10話 冒険者ギルドでの騒動
クッカとの草原での訓練は1週間以上続いた。
そのおかげで冒険者ギルドでは、ゴブリンしか倒せない臆病者と呼ばれるようになってしまった。
しかし、毎日、持ち込まれる魔石の量は200個を超え、セリルはそのことを褒めてくれた。
しかし、さすがにゴブリン討伐とガルム討伐だけでは冒険者ランクを上げることができずEランクのままでいる。
草原で魔法の訓練を始めてからわかったことだが、カナトの初級魔法は全て中級魔法を超えるほどの威力があることがわかった。
それに魔素に命令するだけなので、声に出す必要もない。
頭の中で魔素に命令するだけで魔法が使えることも発見した。
カナトは考えるだけで無詠唱で魔法を発動することができるということだ。
これは神の中でも特殊な部類に入るとナナが教えてくれた。
さすがに乾燥して乾いた草原の中では、炎系の魔法を試すことができず、炎系の魔法の練習はしていない。
それと、誰も怪我をしたことがないので、カナトは白魔法の回復系魔法が使えるかどうかは不明である。
魔素自身が意思を持っているので、魔素に命令したまま、自分は他の魔法も使える利点にも気づいた。
カナトも魔獣を倒すことに慣れてきて、倒す度に胃液を吐く癖が治った。
それだけ、この世界に慣れてきたということだろう。
今日もナナとクッカと草原での成果を持って、冒険者ギルドの扉をくぐって、受付カウンターへ向かう。
セリルはいつものように受付カウンターで手を振って、カナト達の帰りを歓迎してくれた。
「今日もご苦労様です。草原での狩りはどうでしたか?」
「もう、草原での狩りには飽きてきたぐらいだよ。順調すぎて、次のステップへ向かってもいいかもと思っている」
「冒険者ランクでは、Eランクですので、Cランクまでの依頼を引き受けることができます。ですから、魔巣の森への依頼も受けることもできますが……ランク的には危険が生じる可能性がありますね」
「ああ……最近は調子がいい……それに魔法を少し使えるようになった」
「それは冒険者として協力な武器になりますね。カナトは魔法戦士の素質があったのですね。将来が有望です」
セリルは自分のことのように喜んで小さく拍手する。
「おーい。ゴブリン狩りのカナトが魔法剣士だとよ」
食堂でエール酒を飲んでいた冒険者達の誰かが、大声でカナトを罵倒する。
その声を聞いて、食堂にいたベテラン冒険者達が大声で笑う。
カナトはその声や笑い声を無視して、交換所へ歩いていって、魔石と硬貨を交換する。
今日も金貨10枚以上と交換する。
これだけあれば、明日には新しい防具や用具を買いそろえられるだろう。
この1週間でカナトの懐は徐々にではあるが温かくなっている。
「ちょっとあんた、本当に剣術の他に魔法も使えるのかい?」
赤毛のショートヘアの女性が声をかけてきた。
いつも夜になると『水熊の宿』で夕食を食べている冒険者のパーティグループの1人だ。
「ああ……剣術よりも魔法のほうが得意なぐらいだ」
「それなら、あたい等のパーティと一緒に魔巣の森に挑戦してみないかい。あたい等のパーティは全員が女性だから、魔巣の森に行くには少しだけ、臆病になっていたんだけどさ。冒険がしたいんだよ」
「なぜ? 俺を選んだんだ?」
「だってあんたのパーティは全員が15歳ぐらいだし、ホビット族だし……大人の女性から見ると安心だからさ」
確かに赤毛の女性は、キリッとした眉をして、少し吊り上がった目じりだが、きれいな顔をしている。男性なら声をかけてきてもおかしくない。隙があれば襲おうとする冒険者の男性もいるだろう。
「そんなゴブリン狩りの小僧よりも、俺達が魔巣の森へ連れて行ってやるぞ。俺達は魔巣の森へ何度も行ったことがある。そして、この村に戻ってきている猛者だ。俺達について来いよ」
筋肉隆々で、無精ひげを生やした男性の冒険者がエール酒の樽を持って、赤毛の女性の肩に手を置く。
その顔は既ににやけていて、だらしない。
赤毛の女性が目的なことは一目でわかる。
「あたい達はあんた達とは組まないと言ってるだろう。少し、しつこ過ぎるよ」
「お前達は黙って、俺達の後をついてくればいいだよ。それだけで魔巣の森へ行けるんだから、皆で一緒に楽しめばいいじゃないか。少し顔がいいからって、お高くとまってるなよ」
嫌がる赤毛の女性の腕を強引にひげ面の男性がつかむ。
「嫌だって言ってるだろう。お断りだよ」
「この野郎、女だと思って優しくしていたら、つけあがりやがって」
ひげ面の男性は無理やり、赤毛の女性の腕をねじろうとする。
その時、カナトは考えるよりも前に体が動いた。
ひげ面の男性が赤毛の女性を握っている手を、強引に外して、体を張って赤毛の女性を守る体制になる。
「なんだ? ゴブリン野郎! 俺とやろうっていうのか。面白いじゃないか!」
『魔素よ風となって、この男を天井に張り付けろ』
カナトが唱えると、ひげ面の男性の周りに風が発生し、風が竜巻のように男性を包みこんで、男性の体は風によって浮かび上がり、天井に貼り付けになる。
「おいらも加勢するよ」
クッカが胸の短剣ホルダーから短剣を取り出して、次々と投擲する。
短剣はひげ面の男性の足や手、腰などの衣類に刺さり、男性を天井に縫いとめる。
「カナトに文句のある者はかかってくるが良いのじゃ。全員、今の男性のようにしてやるのじゃ。女性を強引に口説くなど最低じゃ。カナトもクッカも容赦する必要はないからのう。存分にやるがよい」
ナナも女性の扱いについて、怒っていたようで、カナトとクッカをあおる。
その言葉を聞いた冒険者達は、カナトを睨んでいたが、ひげ面の男性のようにはなりたくない。
よって、睨んでいるだけで、誰もカナト達に挑んでくる者はいなかった。
「おーい……俺が悪かった。助けてくれよ」
天井に貼り付けにされた男性が情けない声をあげる。