表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/43

14話 草トカゲ

 夕陽が差す頃に初めての草トカゲとでくわした。


 体長は尻尾までの長さをいれると5mほどあり、亜竜の一種と言われるだけのことはある。

強靭なあごを持っていて、口の大きさだけで1mはありそうだ。

口の中には鋭い牙が並んでいる。

しかし外観は大型のワニとたいして変わらない。


 前足と後ろ足は短く、前後に動くのは得意そうだが、左右に動くのは苦手そうだ。

用心しなければいけないのは、強力な尻尾の攻撃だ。

身体強化をしていなければ、尻尾の一撃で簡単に人を倒すことができそうだ。


 リアンナ達もDランク冒険者だけあって、身体強化はできている。

危ないのはナナだけだ。

ナナはいつものように魔素に結界を張ってもらって守ってもらう。


 リアンナとエルスが言っていた通り、リアンナの剣もエルスの矢も草トカゲのウロコを傷つけることもできない

クッカの鋭い短剣の一撃もウロコを貫通するだけで致命傷にはならなかった。


カナトも試しに草トカゲの体に剣を突きさすが、ウロコを傷つけるだけで致命傷にはいたらない。

1体の草トカゲに手を焼いている間に、草トカゲ達が集まってきてしまった。


「カナト……魔法でなんとかならないのかい」


 炎系の魔法で焼き払ってしまうのが、一番効率的だが、草原では炎系の魔法は使えない。


『魔素よ。敵対するモノを風の刃で斬り裂け』


 複数の風の刃が草トカゲに飛んでいく。

草トカゲのウロコを斬り裂いて、皮膚と肉を斬り裂くが致命傷を与えることができない。


 その間にも草トカゲの数は増えていく一方だ。


「魔素? どうすればいい?」


《ここは一旦、風の竜巻を作って、対象物を空高くまで放り投げてしまいまっしょう。包囲されても厄介なだけです》


 確かに魔素の言うとおりだ。これ以上、草トカゲに増えられても困る。


「早くしておくれ。もう保てないよ」


 メリッサが大声で叫ぶ。

メリッサが大楯を持って、草トカゲをけん制しているが、数が多すぎる。

クッカは近寄ってきた草トカゲの尻尾をつかんで、振り回して遠くへと放り投げている。


『魔素よ。草トカゲ共を取り巻いて、風の竜巻で大空へ吹き飛ばせ』


 カナトが魔素に言われた通りに詠唱する。、

草トカゲ達の周りに竜巻が起こり、草トカゲ達のほとんどは大空高く舞い上がる。

見えないほどの上空へと竜巻によって放り投げられた。


 これで当面の危機は去ったと安堵しているとリアンナとメリッサから不満の声が発せられる。


「あれだけ苦労したのに、草トカゲの魔石の1つも取り出せなかったじゃないか。それに草トカゲは食べると美

味い食材なんだぞ。今日の夕食の肉はどうするのさ」


 確かにあれだけ頑張ったのに、何の成果もあげられなければ、怒りたくもなるだろう。


「草トカゲに囲まれているから、どうにかしろと言われたから、大空へ放り投げたんだ。仕方ないだろう」


「確かにそのことは助かった。でも1匹ぐらいは残しておいてほしかったよ」


「今度から、そうするから、あまり怒らないでくれ。俺も初めて使った魔法だったから加減がわからなかったんだ」


 2人は不満声をもらしているが、エルスだけは小さく拍手をしている。


「あれだけの草トカゲに囲まれていては、私達の命も危なかったでしょう。私の風の刃でも草トカゲに致命傷

を与えることができません。今の魔法が最善でしょう。初めて使用したとは思えませんでした」


 美女のエルスに褒められると、それだけで顔が熱くなり、自分の顔が赤くなるのがわかる。

その様子を見ていて、リアンナとメリッサの機嫌がもっと悪くなったことには気づかなかった。

そして、背中に悪寒を感じて振り返ると、少し離れた場所から、ナナが不機嫌な目でジッとカナトを見ている。


「カナトも色々と大変なんだね」


 クッカはカナトの隣に並んで立つと、カナトの肩をポンポンと叩いて、ニヤリと笑っている。

カナトは肩を落として、俯くしかなかった。


 草原を1時間ほど歩いて行くと、また草トカゲが現れた。

メリッサが戦斧を手に先頭に立って、草トカゲに挑んでいく。

ウロコを斬り飛ばすが、固い皮膚を破るだけで筋肉を断ち切りるまでにいたらない。


 怒った草トカゲが体を回転させて、大きな尻尾でメリッサをなぎ飛ばす。

メリッサは身体強化をしているので、大した怪我ではないだろう。

草原の中を遠くまで飛ばされていった。

エルスが素早く弓に矢を番えて、カナトに声を上げる。


「カナト。私の矢に風の刃を付与してください」


 なるほど、矢に風の刃を付与すれば、草トカゲのウロコを貫通することもできる。


『魔素よ。エルスの矢に風の刃を付与せよ』


 エルスの矢に風の刃が付与される。

そしてエルスが矢を放つと、狙い通り草トカゲの目に矢が突き刺さる。

そこで矢は威力を失って止まってしまった。

しかし片目を潰したことは大きい。


 もしかすると自分の剣にも風の刃を付与することができるのではないか。

ふとカナトの頭の中に考えが過る。


『魔素よ。俺の剣に風の刃を付与せよ』


 剣の周りに風が竜巻、風の刃が付与される。

カナトは草トカゲの首めがけて駆け走り、飛び込んで剣で草トカゲの首を斬り飛ばす。

草トカゲの首は風の刃の効力で、ウロコも皮膚も筋肉も簡単に斬り裂いた。

周りに斬り裂いた肉片が飛び散り、血をまき散らすのが欠点だが、草トカゲを屠ったことには変わりはない。


 しかし、カナトの剣はボロボロと崩れ、柄だけになってしまった。

風の刃の付与に剣の強度が足りなかったらしい。


「ミスリル加工もされていない剣に魔法を付与するなんて無茶したね。剣がダメになるはずだよ」


 リアンナは柄だけになったカナトの剣を見て、呆れたような顔をしている。

クッカは何も言わずに短剣で草トカゲを丁寧に解体して肉の塊を取り出している。

これで夕飯の肉を手にいれることができたが、たった1本しか持っていない剣を失ったことは痛かった。


 メリッサが肩に手を当てながら、走って戻ってきた。

どうも肩を怪我したようだ。

ナナがヒールをかけて、メリッサの肩の治療にあたっている。

リアンナ達にはナナは回復師だと紹介しているので、ナナに任せている。


 草原が暗闇に包まれて夜となった。

皆で草トカゲの肉を食べて、就寝に入る。

カナトは昨日と同様に深夜の警備にあたる。

いつものようにクッカとナナがカナトと一緒に警備をする。

夜空には満天の星空が広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ