11話 野営準備
カナト達と冒険者達との様子を見ていたセリルが受付カウンターから出てきた。
カナト達と冒険者達の間に立つ。
セリルはとてもスタイルが良く、立ち姿もきれいだなとカナトは密かに思った。
「皆さん、ギルド内での暴力行為は禁止されています。両者共に、これ以上の暴力を行うなら、その者は全員、冒険者の資格をはく奪いたします」
セリルの甘い声がギルド内に響きわたる。
誰も冒険者をやめたいと思っている者はこの場にはいない。
素直にセリルの言葉を受け入れる。
「カナトもやりすぎです。天井に貼り付けたら、後から助けるのが大変じゃないですか。もう少し、手加減をしてください」
怒られる所はそこか?
セリルも男性冒険者の行動には、怒りを感じていたので、カナト達の行動はおとがめなしとなった。
ひげ面の男性冒険者は、仲間達によって天井から助けられている。
ひげ面の男性冒険者と一緒のパーティの一員が、怯えるようにクッカの短剣を集めて返してきた。
これで、カナト達をバカにする冒険者達はいなくなるだろう。
「あ…ありがとうな。カナトって強いんだな。あたい達もゴブリン野郎って言ってバカにしてた。本当にゴメン」
「それはいい……体を慣らすために草原でだけで狩りをしていたのは確かだからな。それに他人にどう思われようと俺は気にしない」
「あたいはリアンナっていうんだ。これからは気軽に名前で呼んでくれ。私もカナトと呼ぶから」
「ああ…リアンナよろしくな。他の仲間達はどうしたんだ? 食堂にいないようだが?」
「今、ギルドにいるのはあたいだけだよ。魔巣の森へ行くパーティを探していたのさ。もちろんカナトは引き受けてくれるんだろう?」
そういえば、魔巣の森へ行くことについて、ナナとクッカに相談していなかった。
カナトは振り返ってナナとクッカの2人を見る。
「草原での訓練では、カナトも慣れてきているようじゃし、場所を変えても良いだろう」
「魔巣の森か。懐かしいな。あそこは色々な魔獣がいて楽しい場所だよ。おいらも行きたいな」
2人から異論の声は聞こえてこない。
魔巣の森へ行ってもいいということだろう。
魔巣の森……強力な魔獣がいるのは怖いが、自分がどこまで強くなっているのか、カナトにも興味があった。
クッカは魔巣の森に行けることが、とても嬉しそうだ。
いつもよりも浮かれたように微笑んでいる。
「俺の仲間からも異論はない。魔巣の森へ一緒に行こう。明日の朝に魔巣の森へ行くことでかまわないか?」
「あたい達はそれでかまわないよ。あたい達は水熊の宿に泊まっているんだ。朝に宿で集合でいい?」
「ああ…俺達も『水熊の宿』に泊まっているから問題ない」
「わかった。今から宿へ戻って仲間へ伝えてくるよ……引き受けてくれてありがとう」
そう言って、リアンナは冒険者ギルドの中を足早に歩いて去っていった。
セリルに先ほどの一件を謝罪しておく。セリルは優しく微笑んで頷いた。
カナト達3人も冒険者ギルドを出る。
クッカは明日の朝、水熊の宿で待ち合わせすることを約束して、そのまま神殿へと帰っていった。
カナトとナナは大通りを歩いて水熊の宿の方向へ歩いていく。
途中で道具屋の前を通った。
魔巣の森へ行けば、数日間は戻ってこられない。
その間の荷物を用意する必要がある。
「少し、道具屋に寄ってもいいか?」
「何を買うのじゃ?」
「魔巣の森へ行くための用意を少し買っておきたいんだ」
そう言いながら、ナナを連れてカナトは道具屋の中へと入っていく。
中には大柄なスキンヘッドの親父が不愛想に立って、カナト達を見ている。
たぶん道具屋の主だろう。
野宿をするのだから、寝袋ぐらいはほしいが、寝袋など売っているのだろうか?
店の中を探しても、寝袋らしいモノは売られていなかった。
「あの……すみません。魔巣の森へ行きたいんだけど……野営の道具を教えてもらえないですか?」
仕方なく、不愛想なスキンヘッドの店主へ声をかける。
スキンヘッドの店主は何も言わずに、カウンターから出てくる
すると、まずは大きなリュックを2つ持ってきた。
そして、魔道具である、ランタンのような魔石灯をカウンターに置く。
確かに夜に明かりは必要だ。
骨組みの太い、テントを店の奥から持ってきてくれた。
野宿よりもテントがあったほうが助かる。
魔石で着火するライターのようなものを持ってきてくれたが、これは魔法でなんとかできるので却下だ。
分厚い毛布のような敷物を持ってきてくれた。
これが寝袋の代わりのようだ。
後は、鍋と木の食器類を持ってきてくれる。
カナトが思っていたよりも大変な量だ。
食器類と毛布はクッカの分もいれると3組必要だ。
店主に3人で旅をすることを伝える。
香辛料の瓶も何種類も用意してくれる。
これは長旅にはありがたい。
店主は手慣れた手つきで、3人分の荷物を用意してカウンターの上に並べていく。
「幾らですか?」
「金貨7枚」
相場がわからないので、スキンヘッドの店主のいう通りに金貨を7枚渡して支払いを済ませる。
スキンヘッドの店主は無口だが、良い人のようで、
大きなリュクの中へ、買った品物を詰めるのを手伝ってくれた。
大きいと思っていた2つのリュックがパンパンにはじけそうになっている。
魔力で身体を強化して、2つのリュックをカナト1人で背負いこむ。
身体強化をしていなければ、リュックの重量だけで、持ち運ぶことも無理だっただろう。
道具屋を出て、ナナと手をつないで大通りを歩く。
2つの大きなリュックを背負っているだけに目立つ。
『水熊の宿』へ着いた時に、荷物の多さにルーナにも驚かれてしまった。