り合いがいるが、今は世界に散らばってしまって、行方がわからぬ者達も多い。我の望みはその者達と合流することじゃ。できるだけ多くの仲間と連携したいと思っている。そのためにはカナトの協力が必要なのじゃ」


 そんな話はカナトも初めて聞いた。これはナナの本心のようだ。

これから先の未来は、行方不明になっている神々に会いにいく旅を続けるということになるだろう。


「どうせ、行くあてもない……できるだけナナの手伝いをするさ」


 カナトがそういうと、ナナは嬉しそうに穏やかに微笑んだ。


「魔巣の森の冒険が終わったら、辺境の街カールストンへ行くのじゃ」


「リグル村から一番近い、辺境の街ね。あの街には小さいけどダンジョンもあると聞いているわ。私もC級冒険者になったら、カールストンの街へ行くつもりなの。それまでここで腕を磨くつもり」


「カールストンの街は鍛冶工房が多いことでも有名だ。鍛冶の街とも呼ばれている。私も鍛冶の腕を磨きたいな」


「私もダンジョンには興味があります」


 リアンナ、メリッサ、エルスの3人もカールストンの街へ興味を持っているようだ。

3人と雑談をしているうちに夜が更けていく。

リアンナ、メリッサ、エルスの3人はカナトに夜の監視を任せてテントへと戻っていった。


 カナトは身近な木に体を持たれかけて、仮眠をとる。

カナトに膝枕をしてもらってナナは安らかな寝息を立てる。


「神界が崩壊してから、魔獣の凶暴化が進んでいるようだね。神の神威がなくなったから仕方ないけど」


 クッカが寝転がりながら、他人事のように呟く。


「神威がなくなればどうなるんだ?」


「魔族が復活してくるかもしれないね。元々、魔獣達は魔族の支配下の者達だからね」


「神の次は魔族か……本当に異世界なんだな」


「創造神様の守護神になったんだから、カナトは絶対に巻き込まれる。今から力をつけておかないと途中で倒されてしまうよ。早く強くなっておくことだね」


 今まででも幸運で生きてこれたようなモノなのに……これ以上の力が必要なのか。

カナトは内心でため息をついた。


《カナト様には我々、魔素も従ってまいります。そう落ち込まないでください》


 魔素にまで元気づけられてしまった。

カナト達がのんびりと野営をしている姿を、少し遠くから魔獣達が狙っている気配がする。

結界に守られているから安心していられるが、普通に野営をしていたら危ない所だろう。

闇夜の中でカナト達をジッと見つめている2つの目がランランと光り輝く。

16話を追加いたしました。何卒、よろしくお願いいたします。

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